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■どうにか解決・上

――はああ……本当に私って……。

私カイはため息をつきます。
自己嫌悪で、もう何がどうでもいいというか。
そして目の前の恋人二人は必死に私に呼びかける。
「お姉さん、さっきはごめんなさい。僕らが言いすぎたよ!」
「そろそろ測量会の結果が出るよ。とにかく一緒に戻ろう?」
――いえ、戻るも何も……。
私は動くことの出来ない身体のまま、陰鬱な目で二人を見上げ、言いました。
「ディー、ダム。あのですね。本当に別れませんか?私たち」
瞬間。二人はギラリと斧を構え直す。
「……それ、本気で言ってるの?」
「どうなるか、覚悟が出来てるってこと?」
……怖いですって。怖いですって。
私は喉元に銃を押しつけられながら小さな声でつむぐ。
「だって、あなたたち二人ってフリーダムすぎますし……」
最近は相手が子供だとかマフィアだとかよりも、性格の合わなさが
気になってきました。もちろん大好きではあるのですが。
「それはお姉さんでしょう!」
「僕らのことを振り回して喜んでるじゃない!」
……あなたたちに言われたらおしまいですね。
「二人とも、空気だって全然読まないし……」
「空気?読まない?見えないのにどうやって読むの?」
「お姉さん、何言ってるの?意味分からないよ」
全然分からない、という顔で聞き返されました。
……う、うん。空気を読むとか、この世界でそんな発想がある人は
数えるくらいですよね。私は肩を落とし、
「その、とにかく……」
続きを言いかけたけど、出来ませんでした。
痕が出来そうなくらい、喉元に銃を押しつけられたからです。

「ブ、ブラッディ・ツインズ!武器を捨てろ!!
でなければ、この女がどうなるか!分かっているな!?」

……はい。さっきからずーっと、私は人質になりながら二人と会話して
いました。何でこうなったのか。二人に怒られ、怖くて恥ずかしくて
ひとけのない場所まで走って行って。怖そうな人たちに囲まれ、人質に。
……すっかり忘れていました。自分がずっと双子に守られていたことを。
ダイヤの国が今までの国より物騒で危険だということを。

ディーとダムが来たときには羽交い締めにされ、喉元に銃を押しつけ
られてる状態。
……なのに双子は悪漢たちの口上を完全に無視して私に『戻ろう』
『やり直そう』と口説いてくるのです。
怖い人たちの存在をスルーして、呑気に恋人と会話なんて!
本当に勘弁してほしいものです。

でも双子は武器を捨てません。双子は悪漢たちに目を向けると、私に
向けるものとは正反対の冷ややかな声で、
「おい!僕らはお姉さんと大切な話があるんだ!さっさと放せよ!」
「今なら大サービスで、のたうち回るくらい痛い思いをさせてあげるよ?」
どこが大サービス……。
しかも武器を捨てろと言われたのに、逆に斧を構え直しています。
「舐めやがって……おい!見せしめにどこか撃ってやれ!!」
激昂した男の一人が、私を羽交い締めにし、銃をつきつける男に言う。
余裕を装っていても、わずかに強ばるディーとダム。
「え……でも……」
すると銃を構えた方の男が、ためらうような声。すると双子が、
「へえ、そっちの男は利口じゃないか」
「撃ったら、その瞬間おまえたちも『止まる』。意味、分かるよね?」
役持ち二人の残酷な笑いに、悪漢たちが緊張する気配が嫌でも伝わります。
「ひ、ひるむな!こっちには人質がいるんだ!耳を吹き飛ばせ!!」
「は、はい!」
――……っ!!
リーダー格(?)の男の命令に、私の心臓が凍りつきそうに……なりません。
怖がるべき状況なんでしょうが、怖がりの私が、驚くくらい落ち着いて
いました。私は何も心配していません。

――やっぱり、これが私の『本音』なんですよね。

終わろうと思っても無理。二人からは離れられない。
私を羽交い締めにする男が、思い切ったように私の耳に銃を押し当てても。
「やるの?なら楽にしてあげる前に、おまえの耳と鼻をそいであげるよ」
「それとも地下室に送られたい?うちの地下室、『いいところ』だよ?」
内容と言うよりも、二人の酷薄な表情と声に、ヒッと、すくみ上がる声。
「チッ、臆病者が……なら、俺がやる!!」
誰も私を撃ちたくないみたいだったからか、リーダー格らしき怖そうな男が、
私に向き直ります。そして怖がった様子のない私に、
「おい!あいつらに武器を捨てるように言え!さもないと……」
と定番の脅し文句を言い、私に銃をつきつける。
もちろん羽交い締めしてる男にも、銃を向けられています。
ディーとダムは手出し出来ないらしいです。
でも飛びかかる寸前の獣のように、身を低くし、斧を構えています。
だから安心して、私も言うことが出来ました。
「怖くはないですよ。ディーとダムが守ってくれますし、
たとえ撃たれても、ディーとダムが仇をうってくれますから」
『それに』と、一度言葉を切る。
――え、ええと……。
不味いです。一瞬、無口が再発しかけました。
でもそんな場合じゃないです。
――カイ。測量会で仲直りするって決めたじゃないですか!!
私を人質にしているお兄さん達には悪いけど、最初から私は恐怖も緊張も
何もない。だって目の前には大事な二人がいる。彼らがいれば怖くない。
もし私がドジをして、彼らが撃たれたとしても……。
私はうつむき、真っ赤になった顔を上げ、大声で怒鳴った!

「私は二人を愛し、信じています!!
二人がいない世界になんて、私は生きていけません!!」

『お姉さん……!』
二人の顔がパッと明るくなる。

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