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■双子の恋・下

エリオットさんがディーとダムに怒鳴っています。
「おまえら!最近どうしたんだよ!やる気はねえし、敵は逃がす!
帽子屋ファミリーの門番なのに、ブラッドに恥ずかしいと……」
ガミガミガミと。離れてるこちらまで、叱られている気分になる強さです。
でもディーもダムも……信じられないことに、余計な口を挟まず素直に聞いてます。
それどころか、うなだれ、まるで深く反省しているように……!
しかし殊勝な態度は、逆にエリオットさんを戸惑わせたようです。
「おまえら、どうしたんだ?さっきから大人しいな……」
お説教を切り上げ、困惑した声で二人に聞いています。
私も心配で、壁にすがりつくように、三人の様子をうかがいました。すると、

「カイお姉さんが……会いに来てくれない」

ディーがそれだけポツリと呟く。
え?何でいきなり私のことが!?それに、避けてるのはあなたたちでしょう?
でもエリオットさんは意外でも何でもなさそうな声で、
「だろうと思ったぜ。だがカイにはカイの都合があるんだ」
「でも、最近は廊下のど真ん中で行き倒れるのが、お姉さんのブームらしいよ?
それくらいヒマなら、僕らと遊んでくれたっていいじゃないか!!」
と、ダムが反論。
……ぶ、ブームじゃありませんもの!廊下の日差しに眠気を誘われるんですもの!
ですから、あなたたちの方が逃げてるじゃないですか!
エリオットさんもゴホンとせきばらいし、
「と、とにかくカイだって忙しいんだ。
おまえらみたいなガキに、いつまでも、かまってられねえんだよ!」
まあ忙しいといいますか寝るのに忙しいといいますか。けど双子は、
『……っ!』
「うわっ!危ねえな!」
双子が斧をふるったらしい。エリオットさんは銃を抜き放ち、怒鳴った。
「ンだよ!痛いところ突かれて俺に八つ当たりか?
そんなに会いたきゃ、前みたいに図々しく部屋に押しかければいいだろ!?」
そうそう。会いたいのなら会いに来てくれればいいのに。
すると少しだけ沈黙がありました。そして、

「……僕らだって、分からないよ。お姉さんに会いたいのに、会うと逃げちゃう」
ディーが小さく言いました。
「会いたくて会いたくて仕方ないのに、すごく恥ずかしくなるんだ」
ダムも元気なく言います。
「はあ?何だそりゃ。あ、いや、分かると言えば分かるんだが……その……」
エリオットさんが言葉を濁す。何か心当たりがあるんでしょうか?
「とにかく、会いたいなら会ってみたらどうだ?
カイはおまえらを邪険にしたりしねえだろ?」
……実のところ、けっこう邪険にしております。用が無ければ会わないですし。
「う、うん。お姉さんはすごく優しいんだけど……」
ディーが言いにくそう。自分の中で上手く言葉がまとめられない感じ。分かるなあ。
「どうすればいいか分からない。寝ても覚めてもお姉さんのことを考えてるのに」
ダムがしおれたように言い、エリオットさんまで弱ったように耳を垂らします。
「え、ええとだな。歳上の俺から、男としてこういうときに言えるのはだな……」
エリオットさんが、何か使命感をおびた声で双子に何か言おうとしましたが、
「何をしててもカイお姉さんのことが頭から離れないんだ!
泣きそうな顔をしたときとか、包帯を巻いてくれるときの顔とか……」
ディーが顔を上げて怒鳴りました。エリオットさんに、というより、自分の中の
感情をどうしていいか分からず爆発した、という感じで。
「笑ってくれたときとか、一回だけしゃべってくれたときとか……ずっと……。
最近は夢にまで見ちゃう……お姉さんの笑顔が、消えないんだ……!」
切なそうにとても切なそうにダムも言います。そこまで笑いましたっけ、私?
うーむ。あのストーカーが、そこまで双子にトラウマを与えちゃいましたか。
さすがにしつこすぎたのかと、自分にザックリ。ううう……。
「そうだな。男っていうのはまず誠実さが重要であり、押して押しまくるのが……」
エリオットさんも困り切った顔で、斜め上のお説教を始めました。

「君もやるな、お嬢さん」
あ、存在を忘れてました。ブラッドさんが真後ろでくつくつ笑っておられます。
よく分かりませんが、しょんぼりした二人は合いませんです。
つきまとったお詫びもしないといけませんし。
私は楽しそうなブラッドさんに頭を下げ、それから廊下の角を曲がりました。

「いや、だからな……押して押しまくって……」
うなだれた双子を前に、困り顔だったエリオットさん。
ですが廊下の角から現れた私を見ると、耳をピンと立てました。そして弾む声で、

「お、おい!おまえら!カイが来たぞ!!」
そして双子がバッとこちらを振り向きます。

「あ、お、お、お姉さん!」
「え、ええと、えと……」
途端に真っ赤になる双子。本当に真っ赤。口もきけない様子でした。
とりあえずエリオットさんが困ってますし、場所を移動しますか。
私は二人の手を引っ張り、廊下を歩き出します。
「お、お姉さん!あ、あの、お、怒ってない?」
『は?』と思って振り向くと、顔を赤くしたディー。
「入れ替わってたこととか、最初にお姉さんを斬ったこととか……」
とオドオドした様子のダム。あ、いちおうメッタ斬り事件を覚えてたのですか。
というか、なぜ今さらそんな話題を。
……まあどちらも猛烈に怒ってますが。
だから私は双子の帽子をちょっと上げ、それぞれの額にコツン、と指の角で制裁。
『え?』という顔の二人をまた引っ張る。すると、
「お姉さん……好き!」
「お姉さん、大好き!」
妙にぎこちなかった、さっきまでの態度が嘘のように、私の手を離し、両側から抱き
ついてきました。うう、な、何か力が強くないですか?
「ねえ、お姉さん!一緒に屋敷の外に遊びに行こう!」
「お姉さんにだけ、特別の場所を教えてあげる!!」
何すか。秋の空と子ども心?私が嫌になったんじゃなかったんですか?
あ、そういえば何だかんだで、未だにお屋敷の外に出てませんでしたね。
コクンとうなずくと、二人の顔がパアァッと輝く。
「やったあ!行こう、お姉さん!」
「早く早く!!」
わ!引っ張らない!あと走ると疲れるからダメですよ!
本当に何なんですか、さっきからしょんぼりしたり元気になったり!
抗議したいのですが、結局口から出ることはなく。
エリオットさん、それに遅れて廊下の角から姿を見せたブラッドさんが、みるみる
後ろに遠ざかっていきます。
最後にちょっと後ろを見ると、お二人が顔を見合わせ、セピア色の声で、

「何かこう……青いよなあ。カイには同情するけどよ」
「ふむ、若さとはいいものだ。実に甘ずっぱい香がする」

二人の言葉も意味不明ですが……ブラッドさんから、また難解な本を押しつけられる
のが、確実な気がいたします。

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