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■再会・下

でもエースさんはすぐには動かない。ただ女王陛下に逆らう気もないのか、剣の柄に
手を当てて、私を見すえている。ううう、綱渡り気分ですよ!

エースさんは一度私から視線を上げ、女王陛下を見た。
「陛下。この子は余所者でしょ?何で俺が斬らなきゃいけないんです?」
女王陛下は叩かれた箇所以上に、顔を真っ赤にして即答する。
「その娘はホワイトの女で、わらわを侮辱しおった!極刑に値するわ!!」
あ。私が余所者という点はスルーしやがりました。
「ええ?ペーターさんの女?あ、そういえば、ちょっと街でウワサになってたなあ」
ポンッと手を叩くエースさん。ちょっとちょっと、剣の柄にかけた手は?
あと街で情報収集しなさんな、軍事責任者さん。
そしてエースさんはペーターさんの部屋の扉を見、
「そっかそっか。だからペーターさんの部屋の近くにいたのか。
残念だなあ、俺も狙ってたのに、浮気なんてひどいぜ、君!」
額を人差し指でちょんと突かれる。結構痛い。
あと、私を先に見捨てたのは、あなたでしょうが!!
全力で非難のオーラを送るも、故意か天然か、エースさんはあははと笑う。
そしてふと真顔になった。
「でもこの子、すごく無口なんですよ?俺とも短くない時間帯、一緒に旅したけど、
結局一言も口をきいてくれなくて。この子がどうやって陛下を侮辱したんです?」
「わらわの頬を叩きおった。そこの二人も、この小娘に油断してやられおったわ」
と、うめきつつも立ち上がった兵士さん二人を指す。
するとエースさんはプッと吹き出した。
「ええ?そ、それ面白すぎですね。君が?嘘だろ?は……あはははは!」
最後はこらえきれななくなったのか馬鹿笑い。女王陛下は憮然としている。
私はまじまじと見下ろされ、『え?え?』と両手を口に当て、おどおどしてみた。
「この子は普段はそんなことしませんって。何か怒らせたんじゃないですか?」
「知るか!わらわは『首をはねよ』と言っただけじゃ!」
いや、それ、普通は怒りますから……。


「いいから、とっととその娘を斬り捨てぬか!でなければ腹の虫がおさまらぬわ!」
女王陛下は駄々っ子のように錫杖をぶんぶん振り、エースさんに命令する。
エースさんも困った顔で頭をかき、
「うーん。気が進まないぜ。でも女王陛下の命令は絶対だし……ごめんな?」
と、エースさんが剣を抜いた。

マズイ。今度こそマズイ。
「油断はおしでないよ。大人しそうに見えて、ふいに牙をむく」
「いやいや。俺は鍛えられてますから大丈夫ですよ。
油断した君たち二人は……後で俺がじきじきに鍛錬してやらないとな。
こんな女の子に出し抜かれて陛下への攻撃を許すなんて、上司として恥ずかしいぜ」
と、気まずそうに立ち尽くす兵士さん二人を、冷たく見やるエースさん。
いや、軍事責任者のあなたがサボってたから、彼らが鍛錬不足になって、私ごときに
出し抜かれる事態になったのでは?
……て、責任の所在はどうでもいい!
今度は火事場の馬鹿力も、役に立ちそうにはないですね。
奇跡が起こってエースさんを退けられたとしても、兵士さん二人が控えてます。

――あああ、どうしよ、どうしよ。どうしましょう!

「ごめんな。一瞬で終わるようにしてあげるからさ」

あああああ!エースさんが本気だ。私は蛇に射すくめられたカエル。
もうさっきみたいな無気力な気分にはならないけど、打開策も見つからない!
力も通じず、頭を使うことも、口八丁も無理。奇跡が起こる様子もない。
えーと、えーと、えーと……落ちつこう。深呼吸です。
大きく、大きく息を吸って……。
そして腹の底から声を出す!


「ディー!!ダム!!助けて!!」


むろん、漫画みたいに都合良く助けは来ませんで。
でも、予想以上にデカイ声が出ました。
「え……!?」
私の突然の大声に驚いたのか、一瞬だけ、一瞬だけエースさんの動きが止まる。
それだけあれば十分!
私は、オリンピックに出られるんじゃないかという、猛スピードで横を走り抜ける。
「あ!こらっ!君!!」
お魚くわえた猫を咎めるように言われた。でも聞かない。
私は走って走って……なぜか床に横たわる、見たことのある気がしないでもない
兵士さんの身体をジャンプして飛び越え、さらに走る。
でもいくらも行かないうちに、
「よっと!!」
軽い声とともに、身体の真横を剣がかすめる。そして、
――い、いたたたたっ!!
「ダメだって!!」
エースさんが私の髪を引っ張って捕まえた。
お、女の子の髪を引っ張るなんて反則ですよ!あ、あたたたた!マジ抜ける!痛い!
でもエースさんは無視して私を引き寄せ、楽しそうに顔をのぞきこんだ。
「君、本当に面白い子だよな。な、陛下には適当なことを言って見逃してあげるから
ペーターさんを捨てて俺の恋人にならない?大事にするぜ?」
……歯がキラリと光りそうな爽やかな笑顔で、とんでもないことを口にする。
しかし誤解とは言え、恋人を捨てろとハッキリ言うし、片手は私の髪をつかみ、もう
片手は剣をにぎり、私の首筋に刃を押しつけているのですが。
さすがに表情に出たらしい。
「ふーん。嫌なんだ。一途なんだね……残念だな」
エースの目がすぅっと細くなる。
いや一途というのは誤解ですから。
ああ、最後にもう少しツッコミを入れたかった……!

そしてエースさんの剣が一片のためらいもなく私のノドを切り裂こうとしたとき、
「っ!!」
突然エースさんが振り返り、頭上に剣をかざした。

そして、重く高い金属音。制止したような一瞬の静寂。
――何!?
捕らえられたまま、そちらを見ると、

『お姉さんから離れろ!!』

ディーとダムが、エースさんの剣に斧を叩きつけていた。

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