続き→ トップへ 目次に戻る

■森でお泊まり

さて、ダイヤの国にやってきた私と帽子屋ファミリー。
いきなり抗争があったり、墓守領に迷子になったりしましたが、幸い、
私自身に危険なことはなく、帽子屋屋敷に帰ることが出来ました。
ただし……それに関して、ディーとダムがちょっと私を怒らせまして。
元々私たちの関係は、二人に強引に迫られて始まったものなのに、
『子供が好きだから、子供と恋人になった』と、双子に言われてしまい、
周囲はどん引き。ユリウスさんから、犯罪スレスレの危険人物と認定完了。
もうエース君には近寄らせてもらえないでしょう……。

で、頭にきて、身の回りの品を持って、お屋敷を出ちゃいました。
この国は少し物騒で危険だそうですが、ブラッドさんやエリオットさんからは、
特に止められませんでした。
「お姉さん、待ってよー!」
「一人じゃ危ないよ。僕らも行くから!」

そう、家出のつもりだったのに、事の元凶がついてきたのです。
体力差で振り切れやしないです……。

…………

私は森の中を歩いて行きます。新緑はそよそよ、鳥の声が可愛いです。
――いいお天気ですねえ。
さて、どこにご厄介になりますか。
墓守領は親切な方が多いけど、敵対領土。
駅は何となく忙しそうだったし、押しかけるとお邪魔かもしれない。
多少のお金はあるし、街の宿に何十時間帯か宿泊するのもアリかも。
「兄弟、どうしよう。お姉さん怒ってるよ?」
「『いつもの』仲直り方法じゃダメなのかな?試そうか?」
後ろからは二人の声。
……白昼堂々、森の中で襲われる前に街に行かねば。
――それにしても……。
またガツッと、キャリーバッグのキャスターが引っかかる音。
森のでこぼこ道は舗装などされておらず、キャスターが石ころにぶつかるのです。
う、うわ!大きな石に引っかかって……重い!と、取れな……。
「お姉さん、やってあげるよ」
「ほら、どいてどいて」
――!
子供姿の双子がすかさず駆け寄ってきて、アッサリと、重くて取れなかった
キャリーバッグを救出してくれました。
そして手柄顔で私にバッグを渡してくれます。
「はい、お姉さん」
――どうも……。
「カイお姉さんは、僕らがいないとダメだなあ」
――何!?
一瞬、無視して行こうかと思いましたが、話すタイミングを見いだした
双子は私にまとわりついてきます。
「ねえねえ、カイお姉さん。今夜はどこに泊まる?」
「お姉さんの行くところなら、僕らどこでもついていくよ?」
両脇から私の腕にしがみつき、楽しそうに笑っています。
ニコニコと無邪気な笑顔で。
――はあ……。
彼らが計算しているとか、考えたくないのですが、子供の姿でこうも
笑顔で迫られると、さっきまでの怒りがプシューッと抜けてきます。
『え?私、何を怒ってたんだっけ?』状態。
双子も私の雰囲気が和らいだのに気づいたのか、ますます嬉しそうに、
「ねえカイお姉さん。帽子屋屋敷に帰ろうよ」
「一緒にお風呂に入ろう!」
――うーん……あっ!
空が一瞬、明滅したかと思うと、夜の時間帯になりました。
風が冷たく、視界が一気に悪くなります。
「あ、暗くなっちゃった」
「お姉さん、どうしよう?」
――う、うーん……。
森は真っ暗で見通しが悪いです。
ディーとダムがいるから、襲撃の心配もないんでしょうけど、夜道を無理に
進んで二人が転んで怪我をしたり、道に迷ったりしたら……。
「兄弟、兄弟。何かお姉さんに心配されてる気がするよ」
「僕らを大人扱いしないなんて、お姉さんもまだまだ若いよね」
……いえ、子供でしょう、あなたたち。
外見の要素って、結構大きいと思うのですが。
――ともかく、突っ立っていても暗いし寒いだけですね。
私はその場にしゃがむと、キャリーバッグを横に倒し、鍵を開けます。
「ん?何が入ってるの?暗くてよく見えないよ」
「食べ物とかないの?お姉さーん」
二人は興味津々です。
私は二人の妨害をしっしっとはらいつつ、目的のブツを取り出しました。
――自分用だったけど、持ってきて良かったですね。
私は二人の肩にそれぞれ、取り出した上着をかけました。
「え?」
「お姉さん?」
二人はきょとんとしています。上着はもちろん女性サイズだけど、子供に
なっている二人には、何とか合ったようです。
「夜の、森は、寒い、ですから」
うう。声がつっかえる上にかすれますです。
私は上着をちゃんと二人に着せてやり、またキャリーバッグに向かいます。
えーと、確かカンテラがどこかにあったはず……。すると後ろから、
「兄弟、兄弟。ずっと子供の姿でいようか」
「お姉さんに構ってもらえるなら、子供も悪くないよね」
何やら上着のすそを握りしめ、こそこそ話しています。
おっと、パンを発見。ベーコンとレタスを挟んだ簡単なもので、私が
お弁当代わりに持ってきたパンです。すぐ二人に手渡し、
――これ、二人で食べて下さい。
「食べていいの?」
「お姉さんの分は?」
――子供がそんなことを気にしないで。
二人にパンを押しつけ、バッグをまた探ります。
そしてカンテラを取り出しました。マッチはどこだったっけ……。
手探りだと探しにくいですね。
「お姉さん……」
「カイお姉さん」
二人が背中にぴとっと貼り付いてきます。
「どうしよう、お姉さんがどんどん好きになっちゃうよ」
「好きになりすぎて、どうしようかと思っちゃう」
――夜の森で心細いんですかね?
あと、作業の邪魔をしないの。私は二人を背中に貼り付けたまま、
どうにかマッチを見つけ、手探りで火をつけました。
カンテラに火をうつすと、ポッと周囲が明るくなります。
手をかざすと、ちょっと暖かい。
――ん?
カンテラにかざしていた手を、両側から握られました。
両側には私の上着を着た双子。
そしてそれぞれ『ちゅっ』と可愛いキス。
――…………。
何だか嬉しくて二人を見、もう一度キス。
そのまま草むら座ると二人がピットリと寄り添ってきます。
「カイ、大好き……」
はいはい。
「別れるとか言わないでね」
はいはいはい。あれは冗談ですってば。
二人を抱き寄せます。
――とりあえず、明るい時間帯になったら三人で帽子屋屋敷に帰りますか。
と思っていると、
「やっぱり、お姉さんって子供が大好きなんだね」
「子供でいるときの方が優しいもんね」
――は?
「×××するときも子供の方が嬉しい?」
「お姉さんがそうしてほしいなら、ずーっと子供のままで×××するから!」

……そして夜の森に、盛大な拳の音が響いたのでした。

4/6

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -