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■双子の秘密4

帽子屋屋敷の双子の部屋。
男の子たちの部屋には、元気な声が響いておりました。
「お姉さん、大げさだよ!」
「これくらい大丈夫だよ!」
くそやかましいわ、ガキども。
私は嫌がるディーとダムを押さえつけ、ボトルに入れた医療用の水で傷口を洗浄し、
消毒薬と傷薬を容赦なく塗り込む。そのたび上がる悲鳴。
「い、痛い!しみるよ!」
「放っとけば治るからいいよ!」
私も『お姉さん』と慕っていただいている身。情け容赦は一切いたしません。
『抗争』とやらで二人とも体力が減っているのも幸いしました。
私は二人を押さえつけ、ふん縛り、服を脱がせて、ひたすら処置をする。
そして二人が断末魔に悶えている間に、ガーゼを当て包帯でグルグル巻き。
いえ自信たっぷりにやっていますが、実は内心ドキドキ。
……こ、これでいいんですよね、処置って。傷口はちゃんと洗いましたし、薬瓶の
効能もちゃんと正しく……あ、あれ?一本だけ水虫の治療薬が混じって……コホン。
とにかく、私は二人にひたすら包帯を巻きまくりました。

…………

どうにか包帯を巻き終わり、二人を解放しました。
全身、包帯だらけの双子はぐったりして、ベッドにへたりこんでいます。
そして私を恨めしげに見上げ、
「お姉さん、包帯巻くの下手なんだね……」
「何か僕ら、ミイラみたいになっちゃった」
グサッと来た!グサッと!そ、それはあなたたちが暴れるからでしょうが!!
でも二人は表情を一転、ニヤッと笑う。
不器用に巻かれた包帯を今度は嬉しそうに見、
「ふふ。でも僕らのこと、心配してくれたんだよね。だから許してあげる」
「馬鹿ウサギや他の奴らもケガしてたのに、お姉さん、僕らを優先してくれたし」
……そりゃ、向こうは大人ですからね。自分の傷くらい何とかするでしょうし。
逆にあなたたちは強がって、放置して悪化させそうですもの。

そして私は、ベッドでゴロゴロする双子を尻目に、薬品類の片づけに入る。
それから自分の服を見下ろしました。
……それにしても、私も汚れちゃいましたね。
双子の面倒を見てたから、私の服もブラッディなことに。
――部屋に戻って着替えて、向こうでそのまま寝ますか。眠いですし。
私は薬品類一式を抱え、とっとと部屋を出て行こうとして――
「お姉さん、どこ行くのっ!?」
「泊まってくれるんじゃないの!?」
驚愕したような二人の声。
そして双子はバッとベッドを飛び下り、出て行く間もなく、私の両腕を取る。
『お姉さん!』
い、いえ、そんなに必死な顔で言われましても。こんな服でどうお泊まりしろと。
だいたい、ブラッドさんにお茶会の招待も受けてますし、いつ招かれてもいいように
身支度をととのえておきませんと。あと昼寝!それ一番重要!!
ううう、そういえば起きてる時間が長かったせいか、また身体がダルく……。
廊下で寝たら怒られますかねえ。
「行かないでよ、お姉さん!」
「寂しいよ、そばにいてよ!」
今度こそ扉に手をかけようとすると、ガシッと両側から双子に抱きつかれます。
……はあ。懐かれたもんですねえ。
――私の部屋に連れて行くしかないですかね?
私はため息一つつき、双子を見た。
『お姉さん!』
するとパッと顔を輝かせる双子。え?
「やったあ!お姉さんの部屋にお泊まりだ!!一番の報酬だよ、兄弟」
「お金もいいけど、お姉さんがかまってくれるのもいいよね」
え?え?何か、表情を一方的に解釈されてる?何か心を読まれた気分!?
ま、まあ泊めるのはいいですけど……。
『お姉さん、大好き!』
何かこう、コミュニケーションが一方通行すぎますねえ。いえ、私が悪いんですが。
ああああ、ちゃんとお話が出来たらいいのに、何か言葉が頭をグルグルして、結局
口から出ないというカイさん負のスパイラル!

とにかく、本当にケガをしてるんだろうか、というくらいの身軽さではしゃぐ二人。
逆に私の方が、ヨロヨロと頭痛をこらえ、お部屋に向かうのでした。

…………

窓の外は月夜。私の客室は、ようやく静かになりました。
――はあ……やっと寝ましたか。
月明かりの中、ベッドの上ですやすやと眠る傷だらけの双子。
『抗争』とやらの高揚感も引きずっていたのでしょう。
二人はいつも以上に騒がしかったです。
お菓子を使用人さんに持ってきていただき、三人でのカードゲームに枕投げ。
あと『抗争』とやらで、いかに敵を圧倒したかの自慢話……。
とにかくはしゃいではしゃいで、こちらにまとわりついて、やっと眠りました。
「お姉さん、大好き……」
「カイお姉さん……」
月の光に浮かび上がる、無邪気な二つの寝顔。
私はその顔をじーっとじーっと眺めます。

――見分けられるようになりませんと……。

何しろ『入れ替わり』という、とんでもない遊戯をしている子どもたちだ。普通の
入れ替わりなら、子どもの遊びですむけど、大小の傷をこさえた状態で入れ替わりを
されたらたまりません。傷を強引に隠しでもされたら。化膿する!悪化する!
普通はやらないでしょうが、この双子はやりかねないのです。
何しろ刃物で頬に傷をつけても、笑ってる子どもたちなのだ。
――でも、入れ替わり阻止以前に、見分けがつかないんですよね。
こうして寝ている間に、何か違いを見つけられまいか。
目に穴が開くほどじーっと眺め、ついに私はあきらめました。

ダメです。どうやっても他の見分け方が分かりません。
双子の双子な秘密が分からない。

――なら、どうやって、危険な入れ替わりを阻止すべきですか……。

月光の中、頭の良いわたくしはしばし考え……ほどなく回答にたどりつく。

――そうだ!ずっと側にいればいいんですよ!!

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