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■帽子屋屋敷で起きました3

そして窓枠をはさみ、しばらく私たちは見つめあってた。
『…………』
「…………」
私たちはさらに見つめあい。

……こ、言葉が出ない。
ニコッと笑って何か言えればいいのに言葉が出ない。タイミング逃した!
どうしよう。何かすっごく気まずくなってきました!

「兄弟。このお姉さん、感じ悪いね」
「僕らに全然返事をしないし、無表情だしね」

あああああ!やっぱり印象マイナスでした!
ていうか子供は言うこともストレートでザクっと傷つきます。
いえ私が悪いのですが!
「何で黙ってるのかな、兄弟」
青い方の子が言う。
「きっと勝手に入ったのを見つかって、驚いてるんだよ、兄弟」
赤い方の子が言う。え?違いますよ。
怪我をして、お世話になってたらしいのですが。どう説明すれば良いのやら。

「見つかる前に処分しないと、きっと休憩時間を減らされるよ」
「侵入者のことがバレちゃったら、きっとお給料を減らされるよ」
窓枠に手をかけた双子は互いにうなずきあう。
休憩時間?お給料?
労働出来る年齢に達していなさそうだけど、何かのごっこ遊びなんだろうか。
というか、本当にどう声をかけたものか。

『よっと!』
二つの声が重なる。
次の瞬間、双子は窓枠に手をかけ、ヒラリと中に入ってきた。
アスリートか何かのような、身軽で鮮やかな動作だった。
そして外にいるときは分からなかったけど、二本の斧を持っている。

赤と青の双子。そして二本の斧。

こうして目の前に立たれると、なかなかに背が高い。あとカッコいいですね。
もう少し大人になったら、女の子が放っておかないだろうな。
と、心のうちでのんびり思っていると、双子の子が斧を構える。
……斧?今さらですが斧?コスプレ?

「侵入者は排除しなくちゃね。僕らの休憩時間のために!」
「勝手に入る奴は始末しなくちゃね。僕らの給料のために!」

双子の子は、重そうな斧を軽々と振りかぶる。
私はそれをただ見ている。すごいなー体力がありますねー、と。
そして、斧の刃が私に振り下ろされようとするとき。
私の目の前が急に暗くなった。
誰かが私の前にスッと立ちはだかったのです。

『ボスっ!!』

「止めなさい、おまえたち。彼女は私が許可した客人だ」

……大変に愉快な方が目の前に立っていました。

い、いえ、他人に対し、愉快な人というのは大変に失礼ですが。
しかし他に形容のしようがない方です。
えと、帽子には薔薇だの鳥の羽だの値札だの、個性的な装飾品をおつけになり、その
装いは…………ノーコメント。他に言いようがございません。

その方はお持ちのステッキで、子供たちの斧二本を軽々と抑えている。
やっぱり斧は作り物ですか。びっくりしたー。
重さといい、刃の光り方といい、よく出来てるなあ。
「ボスー、僕たちは仕事をしようとしただけだよ?」
「侵入者を排除しようとしただけだよ?」
子供たちは斧を引いた。
でも不満だったのか、急に現れた人に食ってかかる。
その人は、ちょっとダルそうな声で、
「やれやれ。仕事をするのなら、ちゃんと持ち場に立っていなさい。
このお嬢さんが怖がって、動けないでいるじゃないか」
と、私を振り向く。
いや本当、正面から見ても愉快……もとい大変に面白い、いえ絶望的なファッション
センス……じゃない、ええと、個性的な方です。
顔立ちはとても整っておられますが、それを相殺して余りある、すっごい服です。

「お嬢さん。不肖の部下たちが失礼をしでかしたな」
とステッキを引き、優雅に一礼する。
そして顔をあげ、私の言葉を待つように微笑んだ。

「…………」
「…………」
『…………』

窓の外は青空。風はそよそよ。ええと……ええと……。

愉快なファッションセンスの方は、不快な素振りを一切見せず肩をすくめた。
「困ったことだ。言葉も出ないほど怖がらせてしまったようだな」
あ、すみません!ち、違うんです!
声を出すタイミングを逃しただけです。本当、すみません!!
服装感覚の絶望的な方は、音もなく私に近づき、手を取った。
絹の手触りが心地いい。そしてまるで貴族のように、私の手の甲に口づける。
「……っ!」
「昏睡状態の君を何度も見舞ったものだが、改めてあいさつをさせていただこう。
私はブラッド=デュプレ。この屋敷の主だ」
へー……て、ブラッド!?エリオットさんから聞いた、私を助けてくれた一人だ。
あわてて、手を取られたまま頭を下げた。
「ふふ。やっと驚いた顔をしてくれたな。ほんの少しではあるが」
と手を離してくれた。
あ、すみません……て、昏睡状態?そ、そこまでひどかったんですか!?
むしろそこまで行っておきながら、傷一つ障害一つ残らなかったのが謎ですが。

「お姉さん、無口だね」
「お姉さん、無表情だね」
と。双子の子がボソリ。

あ、あああ!そ、そうだ。驚いただけじゃないですか!
せっかく『ありがとうございました』とか『お世話になりました』とか上手く会話を
つなげるチャンスだったのに、また無言。しかもほとんど無表情だったみたいです。
マジやばい!コミュ障?KY?い、いや、KYはそろそろ古いかなー。
もう最近のネットスラングの流行りすたりの速さと申しましたらね。
……いやだから、名字も思い出せないのに、何でこっち方面の記憶は正常なんすか。
ちょっとくらい空気を読んでくださいよ、私の記憶回路!

ブラッドさんはそれでも私に笑う。不快を感じられている風じゃなくて一安心。
「物静かなお嬢さんだ。おまえたちにやられた傷が深刻だったようだな」
ブラッドさんは双子の子たちにそう言っていた。するとすぐ双子の子が、
「傷は元に戻ったじゃない!もう僕たちは悪くないよ!」
「兄弟の言うとおりだよ。門の前を通りかかる方が悪いんだよー」
「このお嬢さんは余所者だ。心の傷は治ったかどうか」
と、ブラッドさんおよび双子の子たちは私を見る。
え?え?心の傷?ごめんなさい!いえ、全然、そんな設定ないですから!

……え?『おまえたちにやられた傷?』

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