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■仲直り

「は……あ、あはははは……ど、ど、ど、どうもご迷惑を……」
もはや乾いた声で笑うしかないです。
だがしかし、皆さん会場に戻る前に、確認せねばならないことがあります。
「あの、それでですね……皆さん、き、聞きました……?」
私が悪漢たちを前に言ったことを。
双子と悪漢たちしかいないと思ったから言えたこと。
今となっては恥ずかしくて仕方ないです!
漫画の見過ぎですか!と七転八倒したくなります!
「あ、二人がいないと生きていけないって言ったこと?
結構遠くまで響いてたよね。はは」
「パーティー会場まで届いてなかったか?あんたも大きな声が出せるんだな」
エース君とグレイさんの言葉が、私にトドメをさします。
何であの悪漢どもが私を撃ってくれなかったのかと、八つ当たり気味に考えました。
「まあ、仲直り出来たのでしたら、何より。二度と私たちを巻き込まない
ようにお願いします」
やはり感情のない宰相閣下の声。
そして、左右から私を抱きしめる腕。私は慌てて、
「ディー、ダム!人前で止めて下さい!」
でも双子は聞いてくれません。野次馬共に向け、
「あんたたち、分かっただろ?お姉さんは、僕らだけしか見てないし、
僕らのためなら命なんていらないくらい僕らが好きなの!」
「お姉さんは子供が好きじゃ無くて、『子供の僕ら』が好きってこと!
自分たちが好かれてるんじゃないかって、気色悪い勘違いは止めてよね!」
双子が見物人構わず私を抱きしめ、両頬、そして……唇にキスをする。
ヒュウッとボリスさんの口笛。なぜかジェリコさんが拍手。
――皆さんの前で何てことをーっ!!
しかし、もがけども一切身動き取れず、再度、さらし者になるしかありません。
今なら、今なら、屋敷の屋根から飛び降りるのも怖くない気がします……。
そして数秒後に双子が離れると、
「ディー、ダム。俺はそろそろ戻るから、三人で仲良くやりなよ」
ボリスさんはサッと会場の方へ走っていきました。
「では、わたくしたちも測量会に戻りましょう。ごきげんよう、カイ」
「そうですね。見せつけられ、もう十分です」
見世物が終わったからか、さっさと背を向けるクリスタたち。
「えー、俺はもう少し見ていたいけど」
「はしたない真似をするな、エース。ほら行くぞ!」
「雨降って地固まるか。良かったな、カイ。また遊びに来てくれよ!」
ユリウスさんはエース君の背中を押し、ジェリコさんも去って行きます。
「あー、グレイ。もう一枚ハンカチを持ってないか?」
「他人のキスで鼻血を出すなよ、本当にガキだな……」
鼻をおさえるナイトメア君と、それを気遣いながら立ち去るグレイさん。
そして、最後に私たち三人が残されました。

「ああああ……」
緊張も解け、思う存分、絶望で地面に崩れ落ちる私。
「ねえお姉さん!僕ら格好良かったでしょ?惚れ直した?」
「カイを守って男らしく戦ったよね?」
大きな身体で褒めて褒めてオーラを出しまくる二人。
「お姉さんが僕らを信じてくれたの、嬉しかったよ」
「こんなに僕らのことを好きでいてくれたのに、ひどいことを言ってごめんね」
あと二人の怒りは勝手に解決……というかケンカ自体がうやむやになった感じ
ですけど、私は聞いてません。それどころじゃないです。
「あああああ〜!」
頭を抱え、地面をのたうち回っているとドサッと何かが横たわる音。
「ん……?」
頭から手を放すとディーとダムが私に合わせるかのように、地面に横に
なっていました。そしてディーが私の顔を引き寄せ、ぺろっと目元の涙を
舐めます。背後からダムが優しく抱きしめてきて、
「可哀想に、よっぽど怖かったんだね、お姉さん」
と後ろから手を伸ばし、服のボタンに指を……。
「今、落ち着かせてあげる」
どうやら双子。私が戦いの恐怖で、のたうち回っていると思ったらしいです。
「え?ちょっとダム、止めて下さい。こんな場所で……」
とことん空気を読まない二人に、別の焦りが浮上します。
――ま、まさか、こんな場所で、こんなときに……?
悪漢たちはダイヤの城の兵士たちが処理したものの、まだ硝煙や赤の匂いは
ただよっています。何より測量会が……。
でもディーは私の両手を自分の両手に絡め、抵抗不可能な状態に。
「駄目だよ、カイ、大人しくしていて」
と優しくキス。しかしここはダイヤの城からそう離れてません。
「駄目……止めてください!ここをどこだと……!!」
整備された林は視界が開けていて、ちょっと近くを通りかかっただけでも
何が行われているかは一目瞭然。
「心配しないで、カイお姉さん。全員、会場にいるから誰も
ここには来られない。万が一にも目撃される心配はないから」
私の襟元に指先を忍ばせ、鎖骨のあたりをくすぐりながら、ディーも
ボタンを外していきます。
「いえ!あの展開の後戻らなかったら、何をやってるか丸わかりで……
それ以前に!あなたたちは役持ちなんですから、測量会に戻らないと!!」
「一度集まったんだから大丈夫だよ。
それに、僕らはルールよりお姉さんの方がずっとずっと大事だから……」
胸を愛撫しながらダムが言う。
「駄目です、絶対に……ん……!」
それでも、甘い声が出てしまいます。
二人に触れてもらえること、二人と心を交わせること。
それが本当に嬉しい。心の底から嬉しい。
早く戻らなければ、という思いとは逆に、私は抵抗する気力を失い、
自分から何度も二人にキスをせがんでいました。
「ふふ。お姉さんも素直になってきたみたいだね」
ネクタイを外しながらディーが笑います。
「でも、優しくしてもらえるなんて思わないでね。お姉さんに意地悪
された分、いっぱいいっぱいお仕置きさせてもらわないと」
私の下の服に手をかけながらダムも微笑む。
「もう、好きにして下さい……」
あきらめました。
このワガママな恋人二人には、どうやっても逆らえないんだから。
「ディー、ダム。助けてくれてありがとう。
あなたたちが、すごく、大好きです……」
測量会の歓声も遠い。

それから測量会が終わるまで、私たち三人は、ルールからほんの少し
離れた場所で、ずっとずっと愛を確認し合っていました。

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