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■双子の秘密2

空は晴天、風はそよそよ。帽子屋屋敷は本日(?)も平和です。
私カイは、中庭に干した布団をバンバン叩きながら、
――ああ、天気の良い昼間に布団干しなんて、幸せ……。

寝ていることが多いから、布団のふかふかには、こだわりたいもの。
最近は体力が回復し、布団干しが、どうにか出来ました。
私の客室のお布団と双子のお布団です。
お日様の光をいっぱい浴びたお布団は、どんな最高級布団にも勝るものです。
とはいえ、普段は布団干しなんて、させてもらえません。
私に関して、皆さんなぜだか『カイお嬢さまはお身体が大変弱い』という根も
葉もない設定を強固に信じておられます。
重量あるお布団を持って歩こうものなら『そんなことは私(俺)たちが〜』と即座に
止められてしまうのです。普段なら。
ですが、私の客室と双子の部屋を行って戻るまで、誰にも止められませんでした。
それどころか、誰ともすれ違いませんでした。はてさて。
私はあたりをキョロキョロ見る。

――それに、ディーとダムはどこに行きましたかね?

…………

昨晩、ディーとダムの部屋にお泊まりさせていただいた私カイ。
ですが、起きてみると、部屋に二人の姿はありませんでした。
テーブルの上のクッキー皿は、片づけられていて、代わりに紅茶とサンドイッチが
ありました。私はそれをありがたくいただき、二人の帰りを待ったのです。
が、いつまで待っても帰ってきません。
それで、何回か時間帯が変わったあと、あきらめて部屋を出ました。

その後はブラッドさんのお部屋に向かいました。
私の居眠りのため……じゃない、お泊まりのため、ブラッドさんに約束させられ……
もとい招かれていた夕食をドタキャンしてしまったからです。
そのお詫び(頭下げるだけ)をすべく、ブラッドさんの部屋の扉を叩きました。
ですがブラッドさんは不在。ブラッドさんと、ついでに双子君の居場所を聞くべく
エリオットさんを探しましたが、彼も姿が見えません。
それどころか他のメイドさん使用人さんもおりません。
残っている人もいましたが、たいてい忙しそうで、聞くのがためらわれました。
私は戸惑いつつ、とりあえずお布団を干すことにしたのです。

再び私の意識は中庭へ。私は布団を叩きつつ、首をかしげます。
まあ、そろって消えたわけではないのでしょうし、そのうち帰ってくるでしょう。
――ふう……。
私は空を見上げ、爽やかなそよかぜに目を細めます。
――いいお天気ですね。
お布団に顔をつけると、お日様の匂いがします。
特にやることもなく、急かされることもなく。
――眠いですね……。
誘惑には勝てませんで。ちょっとだけ、ちょっとだけ。
私は草むらにペタッと座ると、布団干し台に背中を預けて、ポカポカした日差しを
浴びながら目を閉じ……

…………

…………

……どこか遠くで声がいたします。
「カイ!おいカイ!猫じゃないんだから、草の上で寝るなよ!」
聞こえません聞こえません。私は寝るのです……。
「やれやれ。会うたびに可愛い寝顔を見せてくれるお嬢さんだな」
ダルそうな声が一つ。
「カイ!外で寝るなよ!また体調が悪くなるぞ!」
……誰かにちょっと揺さぶられている気も。
うるさくって、私は身体を丸め、さらに深く寝ることにしました。
「寝てもいいけど、客室にしろよ!おい、カイ!」
そして、
「大きな声を出すなよ、ひよこウサギ!お姉さんは僕らの布団を干してくれたんだ!
その休憩を取ってるんだよ」
「お姉さんは身体が弱いから、長いこと起きてられないんだよ!!」
聞き覚えのある声が、すぐ近くで聞こえた気もした。
いえいえいえ……ですから身体が弱い設定はないですって……。
「外で寝てる方が弱るだろ!カイ、起きろよ、カイー!!」
誰かが私をさらに揺さぶるけど、私は機嫌悪くうなって、丸まった。
まだ眠たいです。もう少し楽園にいさせて下さい……。
「カイ〜」
困り果てたような声。
「あはは!馬鹿ウサギがお姉さんに嫌われた!!」
「嫌われてねえよ!起きたくないってだけだろ?誰が起こそうとしたって同じだ!」
すると得意そうな声が、
「僕らのときは、そんなことなかったよ。布団を頭までかぶって丸まっただけだし」
「それ俺の反応と、あんまり変わらないんじゃねえか……?」
妙なやりとりが続きますねえと、ぼんやり思っていると、ダルそうな声が、
「ふむ。お嬢さんが夕食会を欠席し、私もエリオットも寂しい思いをしたものだ。
だが、まさかおまえたちの部屋で寝ていたとはな」
「……おい、まさかおまえら、身体の弱いカイにひどいことを……!!」
聞き覚えのある声に緊迫感が入る。返答次第ではタダじゃおかねえぞ的な。
「何?無理やりってどういうことだよ、馬鹿ウサギ?」
「僕ら、お姉さんと部屋で遊んでただけだよ。お姉さんが先に寝ちゃったけど」
不思議そうな双子の声。
「何だ……何もねえのかよ。驚かせやがって」
ホッとした声と、
「ほう、それはいい話を聞いた。お嬢さんを何度もお茶会に誘おうとしたが、体調を
悪くして床に伏しているか、おまえたちが独占しているかだったからな――」
すると嫌そうな声が二つ、
「ボス。僕らがお姉さんと遊ぶのを邪魔する気?」
「カイお姉さんはこれからもずっと僕たちと遊ぶんだよ!!」
そして低い声が横から、
「遊ぶより仕事をしろ、ガキども!!カイの部屋に入り浸って、最近ほとんど
門の前にいねえだろうが!」
「うるさいな、ひよこウサギ!」
「一回だけお姉さんに口をきいてもらったからって、いい気になるなよ!!」
うるさいのはあなたたちですよ……。
「やる気か?面白ぇ!!」
……ドンドン、ガキンガキンと。
銃声に金属音が鼓膜をさし、私は機嫌悪く半眼を開きました。

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