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■兄弟ゲンカ・上

丘の上には、色とりどりの花畑がありました。
青空の下では、お花を散らして子どもたちが走り回っています。
「お姉さん!お姉さん、こっちこっち!」
「遅いよ、お姉さん、早く早く!!」
……対する私は子どもの体力についていけず、ぜえはあと息を切らしております。
双子の案内したい場所というのはこのお花畑だったっぽいです。
どうも『女の人はお花が好き→お姉さんもきっとお花が好き!』という深謀遠慮の
結果だったようで。
ともあれ、私を喜ばせようとしてくれた純粋な好意は、とても嬉しいものです。
しかし……たどりついて、さっそくする遊びが、その『きれいなお花を踏み荒らす』
鬼ごっこって、正直、どうなのでしょう。
しかし、心底から楽しそうに笑いかける双子には何も言えませんです。
――でも、最近、寝過ぎですね。マジで基礎体力を鍛えねば。
少し動くと息切れしてしまいますです。
真剣に遊ぶには、まず休憩を取らなくてはなりません。
私は鬼ごっこをリタイアし、お花畑の真ん中にドサッと横になり、目を閉じました。

「あ、お姉さん!寝ちゃダメだよ!寝ないでよ!!」
ディーが慌てて叫び、こちらに走り寄ってくる気配。
いいじゃないですか……子どもは子どもだけで元気に遊んでらっしゃい。
「鬼ごっこの途中だよ!勝手に寝ないでよ!お姉さんがいないとつまんないよ!」
ダムが抗議して、私の腕を引っ張ります。
まあまあ。あなたたちだけでも楽しいですよ、きっと。
だいたい大人には、大人の都合というものがですね。
……大人という外見でもないですか、わたくし。
『お姉さん〜』
双子は両側から必死で私を揺すってきました。
ですが私は起きる気ゼロで、お花畑に沈んでいます。
うーん、花の香りが心地良い。風は爽やか、日差しは暖かい。
本当、お昼寝日和ですねえ……だんだんと眠く……
『カイお姉さん!起きてよ!!』
……ディーにダム、うるさいです。
お姉さん、ここで爆睡して……コホン、見ていてあげるから、あなたたちだけで、
楽しんでらっしゃい。
『お姉さん、ねえ、お姉さん!!』
二人は両側に座る姿勢になり、ひたすら私を起こそうとします。
はあ……。仕方なく、私はかたわらのダムの膝に頭をのっけました。
「っ!!」
そして凍りつくダム。あ、やっぱり嫌でした?冗談ですってば。
男の子の膝枕……なんか言い方がやーらしいですね。
安心して下さい。今、どきますから、今……

…………

…………

どこかで言い合う声がしました。
「兄弟!一時間帯、経ったよ!今度は僕の番だよ!」
「そう騒ぐなよ兄弟、無理に動かしたらお姉さんが起きちゃうだろ?」
誰かが、ぎこちなく私の頭を撫でる気配。
うう、耳くすぐったい。やめてくださいー。
「っ!お姉さんがイヤイヤって首、振った!やっぱり兄弟の膝枕じゃ嫌なんだよ」
「じゃあ自分から兄弟の膝枕に変えるだろ?
僕にしがみついてるし、やっぱり僕の膝枕がいいんだよ」
スローな調子に勝ち誇る、誰かの声。
あー、そういえば夕暮れなんですかね。風がちょっと冷たい。
だから寒くて、つい手近な熱源に、さらにギュッと……。
「……っ!兄弟!いい加減にお姉さんを離せよ!」
険しい声に、ちょっと私の頭がハッキリします。
「調子にのるなよ!!僕だってお姉さんを膝枕してあげたい!!」
ディーの声でした。少しマジギレ気味な。
「ふふ。嫉妬は見苦しいよ、兄弟。お姉さんは最初から僕のことだけ気にかけて
くれてたんだよ?ほっぺたの傷をずっと覚えててくれたし、入れ替わったときも
まず僕の傷の手当てから、してくれたもんね」
対して完全優位な感じのダムの声。
えー、そうでしたっけ?ダムばっかりでした?私。
そしてブワッと膨れあがるディーの殺気。
「兄弟!!お姉さんをよこせよっ!!」
地団駄でも踏みそうな、幼い怒り。そこまで私が欲しいんですか?変なの……。
――子どもって、つまらないものに意地を張ったりしますよね……。
まあ双子は一番身近な競争相手ですしね。
と、ダムの暖かい身体にしがみつきながら、ぼんやり思っていると、
「兄弟には渡さないよ。お姉さんは僕のものだ……お姉さん、ごめんね」
ダムの優しい声がして……あう。上半身を離され、お花畑に戻されました。
膝枕終了?夕暮れの風は身体に厳しいのですが!
と、ここで私はやっと完全に覚醒して、目を開けました。すると、

「兄弟の馬鹿!!馬鹿!馬鹿!!」
「どっちが馬鹿だよ!兄弟の方がもっと馬鹿だよ!」

耳にいたい金属のぶつかり合い。
えーと……双子が子どものゲンカのようなことを言い、斧で戦闘しております。

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