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■双子の秘密3

「おや、やっと起きたか?お寝坊なお嬢さん」
ぼんやりとした視界にうつるのは、世界が滅亡したようなファッションセンスの……
コホン、失礼、私がお世話になっているこのお屋敷のご主人さまです。
目を転じると、大きなお耳のウサギさん。
そして見覚えのある双子君たちが見えます。
……何で、身体のあちこちに赤いのをつけているんでしょう?

「ちゃんと仕事をしろよ、ガキども!!」
「別の仕事はしただろ、切り刻んだじゃないか!!」
「もうちょっと仕事をして、今度こそ、その耳をちょん切ってあげるよ!!」
私は寝起きの頭でボーッと、そのやりとりを見てました。
すると私のすぐ横に誰かが座る気配。ブラッドさんです。
「起きがけに刺激のあるものを見せてしまったようだ。
お詫びに、お茶会にご招待したいものだが、今度こそ受けてくれるだろう?」
手をのばし、耳を撫でられる感覚にゾワリ。
それで目が覚めてきてブラッドさんを凝視した。
彼は女性なら誰もが魅了されるだろう微笑みで、
「おはよう、お嬢さん。まだおねむなら、お茶会の後、私の部屋で寝ていくか?」
あまり冗談とも思えないような声。手が私の頬を撫でる。
……私はディーとダムの方が気になり、そちらに視線を転じました。
「おや、背を向けるとはつれないな」
後ろの声はどうでもいい。あと肩を撫でるなセクハラ。

……さっきは寝ぼけてたんですが、どうしたんでしょう。
あの二人。赤いものが身体のあちこちに……。
「何、ちょっとした抗争だ。子どもだが腕は悪くない。
ほとんどは返り血で、大きなケガはしていないよ」
後ろから、この家のご主人のダルそうな声。
私は思わず振り返る。
『抗争』?『子どもだが腕は悪くない』?『大きなケガはしていない』!?

青い空がどこまでも青い。
私は目を見ひらき、奇妙な服装の男を凝視する。
後ろでは、銃弾の音と、斧のぶつかる音。
そして私たちの横を、
「はあ〜今回の抗争も疲れたな〜」
「ボス〜、お嬢さま〜、失礼します〜」
「お嬢さま〜お布団ありがとうございます〜。でも無理をなさらないで下さいね〜」
いつも通りの声で通りすぎる、全身に赤を散らしたメイドさん、使用人さんたち。

「君はこの屋敷の前を通りがかり、門番たちの鋭い斧で切り刻まれた。
ケガは戻っても、心には刻まれたままのはずだ。この世界の常識が」

そうだろうなとは、思っていました。
私に優しい人たち。でも優しすぎる。私を甘やかしすぎる。
本当に、ここは私が好かれる世界みたいです。
でも、私という異分子を取り除いた現実は……

「我々はマフィア『帽子屋ファミリー』。この屋敷はその本拠だ。
私はボスをやっている」

下らなさそうに言うブラッド=デュプレ。
私は風にふかれ、ただ彼を凝視していた。

何だか夢でも見ている気分です。
とりあえず、私はフラリと立ち上がりました。
少し混乱しましたが、今はただディーとダムのことが、心配です。
「マフィアと知っていて逃げないのか?面白いお嬢さんだ」
笑って立ち上がるブラッドさんの気配。
「昼の光が実にダルい。私も君を見習い、屋敷で寝るとしよう。
お茶会で君を待っているよ、カイお嬢さん」
私に片目をつぶり、ブラッドさんは悠々とお屋敷に帰っていく。
その後ろ姿を複雑な思いで眺め、それから私は双子とエリオットさんを見る。

ブラッドさんが消えたことにエリオットさんはすぐ気づいたらしい。
慌てたように銃をしまい、
「ちょっと待ってくれよ、ブラッド!俺も行くって!!」
屋敷に去って行く素っ気ないボスを、犬のように追いかける。
そして去り際に双子の方を振り向き、
「いいか!仕事をサボるんじゃねえぞ!ガキども!!」
捨て台詞のように怒鳴り、ボスと一緒に扉の向こうに消えた。
そして中庭には、私と双子が残された。

「あーあ、労働に労働で、疲れちゃったよ兄弟」
「ひよこウサギは動物だから、疲れが分からないんだよ兄弟」
斧を地面に叩きつけ、双子たちは毒づいていた。
私に気づいてないかと思われましたが、双子は同時に私を振り向き、ニッと笑う。
「でもお姉さんが出迎えてくれて良かった!」
「僕たちのお布団を干してくれるなんて、お姉さん良い子だね!」
気づいてもらえたのはさておき、子どもに良い子と言われました。
「お姉さん、かがんでかがんで!」
「頭をなでてあげる!!」
無邪気に寄ってきて、ニコニコしている。
そして二人ともハッと気づいたように、
「でも、僕ら汚れてるよ」
「お姉さんを汚しちゃダメだよね」
うーむ。やはり瓜二つです。逆になってるなんて、とても信じられません。
というか『大きなケガ』は確かにしていないけど、小さなケガはあちこちにある。
私は急いでバンソウコウを出し、二人に貼っていきます。
でもすぐに使いきってしまいました。

「お姉さん。僕らのこと、気にしてくれるの?これくらい平気だよ?」
「僕らだってマフィアだからね。ありがとう、お姉さん」
バンソウコウをペタペタはられた双子はむしろ得意そうに言う。
でも私は心配なんです。
あ。けっこう大きな傷がありました!今もドクドクと赤いのを流しています。
でも双子は痛がるどころか意識した様子もありません。
――とりあえず止血だけでもしてあげたいですね。
私は急いでハンカチを出し……あー、ハンカチを忘れました。
バンソウコウももちろん切らしてます。それなら……。

そして双子が一緒に目を見ひらく。
「お、お姉さん!?上着を破いてどうするの!?」
「お姉さん、や、止めてよ、僕ら、いいから!!」
双子は慌てていました。
でも私は上着のそでをビリッと破り、それを双子の傷の上に簡単に巻こうとした。
けど双子は少年のプライドなのか、嫌がるように逃げる。
「お姉さん、僕ら門番だから、本当に何でもないよ!」
「そこまで心配してくれなくても、すぐお屋敷だから平気だよ!」
わずかな距離でもダメです!ケガを甘く見ない!横着しない!
でも双子は嫌がるように逃げ回る。
仕方なく私は、少し泣きそうな声で、かすれるように、

「お姉さんの言うことを聞きなさい」

ピタリ。それで双子が止まる。よしよし。
あれ、視界が少しうるんで……あ、涙が一粒落ちちゃいました。
二人はギョッとしたように私を見てます。
は、恥ずかしい!


そして、私は順当に双子のそれぞれの傷に、包帯(もどき)を巻き終わりました。
次は屋敷で救急処置です。
双子の手をグイグイ引っ張り、屋敷へと戻っていきました。
呆然とした風な二人の視線を感じながら。

そういえば、双子に構ってたら、私の服にまで血がついちゃいましたね。
ま、いいですか。

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