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■測量会開催!・下

私はうつむき、呟きます。
「はあ……クリスタとも仲良くなれそうだったのに……」
あ。蚊の鳴くようなかすれ声だけど、久しぶりに声が出ました!
ブラッドさんはチラッと私を見、
「だが、あちらの宰相も、君を帰す算段を考えていたはずだ。
本当に測量会間近だからな」
ん?測量会?ここのところ頻繁に聞く言葉です。
「催しには自分の領土から行くものだ。ルールは破るものだが、主催者
自らが帽子屋領の者を連れていくのでは、宰相殿も厄介な立場になる」
はあ。相変わらず、この世界のルールはややこしいです。
「まずはお茶会だな。来なさい、カイ。
料理長の新作の菓子を食べたくはないか?」
「はあ……」
渋々振り向き、ブラッドさんの方に向かいます。
そして短い滞在に思いをはせました。
シドニーに撃たれかけ、クリスタに凍らされかけ、遊びに疲労困憊するまで
つきあわされ、会うたびにシドニーにネチネチと嫌味を言われ……。
――……帰ってきて正解だったですかね。
「そうとも、住み慣れた自分の領土が一番いいだろう。さあ、どうぞ」
ブラッドさんは上機嫌で私に椅子を引いて下さいました。
私はそちらに歩きかけ――
「…………」
背中に視線を感じます。痛いくらいに感じます。
私は前を向いたまま、ツツツ、と後ろに後じさります。
それから扉の前あたりで足を止め――
『お、お姉さ――』
相手に声をかけられる前に、後ろ足でバンッと扉を閉めました。
『〜〜〜〜!』
扉の向こうから泣きそうな声と、健気に扉を叩く音。
知ったこっちゃありません。
私はスタスタとブラッドさんの元へ行き、椅子に腰かけます。
「少しは許してやったらどうだ?君に振り向いてほしいと必死になるから
こそ、余計に周りが見えなくなっているんだろう」
手ずから紅茶を淹れながら、ブラッドさんは楽しそうに仰る。
「人の気持ちまで見えなくなっては、困ります。でも――」
やっぱりかすれ声だったけど、どうにか出ました。
とはいえ、本当は許したくなってるダメダメな自分もいます。
――暴走しがちで一生懸命で、強くて弱くて、あと子供。
彼らとの恋愛は特殊で、時として頭を抱えるくらい難しい。
それでも別れることは考えられない。それくらい愛おしい。
……私も私で末期かもしれません。

「測量会で、仲直りしますよ」
小さく呟きました。

「ああ、そうしなさい。君がいれば、門番たちが荒れずにすむ」
あ、扉の向こうの物音や声もピタリと収まった気がします。
まさか、この小さな声が聞こえたわけがないですよね?
いや、この世界の人たちは異様に身体能力が高いけど……。
――とにかく本当に測量会で、仲直りしましょう。
改めて自分に言い聞かせ、うなずく。
催しが何でどんな内容かは分かりませんが、双子のことだけ考え、双子の
ことだけ見てれば、おのずと道は開けるはず。
――そう。他に目を移さず、二人のことだけ考えていれば、きっと……。
ボスの満足そうな視線を受けながら、私は紅茶を飲んだのでした。

…………

…………

そして時間帯と場所は変わり、ダイヤのお城の催し物会場。

――考えろ。カイ。余計なことに気を紛らわさず考えるんです。
私は足りない自分の頭の中から、必死にデータを引き出します。

「あ、あの、お嬢さん。後ろがつかえていますので、そろそろ……」
受付の顔無しのお兄さんは困った顔です。
「カイ〜、そろそろ行きましょうよ〜」
護衛についてきてくれたメイドさんもお困りです。
後ろに並ぶ人たちは、私が帽子屋領の余所者と知っているのか、声を
かけるにかけられないようです。
それをいいことに私は、ひたすら考えます。測量会について。
そう、測量会とは各領土の力を競い合う催しだったのです。
しかし何よりも……それで賭けが出来るのです。
私はその賭けの受付所に来ています。そして分析を続けています。
――考えろ。ここ最近出会った三人の領主と我らがボス。
彼らの性格と行動パターンを分析。そして彼らの領土の人口や地力は
どうだったか。彼らは何を出し、そして……勝敗はどうなるか!
そして私は顔を上げます。
「では、私の手持ちのお金全てで、この領土に賭けます」

…………

音を立て、役持ちたちの控え室の扉を開けました。
するとそこには、おなじみの役持ち連中がそろっていました。
「おう、カイ!帰ってきたか!」
「こちらだ。座りなさい」
笑顔で手招いてくれる帽子屋領。
『…………』
私を見、無言でエース君をそばに引き寄せるユリウスさん。
あと駅長さんをかばうグレイさん。
……駅からは×××××扱いされていないはずですが、恐らくウワサが
飛んだのでしょう。そういえば駅長さんも子供だし。
それととんでもない美女(どうも大人になったクリスタらしい)の傍らに
スッと立ち、いつでも銃を抜ける態勢のシドニー。
ボリスさん、ジェリコさんはえらくあいまいな笑みを浮かべておられます。
……世間体など無いも同然のこの世界で、なぜにここまで危険人物扱いを。
しくしくしくしく。
肩を落とし、帽子屋領の席へ向かいますと、
「お、お、お姉さんも賭けに参加するんだね」
「えーと、僕らも買ったんだよ?」
オドオドした様子の双子に声をかけられました。

聞いた話ではエリオットさんがたっぷり絞り、ブラッドさんにも珍しく
お説教されたそうな。
非常識な行為に私が傷つき、私の不名誉なウワサが広がっていると。
それを聞き、双子もさすがに事の重大さを理解したとのことです。
しかし、さらに聞いた話では『お姉さんは×××××じゃない!僕らの
ことが好きなだけだ!』とウワサする者を片っ端から切り刻み、悪評の
拡散に一役買っているそうですが……。
「え、ええ。買いましたよ」
しかし仲直りすると決意した手前、ぎこちなく微笑みます。
すると周りがザワッとしました。
『しゃべった……』
……そういえば今回の無口期間、ちょっと長かったですね。
しかし珍獣扱いに心砕かれてる場合じゃありません。
「そ、そうなんだ!」
「どこに賭けたの?」
双子はどうにか話をつなげたい模様。私も何とか笑みを浮かべ返答しよう
として……一瞬だけ沈黙し、
「も、もちろん帽子屋領ですよ。お世話になってる領土ですし」
すると双子がパッと顔を輝かせ、
「そうなんだ!僕らもだよ!」
「僕ら気が合うね、お姉さん!」
どういう気の合い方ですか。
私はソーッと賭け札の束の表を指で隠し、懐にしまいながら、笑います。
「……なぜ賭け札の、領土の印字箇所を巧妙に隠しているのかな、お嬢さん?」
ブラッドさんのツッコミが静かに光ります。
私は乾いた笑い声をあげました。


そして双子には熱い思いを寄せられ、周囲からは冷たい視線を浴びせられ、
運命の測量会が始まったのでした。

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