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■門の前の日常

帽子屋屋敷の壮大な門の前。
その門の前には恐怖の双子が、凶悪な斧を構え、陣取っている。
でも包帯だらけの門番たちは今、ニヤニヤと話をしていました。
「兄弟、兄弟。モテる男って辛いよね」
「ストーカーをされるなんて、僕らも隅に置けないよね」
コラコラ。自分で『隅に置けない』とか言うな。
あと善意の人間をストーカー呼ばわりですか。
でも存在はバレているようでしたので、私はすごすごと木陰から姿を見せる。
そう、双子を見張るため、私はここに隠れていたのでした。

ディーとダムは、登場した私を見てニンマリ笑い、
「いらっしゃい、お姉さん」
「僕らと一緒に門番をする?特別に一人、スパスパ切らしてあげる」
と、ダムがギラリと光る斧を振る。
……たまに思うのですが、この二人は初対面時に私をメッタ斬りにしたこと、とうに
忘却しているのでは……被害者だけが一生覚えているとか、虚しいなあ。

とりあえず、私は門柱近くの木陰に座り、本を開くことにしました。
もちろん門番を一緒にやる気はございません。
二人が仕事をしているときは側にいて、休憩時間を一緒に過ごし、仕事が終われば
一緒に引き上げ、二人の部屋にお泊まりする。
思春期の男の子にはさぞうるさいでしょうが、お節介を承知でやるつもりです。
ここで見ていれば、入れ替わることも不可能でしょうし、双子が勝手に包帯を取って
しまわないよう見張ることも出来ます。

――何か、本当にストーカーっぽいですねえ。

自分で自分にグッサリ。
でも、心配性と言われても二人が心配です。子どもは誰かが見てあげないと。
私は割り切って、ブラッドさんに新しく貸していただいた本をめくります。
ドキドキ。たいそう面白いとうかがった、その分厚い本のタイトルは……

『現代紅茶学Y――茶葉の科学的管理法の展開と紅茶生産地の経済貿易研究』

……お茶会を断った嫌がらせだな、これは。

…………

天気は大変によろしく、昼寝日和です。
私は木にもたれ、ウトウトしていました。
お借りした本は半端なページを開いたまま草むらに放られ、風に揺れています。

それなりに時間帯が流れ、今のところ見張り作戦は有効です。
屋敷にいるときは、双子と一緒にいて、お風呂からお食事からおやすみまで一緒。
門にいるときは、退屈した二人の遊び相手を適当にこなし、嫌がる二人を押さえつけ
定期的に包帯を変える。
……たまにお客さまがいらっしゃって二人が『お仕事』をするところを見るのだけは
すごく嫌です。双子が、嫌がるどころか嬉々としてやっているのを見ては、『やはり
ここは異世界なんだなあ』と嫌な認識を新たにするのでした。
そして戦闘が終わり、得意そうな双子の新しい傷に、また薬を塗るのです。


……そして木にもたれ、ウトウトしていると、チュッとキスをされます。
まず頬に。もう一回キス。今度は額に。またチュッ。今度は首筋。
いい加減、セクハラ制裁を加えようかと考えていると、声が聞こえました。
「嬉しいよね、兄弟。最近、お姉さんは僕らとずっといてくれるよね。
部屋にいるときも労働をしてるときも、どんなときも!」
私の髪に手をやりながらディー。ああ、そうかもですね。
彼らには、こういうのは、さぞウザいでしょうね。でも私は――
「嬉しいな。ずっとこのまま三人で一緒にいたいよね。
お姉さんを独占出来るなら労働報酬がなくてもいいよ」
後ろから手を回し、私の背中に身体をすりよせつつダム。
……実に意外でした。まあ悪く思われてないのなら何よりですが。

そして夢うつつでベタベタする双子に構われていると、屋敷の方から誰かが大股に
歩いてくる音が聞こえました。それで私も目を開けます。
途端に二人は、機嫌良さそうだった顔をしかめ、私から離れました。
「馬鹿ウサギ!」
「ひよこウサギ」
コラコラ、味方に斧を構えるのは止めなさい。
「よお、カイ!」
エリオットは双子を無視して私に笑いかけます。
で、こちらに袋が放られました。
あわてて受け取ると、可愛くラッピングされた、良い匂いのする暖かい袋です。
「カイ!あんたに差し入れだ!双子の見張り、ご苦労さん。
おかげでガキどもが仕事をしてくれて、助かるぜ」
エリオットさんは二人をガン無視したまま、私に手を振りました。
袋のリボンをほどいて中を見ると、ニンジンクッキーがいっぱい入ってました!
「お姉さんにウサギのエサを渡すなよ、ひよこウサギ!」
「お姉さんは見張りじゃない!僕らといたいから、いてくれるんだよ!」
……ごめんなさい。実はエリオットさんの言うとおりです。マジで見張ってます。
私はごまかすべく、ヘルシーなニンジンクッキーをポリポリかじる。
良いお味ですこと。
エリオットさんはそんな私に目を細め、
「カイ、屋敷に戻らねえか?最近、ずっとガキどもと一緒だから使用人どもが
寂しがってる。ブラッドも、おまえに飲ませたい紅茶を用意して待ってるぜ?」
うーむ。確かに最近は双子に四六時中べったりで、寝るときと食べるときくらいしか
屋敷に寄りつきませんで。双子はご機嫌ですが、お世話になってるブラッドさんの
顔も立てませんと。
でも、と私は首を横に振ります。
まだディーとダムが無理をしないか心配なのです。
「そうか?なら強制はしねえけどよ。あんま甘やかすとつけあがるぜ、こいつらは」
エリオットさんは困ったように頭をかきます。
「うるさいな!とっとと消えろよ、ひよこウサギ!」
「お姉さんを僕らから盗ろうったって、そうは行かないよ!」
双子は何か脅威に感じているのか、子どもっぽい挑発をする。
「おまえらも、カイにあんまり無理させんなよ。じゃあな!」
エリオットさんは適当に流し、屋敷に去って行きました。
どうやら私たちの様子を見に来てくれただけみたいです。
そういえばマフィアの2だって、誰か言ってたっけ。
乱暴そうに見えるけど、面倒見のいい人なんだなあ。
けどエリオットさんに感心する私と裏腹に、双子は嫌そうに舌打ちしました。
すぐまた私の横に座って腕を絡め、
「お姉さんとの仲を邪魔しに来るなんて、嫌なウサギだよね!
始末しちゃおうか、兄弟?」
「賛成だよ。労働報酬を減らされてもいいから、馬鹿ウサギを斬っちゃおう」
あながち冗談とも思えないことを言って、逆側の腕を絡めるダム。
そして木陰で私を挟み、エリオットさん暗殺計画を楽しそうに練り出しました。
私は両腕を拘束され、クッキーを食べながら、何となく双子を眺める。
そして、思うのでした。

――……また入れ替わってますね。

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