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■再会と再開

間違いない。青い制服を着たディーと、赤い制服のダム。
……ごめんなさい。また見分けがつかなくなっちゃったけど、二人です。
その姿を見た瞬間、私は嬉しさでまた叫んでいた。

「ディー、ダム!!」

まあ、あまり声量はないけど、とにかく今度はスッと声が出ました。
そしてそれを聞いて、双子が顔を輝かせる。
「お姉さん!声が治ったんだね!!」
「恋人との再会で声が治るって劇的だよね!!」
良かった。二人とも元気そうです。見たところ大きなケガもしていません。
……いえ、ちょっと待て。『恋人』って。便乗するんじゃありません、おまえら。

「何?双子君、もしかしてこの子を探しに来たの?モテるなあ、カイ」
エースさんは意外に鋭いようで。
「でもさ、こんな奥まで来て、奪還に失敗したら格好悪いよな」
悪の幹部の笑顔になると、やっと私を放した。し、死ぬかと思った!
私はあわてて廊下の隅に走って避難しました。
そしてエースさんは双子に標的を変え、剣を向ける。
「ま、それも青春の一ページか。あはは!」

青春を謳歌してそうな青年が大剣をなぐ。二つの斧と剣のぶつかる痛い音。
「誰が失敗なんてするもんか!」
「僕らはお姉さんを奪って帰るんだ!!」
案の定、挑発に乗り、斧を振り回す子ども二名。
でもエースさんは少しも引かないどころか余裕しゃくしゃくの顔だった。
「でもさ。君たちが、俺との鍛錬に勝ったことがあったっけ?」
するとディーとダムはギリッと歯を食いしばり、エースさんをにらみつける。
「どうでもいいだろ!お姉さんを返せ!!」
斧を叩きつけ、ディーが叫ぶ。
「悪いけど、陛下の命令なんだ。カイは処分しなくちゃいけない。悪いな」
笑いながらエースさんがかわす。
「じゃあ、あんたが代わりに処分されちゃえばいいだろ!」
斧をふるいつつ、斜め上の解決策を提示するダム。
でもエースさんは軽々と剣で流す。見た感じ、双子の方が明らかに不利だ。
冗談じゃ無い。迎えに来てくれて、そのために二人がケガをするなんて!!
――エースさん!止めてください!!
……と叫ぼうとしたけど、声が出ませんで。
うう、なし崩しに無口が治ったわけじゃないみたいです。
「お姉さん、退屈だろうけど、ちょっと待ってて!」
「すぐに騎士の××を見せてあげるから!」
ディーとダムは、それでも負ける気がないようです。
「ただ、そう苦しそうな表情で言われても不安が増すばかりです。
あと××はグロイからあまり見たくはないのですが」
ボソリと呟く。

『…………』

沈黙。一瞬だけど、ディーにダム、エースさんまでが動きを止めた。
すぐにまた斬り合いを再開しましたが。
私は口を手で押さえ、ちょっと赤面する。
「……しまった。思ったことがそのまま言葉に出てたみたいですね」
「今のも言葉に出てるぜ、カイ!
あとちょっと抑揚(よくよう)がないかな!」
エースさんに見られ、私はビクッとして沈黙。というかノドが苦しい。
多分、しゃべらなさすぎて、声帯の機能が落ちたせいでしょうな。
「馬鹿騎士!お姉さんが頑張ってしゃべろうとしてるのに、水を差すなよ!!」
「そうだよ!お姉さんの無口がせっかく治ったのに!!」
「と、ディーとダムは再びエースさんに斬りかかります。が、その顔には疲労からか
やや焦りが見受けられました……ゲホッ!」
言い終えて、軽く咳。ううう、ノドが苦しいよう。
ちょっとしかしゃべってないのに、カラオケで歌いまくった後みたい。
『お姉さん!!』
双子が傷ついたような声。
「あははは!君、やっぱり面白い子だよ!」
エースさんは大受けだ。
でも双子の戦闘意欲をそぎかねないので、私はお口をチャックすることにしました。
「……て、お口にチャックってちょっと古いですかね?
私はその場で、戦闘そっちのけで腕組みして、真剣に考察いたしました……」
ゲホっ!ゴホっ!や、やっぱしゃべるのって苦しい!無口キャラに戻りたい!
「全然チャックしてないよ、お姉さん!」
ディー、魂の絶叫。
「『戦闘そっちのけ』って、ひどいよ、お姉さん!」
ダム、悲痛な慟哭。
「あは、あはははは!き、君、物静かに見えてずっとそんなこと考えてるの!?」
エースさん大爆笑。ええ、実はそうなんです。
……あれ?こっちは言葉に出来てない。
どうも無口が治った反動か、言葉と、地の思考の境界があいまいなようですね。

双子は気が抜けた様子で斧を下ろす。
「はあ……戦う気なくなっちゃった」
「お姉さんのせいじゃないけど、お姉さんのせいだよね」
あはは……まあ、エースさんは床の上に転がってて、すでに戦闘不能状態。
お腹を抱えて笑って笑って、腹筋がたいそう苦しそうです。
全ては私の無口が治った感動……ということにしておきましょう。して下さい!!

とはいえ、平穏が戻ったというわけでは無さそう。
まあ私の逃げた距離が短かったこともあるんでしょう。
廊下の向こうからは増援の兵士さんたちが駆けてくる足音が聞こえます。
するとディーとダムが、両側から私の手を引きました。
「お姉さん、帰ろう!」
「お姉さんさえいれば、騎士なんてどうでもいいや」
ようやく笑いの収まったエースさんも、床に転がったまま涙を拭き、
「俺も見逃してあげるよ。君をこの場で処分するのはもったいなくなってきた。
ペーターさんの反応も面白そうだし」
――あ。ペーターさん……。
そうだ。思い出しました。
何だかんだ言って、一番親切にしていただいた気がします。
冷たい印象の方ですが、私を安全な場所に、避難させようとしてくれたし。
声も治ったことだし、出来れば直接お会いしてお礼を伝えたいのですが。
まあ、女王陛下にあんなことをしては、もう会うこともないでしょうね。
――ペーターさんに私からのお礼とお詫びを伝えていただけないでしょうか?
と、エースさんにしゃべったつもりが……お口パクパク。
――え……な、何で!?さっきは言わなくていい言葉まで口に出してたのに!!
「ふうん。完全に治ったわけじゃないんだ。でも言いたいことは分かるよ」
エースさんが爽やかに笑って、親指を立てる。
「『動物より子どもの方が好みだから、駆け落ちします』だろ?伝えておくぜ」
伝えるな!!片目をつぶるな!!……という心の叫びは結局口から出ませんで。
「お姉さん!」
「早く行こう!!」

私は双子に手を引かれ、地面に寝そべるエースさんに手を振られ、走り出しました。

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