続き→ トップへ 目次に戻る ■昼と夕の不運・下 エースさんは、爽やかな印象の親切そうな人でした。 そして私を見下ろし、困ったように微笑みかけます。 「あいつのこと、あんまり悪く思わないでくれよな。 ちょっと君に驚いただけで、根は良い奴なんだ。ただ、少し頭が固いんだよな」 まあ、確かに生真面目そうな雰囲気でしたもんね……二度と会いたくないですが。 ぎこちなく笑顔を作ると、エースさんは爽やかに笑い、私をホッとさせてくれた。 「俺はエース。ハートの騎士だ。ユリウスの部下をしてる。君は?」 『時間の番人』に続き、今度は『騎士』ですか。 やはりここって面白い世界ですよね。 あ、それで私の名前ですが、カイと……。 …………。 お口パクパク。いい加減、金魚に転職しようかな、私。 「うーん。口もきけないくらい、怖かったんだ。ごめん。ごめんな! あいつに代わって、謝るよ。本当にごめん!」 申しわけ無さそうに何度も謝られ、私は慌ててブンブンと首を左右に振る。 ち、違うんです。私のは前からなんです!超あがり症なだけなんですよ!! どうにか意図は伝わったらしく、エースさんはまた笑顔になる。 「君は良い子なんだね。じゃ、せめて遊園地のワゴンで何かおごらせてよ」 へ?いえ!そんなわけにはいかないですよ! 第一、ボリスさんだって、そろそろ戻ってくるころですし。 私はそんな意思をこめて首を横に振りましたが、 「そっかそっか。じゃ、行こうぜ。余所者くん!」 と、エースさんは私の手首をつかみ、勝手に歩き出す。 ――え?ちょっと待って下さい。お詫びとか、いいですから! ボリスさんやゴーランドさんと打ち合わせをして、早く帽子屋屋敷に帰りたい。 「やっぱりアイスクリームかな。でもチュロスも美味いよな。君は何が好き?」 そうですね。やはり私は定番のキャラメルポップコーンが……。 ……いえいえいえ!!ですから、ここを離れたくないんです、私! 一生懸命、首を振りますが、エースさんは気づいて下さらない。 私の手を引っ張り、口笛を吹きながら、どんどん歩いていく。 私もついにあきらめました。 ――ワゴンでおごっていただくだけなら、一時間帯もかからないですよね。 運が良ければボリスさんかゴーランドさんと園内で会うでしょう。会わなかったと しても、ワゴンで食べた後、すぐにボリスさんの部屋に帰ればいい。 私は大人しく、エースさんの後にトテトテとついていくことにしました。 ………… ………… さてさて、時間帯変わりまして夕暮れです。場所は森の奥深く。 そしてエースさんと出会ってから、三回目の時間帯のことです……。 ……ここは、どこですか? 手を引っ張られつつ、無言の非難をこめ、エースさんを見上げますと、 「あはははは!ここはどこなんだろうな!」 遊園地は……帽子屋屋敷は……ボリスさん、ゴーランドさん、ディー、ダム……。 ………… エースさんは恐ろしい方向音痴だったようです。 あれから歩けど歩けどワゴンにはたどりつかず、それどころか逆に遊園地の出口へ 歩いて行く。最初、エースさんがあまりに自信満々で歩くので『もしかしてこっちに 穴場のワゴンでも?』と、思った私が馬鹿でした……。 彼が方向音痴だと気づいたのは遊園地を出てからエースさんが、 『何でワゴンが見えないんだろうな〜』と真顔でつぶやいたとき。 大慌てで方向転換しようとしたものの、エースさんはどんどん私を引っ張って逆に 森に入り、現在地が完璧に分からなくなりました。 友人のユリウスがアレでしたので『もしや××目当てで故意にラチされたのでは?』 という邪推すら頭をかすめましたが、さすがにそれはない様子。失礼しました。 とはいえこの期に及び、エースさんは『ワゴンで何か食べたら、俺と一緒に遊園地で 遊んでく?』と、言い始め、未だに遊園地の中にいると信じ込んでいるらしい。 背筋がゾーッとしました。 あああああ!!ディーとダムどころか、ボリスさんとゴーランドさんにまでご心配を おかけしてっ!!あんなにあんなにあんなにお世話になったっていうのに!! もういい、一人で帰る!とエースさんの手を振り払おうとしましたら、 「疲れたの?あははは。か弱いなあ。でもきっともう少しでワゴンが見えるって!」 見えるか!!さらにギュッと手をつかまれ、もう私は、見苦しいのを承知で地面に 座りこみました。さすがにちょっとエースさんは慌て、 「え?ちょっと君!もう少し俺と頑張ろうぜ!」 うう、地面の草むらが冷たい。 でもこれで進むことは出来まい! どうぞどうぞ、私を見捨て、お一人でワゴンを探して下さい! 「ちょっと君〜、困ったなあ……」 エースさんは何度か私の腕を引っ張って立たせようとしました。 「ほら、立って俺と頑張ろうぜ!……どうしてもダメだって?困ったなあ……」 てこでも動かない私に、さすがにエースさんも困り顔。 そして、騎士さんはパッと顔を輝かせました。 「よし!今夜はテントを張って、ここに泊まろう!俺とキャンプだ!!」 ……は? 2/6 続き→ トップへ 目次に戻る |