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■誓い・上

遠くから声が聞こえます。
「他の役持ちを上手く使って刺客を倒した?俺たちが行かなくて正解だったな。
放っておけって、ブラッドが言った通りだ!」
「この物騒な国でまで、子供でいられては困るからな。
三人だけで解決出来て当然だ」
エリオットさんとブラッドさんの声です。
「でもよ。測量会サボって×××ってのはなあ……さすがにウワサになってるぜ?」
「帰路でもカイを引きずって姿を消していたな。道からそう離れて
いない場所で、嫌がるお嬢さんを押さえつけ、ずいぶんとお盛んだった
という目撃情報がいくつもある。その後も街の宿にお嬢さんを――」
「ったく、エロガキどもが!またカイに嫌われても知らねえぞ!
……と!何だよ斧を振り回して、やるってのかコラァ!!」
銃声と金属音。怒鳴り声がいくつか。
「というわけでお嬢さん。まあ新しいウワサは立っているが、そちらは
すぐに飽きられ、忘れられるだろう」
ブラッドさんが私に声をかけてきます。
「ひとまず子供がどうこうという、君にとって一番不名誉な噂は無くなり、
門番たちとも復縁が叶ったようで何よりだ……だから、そろそろ出てきなさい」
私はただ顔面蒼白でブルブルしながら、テーブルの下で丸くなってました。

…………

そして夜も更けた双子の部屋。
「バカバカバカ!人目かまわず何てことするんですか!!」
「い、痛いよお姉さん!痛い!」
パジャマ姿で私のポカポカを受けるディーは、それでも嬉しそうです。
「わっ」
「カイお姉さん。兄弟ばっかり構ってないで僕も見てよ」
同じくパジャマのダムに、横抱きにされボフッとベッドに転がされました。
「捕まえた!」
のしかかるように抱きしめてくるディー。
二人の笑い声。私はムーッとうなり、枕に顔を押しつけます。
そう。二人はしつこかったです。
測量会の最中に限らず、帰り道、その後。言わずもがな、部屋でも……。
「とにかく、場所を構わないのは勘弁して下さい。あと、周囲の迷惑は
考えること。合意無しに林の奥や宿に引きずり込むのは論外です」
押さえつけられながら、まくしたてると、二人は驚いたような顔になる。
「え?お姉さんは場所を気にするの?僕らよりも場所が大事なの?」
「何で他の奴らの目を気にしなきゃいけないの?顔無しじゃない」
何でと聞きますか……。でも言いたいことをちゃんと言わないと、
後々トラブルになるのは目に見えています。
そこで私はしばし天井を仰ぎ、コホンと咳払い。
そしてやや顔を赤くし、
「あ、あなたたちのことを、わ、わ、私だけが、独り占め、したいんです。
他の方に、あ、あなたたちを見られるのは、嫌なんです」
……ちょっとツッコミどころがあるかも。
しかしこの二人を納得させるにはそれくらいは言わないと。
あれ?二人が黙ってます。や、やはりツッコミを考えるのに忙しい?
「う、嬉しい……お姉さん!!」
ディーがガバッと抱きついてきます。
「お姉さんの方からそんなことを言ってくれるなんて……」
ダムもです。く、苦しい!圧迫が!呼吸が!!
「大好き!カイお姉さん大好き!」
目的はブレませんでしたか。ディーが私のネグリジェの肩紐を下ろします。
「会場や帰り道に負けないくらい、愛してあげるからね」
ダムも、私のネグリジェの裾から手を忍ばせます。
私も観念して、二人にキスをしながら、
「あの、あとですね。連戦なので、出来れば子供に戻って……」
そちらはきれいさっぱりに流されました。
戻る余裕がないのか、大きい方が嫌がる私を押さえつけやすいのか知りませんが。

…………

…………


カフェにいても、行き交う人の話し声や、汽車の汽笛が聞こえます。
駅の領土は事故やらトラブルやらで、常ににぎやかです。
「最近はしゃべれてるみたいじゃない」
鮮やかな色の……気のせいかお魚臭いソーダをストローで飲みながら、
ダイヤの国のボリスさんは笑います。
ボリスさんとは、ダイヤの国で双子の次に仲良くなりました。
ディーとダムの友達と言うことで一緒に会うことも多く、四人で他の
領土に遊びに行くこともしばしばです。
「あれだけ凄まじい恥をかかされましたし、多少のことで恥ずかしがったり
するのが、馬鹿馬鹿しくなっちゃって」
私も紅茶を飲みながら応えます。
人質になった際の盛大な告白、測量会すっぽかしての×××、さらに
帰り道やその後の、人目構わぬお盛んぶり。
もうですね。何て言うか、何も怖くない的な?
「あはははは。ショック療法ってやつ?良かったじゃない」
ボリスさんは気楽に笑います。
「それで、今回はディーとダムを連れてこなくて良かったの?
また嫉妬して大変なんじゃない?」
ゴロゴロ喉を鳴らしながら……やっぱり魚臭い気がするソーダを飲む
ボリスさん。背後で盛大な事故の音がした気がするんですが、全く意に
介さず、私を見つめてきます。
私は飲み終えた紅茶をテーブルに置き、
「まあバレてもどうにか説得します。あの二人も分かってますから」

ケンカして、ちょっときっかけがあって、仲直りして。
ダイヤの国で最初に乗り越えた、ほんの小さな山。
大きく進みもしないけど、私たちは以前より分かり合えるようになっています。
……『小さな山』という割に、そこそこの犠牲者が出て、申し訳ない気もしますが。
と、そこでボリスさんが……やはりどう考えても生臭いジュースを
飲み終わったらしいです。コップを置いて楽しそうに立ち上がり、
「それじゃ、行こうか。あ、でもさ」
「はい?」
私も椅子を引いて立ち上がりながら聞きます。
「あんたの買おうとしてるもの、結構高いよ?いいの?」
私はニヤリと笑います。
「……ふふ。ご心配なく。最近、ちょっと実入りがありましてね」
「そ、そう?ならいいんだけど」
測量会の賭け事。私の分析が大当たりで、かなりの大金が懐に入って
きました。最初は勉強のための本に使おうと思いました。
が、考えを変え、別の物を買うことにしたんです。
「行くよ、カイ」
「はい!」

ダイヤの国で新しく出来た友達と、笑いながら歩いて行きます。

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