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■兄弟ゲンカ・下

夕暮れのお花畑。舞い散る花びらの中、斧で戦う双子の兄弟。
何とまあ非現実な……。
――て、な、な、何で!?
ようやく我に返り、密かに慌てました。
お花畑で座り込む私の前で、兄弟はなおも言い合っていました。

「お姉さんに、えこひいきされてるからって調子にのるなよ、兄弟の馬鹿!」
「自分がお姉さんに相手にされていないからって、八つ当たりするなよ!!」
……『えこひいき』?『相手にされていない』?
うーむ。私が相手にする比重がダムに偏っていたということですか?
そう言われると、そういう気がするようなしないような、しないようでするような。
何しろ顔が同じですし、入れ替わりの有無がどうにか判定つく程度。
未だにどっちがどっちなのか、厳密に見分けがつかないですからね。
でも、双子は『自分たちをそれぞれ別個に認識している』と勝手に思ってる様子。
となると、起こるのは当然、えこひいき問題でしょうな。

で、両方を均等に相手にしていたつもりで『中身』がダムなことが多かったらしい。
私にとっては『あ、そうでしたっけ?見分けがつかないですもんねー』だけですが。
「兄弟の馬鹿馬鹿馬鹿!!」
ディーの表情は切実。というか泣きそうです。
「僕の方がお姉さんに好かれてるんだよ!!」
ダムも、双子の兄弟を思いやれる年頃ではないようです。
嬉々として推測を事実に昇華させようとしています。
これでは、帽子屋屋敷の最強門番の絆にヒビが入りかねませんです。
――こればっかりは、私の責任ですね。
私はため息をついて立ち上がります。
争う双子には、すでに、いくつかの赤が見えます。
これも、中途半端に『お姉さん気取り』をした罰ですか。
私は懐から救急バッグを取り出し、中から医療用ボトルを出しました。
そして二人に振りかぶり……

「うわっ!」
「冷たい!」

水をかけられたネコさん状態。兄弟が、驚いて互いに飛びのきました。
そこでやっと、私が起きていることに気づいたようです。
「お姉さん!!」
「お姉さん、どうしたの?」
はあ……兄弟相手でも容赦しないんですね。
止まったところを見ると、二人とも本当に傷だらけです。
さて、生理食塩水をかけたから、ちょうどいいですか。
『っ!!』
無言で消毒薬とガーゼ、傷薬を取り出した私に、双子の顔が恐怖に染まりました。
――私が適当な態度を取ったせいで……。
私は罪悪感に満ちあふれ……逃げようとしたディーの襟首を捕まえ、引き寄せます。
「カイお、お、お姉さん……その、僕は大丈夫、だから……」
ディー。ずっとかまって欲しかったんですね。
そんな怯えた顔をさせて、本当にごめんなさい。
私は襟首を押さえつつ、ポキポキと指を鳴らしました。
「お、お姉さん……カイお姉さん……こ、こ、怖いよ……」

……そういうわけでディー。まずあなたから傷の手当てをしてあげましょう。

「わっ!!」
私は間髪入れず、ディーを片膝で地面に押さえつけました。そして屋敷でお借りした
『応急手当手帳』を開きます。正しい知識が無ければ、好意も逆効果ですし。
そして読む合間に、消毒液をディーの傷口にぶちまけました。
……夕暮れの花畑に、高く上がるディーの断末魔。
「〜〜〜〜っ!!」
「お。お姉さん!や、止めてあげて!兄弟が苦しがってる!」
私の腕を押さえ、必死で止めてくるダム。
あれ?さっきまでケンカしてたのに。
兄弟の危機とあれば、すぐさま駆けつける……兄弟愛って美しいですね。
カイお姉さん、感動しつつ、応急手当の手帳をめくります。
……あれ?手帳によれば、消毒液って、まず傷口の周辺にうっすらと塗るんですか。
患部にぶちまけるのは絶対ダメですって?
あ、あはは……ドンマイドンマイ!

「お姉さん、ごめんなさい!ごめんなさい!大丈夫だよ!平気だから!」
「お姉さん、止めて!もうケンカしないから!兄弟を許してあげて!!」
いえ、許すも何も。破傷風菌は怖いんですよ?
そうなったらカイお姉さんは安心して、お昼寝が出来ません。
『お姉さん〜〜!!』
大丈夫。お姉さんは可愛いあなたたちのためなら、鬼になって処置をしますから。

そして、膝下のディーの悲鳴と、ダムの懇願を聞きながら、私は無表情にガーゼを
引きちぎるのでした。

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