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■恋人じゃないです

「お姉さんは身体が弱いんだよ。馬鹿ウサギ」
「でかい図体で偉そうにするなよ。ひよこウサギ」
ディーとダムは、私と対照的に、エリオットさんの視線に動じることなく、堂々と
立ってます。ベッドの前に。私とエリオットさんの間に。
「ほう?じゃあ聞くが、おまえらは『ここで』何をしていた?」
すると双子はすっとぼけたように、
「お姉さんは体調が悪かったからね。僕らが看病してたんだ」
「僕ら、恋人に無理をさせる気はないんだよ」
……ツッコミどころ満載ですなあ。
「恋人?」
エリオットさんの長いお耳がピクッとする。
やはりそこを聞きとがめましたか。
そして連れ込み宿の内装を改めて見て、最後にベッドの私をじっと見ました。
私はベッドに横になっていて、多分、ちょっと疲れた顔になってます。
……完全にバレてますね。
「カイ……おまえ、こいつらが好きなのか?」
「もちろんだよ!お姉さんが大好きだよ!」
「僕ら、誠実な恋人になるんだからね!」
「おまえらに聞いてねえよ!俺はカイに聞いてるんだ!」
凶暴に怒鳴り、エリオットさんは改めて私を見る。
「あんたがガキどもを相手にするとは思えねえ……まさか、無理やりか?」
すると双子が初めて私を振り返る。どこか不安そうな目でした。
エリオットさんは私を勇気づけるように言います。
「隠さなくていい。ひどい目にあった方が、恥じる必要はどこにもねえんだ。
俺はこいつらをかばったりはしねえし、上司として、やるべきことをやる」

……私は三人の視線を受け、迷いました。
確かに、あれは合意と言いがたいことでした。
ここでうなずけば、今後は二人から解放されるのでしょうが……。

でも、私は首を左右に振って、否定しました。

『お姉さん!』
二人はパッと顔を輝かせました。対するエリオットさんは、まだ疑ってる顔で、
「報復が怖いなら、そんな心配はしなくていい。
ブラッドはあんたを気に入ってるし、俺だってついてる」
でも、私はやはり首を左右に振りました。
ディーとダムに対して、一線を引かなかった自分にも原因はあるんでしょう。
そう……思うことにしておきます。
『お姉さん!』
双子が、私にガバッと抱きついてくる。く、苦しい!!
「大好き!カイお姉さん、大好き!!両思いなんて嬉しいよ!」
「大事にするからね!ずっとずっと大事にするからね!」
……え?ちょっと待って下さい、二人とも。
――××を否定したのであって、恋人であることを肯定したわけではないんですが。
どうも発想の飛躍する子たちです。
そう思いながら、気がつくと双子の頭を撫でている自分がいました。
「なるほど……押されたんだな」
――あ、エリオットさん。ビンゴ!
思わず親指を立てると、エリオットさんはちょっと耳を垂らして、
「俺も狙ってたのになあ。何もこんなガキども……。
こんなことなら、先を越される前にやっとけば良かったぜ」
何だか不穏なことを仰る。ええと、私の聞き間違い、ですよね?
すると私に抱きつきながら、勝ち誇ったように双子が、
「悔しい?僕らだって、そう思ってお姉さんに恋人になってもらったんだから!」
「本当はデートとか、もっとしたかったのに、ひよこウサギのせいでさ」
……それ、私に手を出したのは、エリオットさんのせいだと言いたげですが。
「兄弟、これからデートをたくさんすればいいよ」
「そうだね。お姉さん、どこにデートに行きたい?」
「調子に乗ってるんじゃねえよ!!」
ゴツンとエリオットさんがディーとダムを殴り、襟首引っ張って私から引き離す。
「いったいな!何するんだよ、馬鹿ウサギ!」
「僕らからお姉さんを奪おうって言うなら容赦しないよ!!」
ベッドに立てかけた斧を取りに行こうとする二人に、
「カイが納得してるなら、カイの件についてはこれ以上言わねえ!
だが!俺が言ってるのは、屋敷を空けて、女と宿に入り浸ってたことだ!!
当分は休暇も給料もないと思え!色ガキどもが!!」
『えー!!』
と抗議の悲鳴を上げる双子。
そしてエリオットさんは私には困ったような笑顔を向け、
「あんたは……まあ、その……いろいろあったから、屋敷で休んでろよ?
いろいろまあ、キツイんだろ?」
ええ、その通り。コクンとうなずくと、
「カイに無理させてんじゃねえよ!!」
あああ!ま、またエリオットさんがゴツンゴツンと二人を殴りました。
「児童虐待だよ!ひよこウサギ!」
「いい気になるなよ、馬鹿ウサギ!!」
涙目で頭を押さえる双子に、
「うるせえ!どうせ勢い任せで、ろくにカイを休ませなかったんだろ?」
あー……実にその通りです。これもコクンとうなずいておく。
ああああ、ご、ゴツンゴツンゴツンと……!
『お姉さん〜……』
私が肯定するたびに双子が殴られる気がしました。
思わずベッドから出て、エリオットさんの前で両手を広げました。
――まあまあ、エリオットさん。そんなにこの子たちを怒らないで下さいよ。
確かに最初の頃こそ、子どもゆえの勢いと、考え無さはありました。
けど最近は、私が気持ちいいかどうか、気にかける余裕も出て、技術も少しは……。
……真っ昼間の時間帯から、何を考えてますか、私。

そんな私をじーっと見下ろし、
「カイ。前にも言ったが、こいつらは甘やかすとつけあがるぜ?
こいつらの女になるなら、首根っこ押さえつける気迫で行った方がいいぞ?」
――そ、そうですよね。やっぱり。
相手は子どもだもの。お姉さんとして、ある程度は強気に……。
――……て、ちょっと待って下さい。エリオットさん!!
確かに上手くしゃべれず、否定しませんでしたが……。

――わ、私が『双子の恋人』ということを認めちゃうんですか?

だって相手は子どもなのに?二人なのに?
「フラれたからって、ぴいぴいうるさいな、ひよこウサギ!!」
「お姉さんを泣かせたりしないよ!僕らはカイお姉さんの恋人なんだから!」
えー……私が泣くの、楽しんでたくせに?
でも私がかばったせいか、二人はがぜん強気になって、ウサギさんを挑発してます。
「本当に、甘やかさねえ方がいいぜ」
耳がちょっと垂れてるエリオットさんに、私もしみじみとうなずきました。

……いえ。だから、私は恋人じゃないですから!!


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