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■双子の秘密1

昼下がりの双子の部屋。
私に刃物を見せようとしたダムは、手が滑って自分の頬を傷つけてしまいました。

ダムはちょっと傷ついた頬をぬぐいながら笑い、それを見るディーも笑っている。
やれやれ。物騒な子供たちですね。
とりあえず、私はポケットから小さなバッグを出す。
あったあった。緊急用にいただいてたバンソウコウ。
私は包装を開け、バンソウコウのテープをはがしました。
『え?』
きょとんとした双子の声。私はダムの傷にペタッとバンソウコウを貼ってあげた。
「うわあ……ありがとう、カイお姉さん!!」
バンソウコウに手を当てて、嬉しそうに笑うダム。頬が赤い。
ふふ。可愛いですね。ついでにクッキーのお皿からスノーボールを取ると、ダムに
『あーん』させようと、口にクッキーを近づける。
「え……?は、恥ずかしいよ、お姉さん」
と言いつつ、ダムは素直に口を開け、笑顔で頬張る。顔真っ赤ですが、超ご機嫌だ。
「おいしい……すごく美味しいよ!」
いえ、別に私が作ったクッキーではありませんが。
「お姉さんがくれたクッキーだと思うと、もっと美味しいよ!」
意識してか、そうでないのか謎ですが……フォローかましてきやがっただと!?
しかも『一度落としたように見せかけ、持ち上げる』形式とな!!
こ、この少年、口説き文句の基礎を心得ていやがります!
もう少し大人になったら、どれだけの『お姉さん』が落ちることやら……。

「ずるい!ずるいよ!お姉さん!僕のことは殴ったのに兄弟には優しい!」
対して、放置されたディーは不満そう。後ろからぎゃあぎゃあ、わめいてくる。
「いいだろ〜兄弟〜」
ダムは得意顔。
ディーは私の肩を揺さぶり、小さな子みたいに注意を惹こうとしてくる。
「ひいきだ!ひいきだよ、兄弟にだけ!お姉さん、ひどい!」
やかましいわ、人で切れ味を試そうとしたくせに。
おまえなんか好感度−2ですし。
ツーンとディーを無視し、クッキーをもう一つ取り、ダムに食べさせていると、
「お姉さん、カイお姉さんー!!」
ディーが後ろからガバッと抱きついてきました。
うわ、結構重い!!あと、しめつけてますがな!好感度を下げるぞコラ!!
「ずるいよ兄弟!自分がかまってほしいからって!!」
今度はダムまで前から抱きついてきました。うわ、前から後ろから。
でももがいても、動けない。うう、門番をやったり、身長以上ある斧を振り回したり
するだけあって、小さくても力は尋常じゃないようです。
「…………」
しばらくして、もがくのをあきらめ、私は大人しくしました。
何か……色々あって疲れましたねえ。
「お姉さん?」
後ろから肩に腕を回しつつディー。
「お姉さん?」
前から腰に腕を回しつつ、頬にバンソウコウをはったダム。
ぎゅーっとされて温かいですねえ……うう、危険なはずなのに、何か眠く……。

…………

――あれ?
目を開けると、夜の時間帯でした。私はベッドに寝てるっぽいです。
それはいいとして。
――天井に、あんな切れ味の良さそうなカマなんてありましたっけ?
というか、どういうオブジェですか。つなぎが切れて落ちたら確実に逝くわ。
と、寝返りを打とうとすると……あれ?動けません?
――こ、これは金縛り!!
異世界にも金縛りがあったのか、と衝撃に思いつつ、どうにか動こうとしていると、
「お姉さん〜……」
「お姉さん、大好き〜……」
赤と青の双子が、両側から私に抱きついていました。

二人ともちゃっかり寝間着に着替えています。
あらら。いつの間にかお泊まりさせられちゃったみたいですね。
力のゆるんだ双子をどかせ、私はベッドから下りました。
――お腹すきましたね。
テーブルまで歩き、クッキーの残りをつまむ。あああ、おやつを夕飯代わりにしちゃ
いけないって言うのに!でも美味しい!!
そしてしばらくクッキーを空きっ腹に押し込み、どうしようか考える。
このままお部屋に帰ってもいいけど、外は暗いでしょうし、いちおう二人に招かれて
おいて、何も言わず帰るのも……。

ベッドの上の双子を見ると、まだ私を呼びつつモゾモゾ動いている。
このままだと、双子が互いを抱きしめる××展開になりそうな悪寒。
仕方なく、私はベッドに戻ることにしました。
よじよじとベッドの真ん中に上がらせてもらうと、すぐ、
「カイお姉さん、見つけた〜」
「カイお姉さん、捕まえた〜」
微妙に怖いことを言い、双子が抱きついてきます。
『もしや起きてる?』とも思いましたが、どうも本当にぐっすり寝てるようです。

窓からは月明かりが差し込み、二人の寝顔をほのかに浮かび上がらせる。
――でも、寝るときも赤と青のパジャマなんて可愛いですね。
私は目がさえて寝る気になれず、しばらく双子の頭を撫でつつ、寝顔を観察する。
「お姉さん〜」
と腰に手を回したダム。頬にバンソウコウをはって、可愛……

――あれ?

違和感。何か違和感。何かが違う。

「お姉さん……むにゃ……」
ダムがもう一回言って気がついた。
――ああ、声がちょっとスローじゃないんですね。
そしてまた思う。それだけじゃない。何か違和感が……。
「お姉さん……」
私の膝に頭を乗っけながらディーが寝言。逆にディーの方はちょっとスローな……。
――もしかして……。
ある考えが私の頭に浮かびました。

私は顔を近づけ、月明かりに見えるディーの寝顔をじっと見る。
そして恐る恐る頬に手をやり、頬を撫でた。そして指の感触に全神経を集中させる。
――……やっぱり。
クリームを使ってるのか知らないけど、何もないように見える頬に、傷跡の感触が
確かにある。今度は赤いパジャマの子を見て、そーっとそーっと、バンソウコウを
はがすと……その下の皮膚はきれいだった。今度は触れても何もない。


――何だって、入れ替わってるんですかね、この子たち?


寝ぼけた双子に抱きつかれつつ腕組みをします。
思えば昼間に抱いた違和感もそれでした。
入れ替わってたから、若干、しっくり来なかったんですね。
まあ、そっくり同じ容姿の双子なら、カラコンでもすれば分かりませんし。
とはいえ『傷跡』という決定打がなければ、私もずっと気づかなかったでしょう。
これで傷が消えた後に入れ替わられたら、今度こそ分からなくなりそうです。

――しかし、どちらが真のダムでディーなんでしょう?
もしかすると『自分たちにも分からない』というシュールな答えが返るやも。
ま、いいですかと、私は肩をすくめました。
――遊びでやってることは確かでしょうし。
それで何か迷惑をこうむったわけでもなし。
気づかないフリをしてあげるのが、大人というものでしょう。

私はあくびをして、また横になりました。
そしてまたウトウトと眠りの世界に戻りました。
もっと抱きついてくる双子たちを、抱きしめ返しながら。

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