続き→ トップへ 目次に戻る

■寝る子は育つ

さて、ダイヤの城に泊まっている私カイ。
その後風邪を引くこともなく、ベッドで寝ていました。

「カイーっ!!」
嬉しそうな声が聞こえ、目を開けます。
すると、目の前に大変可愛らしいお嬢様が見えました。
クリスタです。私の部屋のベッドに飛び込み、ニコニコしています。
「おはようございます、カイ!一緒に遊びましょう!!」
ニコニコ笑う彼女に私もニッコリ微笑み、
「……カイ?」
私は、有無を言わさぬ力でクリスタをベッドの外に押しやると、頭から
布団を被ってくるまりました。
「カイー!!無視なさらないで下さい!!」
双子のようなことを言い、私のお布団の上に乗る彼女。
うんうん。ガキ共と違い乱暴な手段に出ないのは良いことです。
「一緒に遊びたくて、お仕事を終わらせてまいりましたのよ!
早く遊びましょう!カイ!!」
お布団の上から小さなこぶしでポカポカ叩かれる感触。
いいなあ。双子と違い、斧をぶっ刺してこないし、可愛いですし。
そう思いながら、私は丸まってウトウトと……。
――ん?何か寒いような……。
「カイ……あなたもわたくしと遊んで下さらないのですか?」
無邪気なクリスタの声に、若干の冷気が混じっています。
そして温かいはずのお布団の中が凍てつくように寒く……。
そして私は思い出しました。
最初に案内された氷のお部屋を。
コレクションのように展示された、氷づけの哀れな犠牲者達を。
「遊んで下さらないなら、あなたも永久に……」
パリパリと布団の端から凍っていきます。
私はガバッと起きました。

…………

「カイってお寝坊さんなんですね」
クリスタに手を引かれ、ついていくと、広間でシドニーが待ってました。
どうやら三人でおやつタイムのようです。
「……本当に余所者はよく寝るよね」
お紅茶とケーキを私の前に起きながら、シドニーは呆れたように仰います。
……消し炭のごとき、見事な黒さのチョコケーキでした。
――そうですか?あのくらい普通だと思いますが。
シドニーに首をかしげますと、
「寝過ぎなんだよ!!何で他人の家で××時間帯も爆睡出来るんだよ!!」
表情から考えを悟ったのか、シドニーのツッコミが来ました。
うん、何か枕が変わったら寝られ無さそうな方ですよね、シドニーさん。
地面さえあればどこでも寝られる、私の大らかさを分けてさしあげたい。
「……何か、君にものすごく馬鹿にされてる気がするんだけど」
お耳をピクピクさせ、シドニーは私を睨みました。
ウサギさんは人の感情を読むのがお上手です。
しかしダイヤのお城の宰相閣下は、まず、クリスタを座らせます。
私もシドニーに顎でうながされ、適当に座りました。
するとクリスタは椅子をズルズルと引き、私の隣に並んでニッコリ。
珍しい『余所者』への好奇心ゆえか、懐かれたみたいです。
……忘れかけてましたが、余所者は好かれるんですよね、この世界。
「…………」
そして何でしょう。耳の長い畜生からドス黒いオーラが。
どうも畜生は、クリスタ様が私と親しいことが、気に入らないご様子。
「……不必要に見下されてる気もするんだよね」
唇の端を震わせながらウサギ人間が仰る。
カイさん根暗なので、撃たれかけたことは根に持つのです。

…………

お茶会は黙々と進みました。ちなみに消し炭ケーキは『オペラ』という
お高い洋菓子だったみたいです。おいしゅうございました。
堪能していると、隣の子に袖を引かれます。
「カイ、カイ。一口くださいな」
――お断りします。
欲しがる子供には慣れています。丁重に、しかし高速でお皿を遠ざけ、
子供のフォーク攻撃を避けますと、
「もう!カイの意地悪!測量会に連れて行きませんわよ!」
また可愛らしく頬をふくらませ、クリスタが理不尽な抗議をしました。
――測量会、ですか?
そういえば何度か聞いたような。
どうもこの国での催しのようですが、舞踏会や会合と比べ地味な響きです。
「下らないけど、やるしかないんだ。民衆にも娯楽が必要だしね」
神経質にフォークを動かしながら、シドニーが言います。
――娯楽……?
はて。『測量』なる催しに、どういった観点なら娯楽が入るのか。
シドニーは私をにらみ、
「そういうわけで、ダイヤの城はこれから忙しくなるんだ。
仕方なく滞在させてあげるけど、絶っっっ対に邪魔はしないでよね!」
こらフォークを人に向けるな。
「カイ!わたくしのお部屋で遊びましょう!」
「陛下、いけません!そんな異常性愛者を部屋に招き、陛下に万が一の
ことがあったら!!」
わー、どうしましょう。これほど誰かに黒い感情を抱いたのは久々です。
ちなみに前回は双子。その前はエースだった気が。
……あと女同士で万が一ってどういう状況なんでしょう。ちょっとドキドキ。
「さ、善は急げですわ、早く早く!!」
クリスタはさっさと頭を切り換え、私の服を引っ張り、椅子を降りました。
「君……その指は何だい?滞在を終わらせたいという意思表示かい?」
私が畜生に中指を立てたため、畜生は私に銃を向けますです。
でも私はクリスタに手を引かれ、遊びに連れて行かれました。

…………

…………

――疲れました……。
私はベッドに寝っ転がりました。
窓の外は夜。クリスタの遊びにずーっとつき合わされ、ヘトヘトです。
――このまま寝ますか……。
ふっかふかの羽毛布団に頬をよせ、うとうと。
――……ん?
何か聞こえた気がして、私はベッドの中で少し目を覚ましました。
コンコン。
暗闇の中、確かに音が聞こえます。
――……?
ゾッとしながら音の方に目をやると、窓の外で何かの影が動いています。
――し、刺客!?心霊現象!?
恐怖に背筋を凍らせていると、
『お姉さん……カイお姉さん!!』
『僕らだよ、ディーとダムだよ!!』
――っ!?
懐かしの双子の声でした。
でも窓には鍵がかかっていて、開けられないようです。
双子は窓枠をガタガタさせながら、
『お姉さんをさらいに来たんだ、窓を開けて!』
『三人で一緒に帰ろうよ!!』
二人して窓を叩き、懇願してきます。
――ああ、良かった。
霊や刺客が犯人でなくて、本当に良かったです。

――おやすみなさーい。

そういうわけで、私は安心して頭を枕に戻し、布団をかぶってぐっすり眠ったのでした。

2/5

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -