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■宵の月1

そして三人で泣き終わると、後には気恥ずかしい笑顔が残った。
「カイお姉さん」
「涙、拭いてあげるね」
目元をぬぐった二人が、猫みたいに私の涙をなめる。
また定番な……というか『拭いて』ないですし。
でも、やっと二人と会えたという思いで胸がいっぱい。
――休憩も終わりましたし、いい加減、帽子屋屋敷に帰りたいですね。
客室のベッドでぐーすか眠りたいもんです。
では返りましょう、と二人から離れようとすると、
「離さないよ」
「離れないって言ったでしょ?」
双子が私をギュッと抱きしめながら言った。
はあ、そうですか。二人とも眠いんですか?ならお泊まりですか?
私は可及的すみやかに了解し、目を閉じて眠ることにしました。
……が、すぐに違和感を抱き、私は目を開けました。
上と下に双子の顔が見える。

ええと、私の両手首をディーがまとめて押さえ、両足をダムが押さえています。

んで、ニヤニヤと私の反応を観察しています。
――何で私の両手両足を押さえますか?ええと、ね、眠いですなあ……。
双子は顔を見合わせ、ヒソヒソと、
「明かり、どうする?兄弟」
「お姉さんが落ち着かないみたいだしね。ベッドのランプだけでいいよ」
と、フッと部屋の明かりが消えた。
ベッドサイドの暖色のランプが光源となり、可愛い二人をおぼろげに照らしている。
私は展開が分からずもがく。すると、さらに上下から手足を強く押さえられた。
「お姉さん、落ちついて」
「優しくするから」
――ええ?ちょっと待ってください。まさか……!
「お姉さん、眠いなら寝ていてもいいよ」
「うんうん、寝られるものならね」
悪童どもがクスクス笑い合う声。こ、こいつら……。
私の額から、冷たい汗が一滴、流れました。

反省が見られないと思ってましたが、まさか再会した夜に『リベンジ』とは。
非常識にもほどがある……いえ、存在自体が非常識でしたが、この双子。
いやそういう話じゃない。でもやっぱりそういう話?
まずベッドがやけに大きい。受付は、客と宿の人が、顔を合わせない感じになって
いたし、ご飯を注文しても、宿の人は部屋の中まで、入ってこなかった。
……どうやら、それ専用の宿に連れ込まれたようで。
本当に、何つう恐ろしいガキどもですか。

「……お姉さん、怖い?」
腕を押さえるディーが、私の顔をのぞき込むようにする。
「お姉さん、僕らのこと、嫌いになった?」
嫌いになってはいないですが、呆れ果てたというか何というか。
どうにも危機感がわいてこないのは、状況の非現実さかもしれません。
子どもに××目的の宿に連れ込まれ、子どもに押し倒され、子どもに貞操を奪われ
ようとしている。しかもその子どもは二人。
――何というかこう、現実感がないんですよね……。
とはいえ、危機は危機です。抵抗しとかないと。
すると双子の真剣なまなざしと目が合う。
「カイお姉さん……ごめんなさい」
「でも、どうしてもお姉さんが欲しいんだ……他の奴らに取られる前に」
他の奴らに取られる?そういえば、この前もそう言われたような……。
「お姉さんが初恋なんだ。絶対に、気持ち良くなるようにするから!」
決意をこめた声のディー。
「絶対にお姉さんしか好きにならないよ。ずっと大事にするから……!」
必死な様子のダム。
――うーん。初恋の必死さがバリバリですねえ。
切ないなあ。ですが子どもの『ずっと』『絶対に』なんざ信用度ゼロ。
二人も、さっさと次の相手を見つけるんでしょうね。そして私は……。
――ん?ちょっと待て。それって、私は『練習台』ってことですか?
私にしてみたら、最初の相手が子ども。複数。合意なし。将来的に捨てられる。

――じ、冗談じゃないですよ!!
ようやく我に返り、必死になってもがく、もがく。こんな初体験、絶対に嫌です!
でも、本当に子どもかと思うほど、二人の力は強い。
「兄弟。お姉さんが怒ってるみたいだよ?」
「ご、ごめんね。お姉さん。僕らに度胸がないせいで」
全っ然、違うわ!!
「今、安心させてあげる」
「ぶっつけ本番で、頑張るしかないよ」
――止めて!それ本気で止めて!!
しかし、こういうときに限って声は出ず。
身体をほとんど動かせないまま、私は双子にキスをされてしまった。

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