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■帽子屋屋敷で起きました2

窓の外から昼の日差しが差し込み、廊下を優しく照らしている。
私ことカイは、いいお天気ですねーと、思いながら歩きます。

そして、試練は早々にやってきました。
向こうから数人の使用人さんたちがやってきたのです。

彼ら彼女らは楽しげに雑談をし、何だか割り込めない雰囲気が。
ど、どうしよう。どうしよう!?でも私、このお屋敷でお世話になったんだし。
ええと、私からあいさつすべき?こんにちは?はじめまして?えーと、えーと!
ああああ、距離がどんどん近く!えーと、は、は、は、はじめまして!!は……。
そして使用人さんたちは、私に気がつくとニッコリ笑い、
「お嬢様、こんにちは〜」
「お身体は大丈夫なんですか?良かった〜」
「何かあればお申し付け下さいね〜では失礼しま〜す」
彼ら彼女らは、私に礼儀正しく会釈し、また雑談しながら行ってしまった。
私はその間、ずっと無言でした。
……超ヤバい。話しかけてもらって、何一つ言葉を返さんかった。
コミュ障?『コミュ障』って奴ですか?私!
……てか、未だに家の住所も名字も思い出せないのに、どうして、そういう言葉だけ
スっと出てくるか、自分。
心密かに落ち込みつつ、屋敷の散策を続けるカイさんでした。

…………

さて何で私が屋敷を歩いているかと申しますと。
まず『門番ども』とやらに、とんでもない目にあわされた私。
メッタ斬りにされたショックなのか、どうも記憶喪失になってるらしいんです。
それ以前のことが一切合切、思い出せません。
いろいろ説明してくれたエリオットさんに相談しようかと思ったのですが、エリオット
さんは仕事があったらしいです。
『じゃあ、適当にやってくれ!困ったことがあったら俺に言ってくれよ!』と言って
ウサギのように走って出て行かれました。
実に慌ただしい方で、結局ウサ耳への追及が出来なんだ。

私はしばらくベッドで横になってたけど、すぐ退屈になりました。
ネグリジェ姿で部屋をウロウロしていたら、クローゼットがあり、その中には、私の
ために用意されたらしい、なかなかオシャレな服がたくさん入っていて。
その中で一番、地味な服を身につけると、私はいそいそと部屋を出ました。
んで、しばらくお世話になる屋敷の散策を始めたのです。

ちなみに部屋には鏡もあったけど、私の外見はやはり平凡でした……。

私はウロウロと大きなお屋敷をさまよい歩く。
帽子のモティーフやモニュメントを見ているのも楽しかったけど、あちこち無造作に
置かれている調度品類も、なかなかに高価なようでまさに眼福。
そして歩けど歩けど、屋敷の端にはたどりつかない。どれだけ広いんでしょう。
いったい、どんなお大尽がこの屋敷の持ち主?
門に門番がいるくらいだし、きっと大実業家、でなきゃ政治家とか?
と、そこで私は忌まわしき『門番』を思い出しました。

――門に行かなければいいわけですね。

門番と言うからには門にいるに決まっています。
うら若き女性をメッタ斬りにした×××どもだ。
きっとエリオットさんと同じくらい、いや、それ以上の巨漢に違いない。
んでもって、ホッケーマスク被ってて、チェーンソー持ってるわけですね!!
……想像したら怖くなってきました。本当に門に行くのは止めときましょう。

…………

私はさらに歩き、何人かの使用人さんやメイドさんたちとすれ違った。
そのたびに何もごあいさつが出来ずに落ち込み、テクテクと進みます。
そして考えます。

そもそも。いくら防衛であろうと人をメッタ斬りにしたら、警察の出番ですよね。
でも話を聞く限り、その門番どもとやらが司法の御用になっている様子はない。
そして瀕死だったらしい私を助けた?という『ウサギ耳』を生やしたお兄さん。
それとここの使用人さんやメイドさんたち。なぜか知らないけど『顔がない』。
私自身、記憶喪失だし。そもそもここはどこの国?

――それに、何だか疲れましたね。

私はピタッと立ち止まる。窓からの光が、冷たい廊下に暗い影を落とす。

……何だか、さっきから窓の外の時間が全く変わらない気がする。

起きたときは風の気持ちいい昼間で、それからエリオットさんと話し、散策に出て。
三、四時間は経ってると思うんだけど、何で空に一切の変化がないんでしょう。
夕方も来なければ、日が傾く様子もない。

気持ち悪いくらい続く青空。
人をメッタ斬りにして罪に問われてないらしい門番。
帽子だらけの妙なお屋敷。
ウサギ耳のお兄さん。
顔のない使用人さんたち。

……何だか全てが不気味に思え、私は鳥肌が立つのを感じた。
そのとき。

「あれ?誰かいるよ?兄弟」
「そうだね、兄弟」

明るくて可愛い声が響いた。
声の聞こえた方向、窓の外を見ると、可愛い二人の子供がいた。
窓枠に手をかけ、こちらをのぞきこんでいる。

「お姉さん、侵入者?」
「お姉さん、怪しい人?」

全く顔の同じ赤と青の双子。
純粋で無邪気な笑みを浮かべて、私を見ていました。

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