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■測量会開催!・上

遠くで小鳥の声が聞こえます。
窓から爽やかな朝の風が吹き込み、素肌に心地よいです。
「んー……」
カイさん、うたた寝まじり。まだ眠たい気分です。
しかし、眠りを覚ますノックの音に頭が覚醒しました。
『……君、いい加減に起きろ。もう××時間帯も寝ているんだ』
シドニーです。
――すみません、シドニーさん。あと一万時間帯だけ……。
『永眠するつもりか!!布団が干せないんだよ!!』
――何!?布団を干す!?それは一瞬でも早く協力せねば!!
私はガバッと跳ね起きようと……あれ?
起きようとして、身体が動きませんでした。
何か人肌のようなものに抱きしめられているような……。
――…………。
既視感が半端ないですが確かめたくありません。
そして強く強く願いました。シドニーが根負けして、このまま帰って
くれることを。
しかし、一呼吸置き、バンッと扉が開けられました。
黒い垂れ耳に端整なお顔のシドニーさんが立っておられます。
「君、陛下もお待ちなんだ。いい加減に……」
そして言葉が止まります。
ベッドの動けない私を見、沈黙をされました。
そして第三者の声がします。
「宰相さん。お姉さんは眠たがりなんだ。寝かせてあげなよ」
「そうそう。僕らももう少し休みたいし……」
――…………。
私も恐る恐る我が身を確認しました。
私を抱きしめているのは半裸の双子。ちなみに子供バージョン。
なぜか私も半裸。限りなく全裸に近い格好。
窓は閉まっていましたが、ガラスが割られ、子供二人通れそうな穴が
空いています。凶器は恐らく斧でしょう。他にありますまい。
彼らはなぜ半裸?
そして私も、なぜ衣服を着ていないのでしょうか?
――あの、シドニー……さん……これは……その……。
「…………」
宰相閣下は何か言おうと何度か口を開け、閉じます。
そしてお顔の色が真っ青に、真っ白に、そして真っ赤に……。
さらに、追い打ちをかけるようにシドニーの背後から声がしました。
「どうしましたの?シドニー。カイは起きました?」
「み、見てはいけません、陛下っ!!」
かつて聞いたこともないシドニーの鋭い声。けど、
「まあ!!」
シドニーの後ろからのぞき込んだのか、好奇心いっぱいの声。
クリスタです。顔がちょっと赤いです。
ベッドの上の私たちを、バッチリ目撃したようです。
そして黒宰相閣下が震える声で、
「陛下!!今すぐ彼らの国外追放……いえ、処刑のご決断を!!」
「そうですね。でも彼らは他の領土の方たちですし……カイ、可愛い
格好のまま凍らせてよろしいですか?」
もはやお馬鹿な私にも分かります。
常識のないこの世界でも、さすがに非常識とされる行為をやらかした。
私はもう、頭が真っ白で……真っ白で……。
そしてトドメをさすように双子が、
「お姉さん、ねえ、もう少しやらない?」
「誰か見てたっていいじゃない……」
双子が両脇から抱きついてきまして。

「今すぐダイヤの城から出て行け、この×××××ーっ!!」

シドニーが大激怒する声。そして銃声。

「わ!早く逃げよう、お姉さん!」
「僕らが連れて行くからね、安心して!!」


……それから先の記憶がちょっとありません。


…………

…………

しくしくと泣いています。カイさん、膝を抱えて泣いています。
「そう壁際にうずくまっていると、カビが生えてしまうよ、お嬢さん」
どこかで聞いたようなことを言われ、背中を撫でられました。ぞわり。
「それとも、少し休むか?
私のベッドなら、君のためにいつでも空けてあるよ」
「…………」
私はゆっくりと振り返りました。
そこには優しい笑みを浮かべた方がいました。
私が今いるお屋敷の主、ブラッド=デュプレその人です。
そう、ここは帽子屋屋敷です。あの窮状からどうにか逃げ延びてきたんです。
「まあ、さすがに私も同情するがね。
門番たちは君が冷たいからだと言い訳していたが……」
――あの××××ども……、よりによって滞在先で、人前で……!
思い出してしまい『ああーっ!!』と頭をかきむしりました。
赤っ恥です。自分が原因ではないとはいえ、あれほど恥をかいた記憶は
ありません。もう飛び降りることが出来るのなら、してしまいたいです。
「今、エリオットが門番たちをシメているところだ。
いちおう、私からも女王に詫びの書簡を送っておこう」
そう言われても、何の慰めにもなりません。
あと背中をいやらしい感じに撫でないでください。ぞわぞわ。


ダイヤのお城で、可愛い女王様やウサギ畜生……もとい、宰相閣下と
仲良くなれそうだった余所者カイ。
クリスタは可愛く、シドニーもちょっと良い人のようです。
私も、しばらくお世話になるつもりでした。
ですが、またも双子の乱入で、墓守領に続き赤っ恥をかく事態に。
……もう私が子供に邪悪な愛情を抱く×××××だという話が、紛れもない
事実として国中に出回っているみたいです。
もはや表なんぞ歩けません。
「そう悲観するな、カイ。人の噂も七十五時間帯だ」
ずいぶん短いですなあ。
「それに、ここでは誰もが大人で誰もが子供だ。前にも言ったが、子供との
恋愛は一般的ではないにせよ、君のいた世界ほど白眼視されるものではない」
――その割には、かなり冷たい目で見られましたよ?
ああああ、ダイヤの国のユリウスさんの冷酷なまなざしを思うと……。
さらに落ち込み、壁に向かってしくしく。
ブラッドさんは私の背を撫でながら、
「測量会までは君の部屋に双子が入れないようにしよう。
今は私の部屋でゆっくりしていきなさい」
ブラッドさんはこういうときは、頼れる方です。
……しかし、あなたの部屋でゆっくりする理由もない気もするのですが。
「さて、チェスの道具はどこだったかな。
ティーセットも、とっておきのものが……」
ブラッドさんは大変にご機嫌です。

そのりりしいお姿は……どう見ても他人の痴話喧嘩を愉しむ、暇人でした。

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