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■仲直り(してません)

いい天気です。気候は暖かで、木々の葉っぱの間から陽光がさしこみ、
このまま昼寝したい気分です。
そんな森の中を、私は帽子屋屋敷に向かって歩いて行きます。
「…………」
『…………』
で、私のすぐ後ろには、ディーとダム。
私も二人も無言です。駅でも、駅を出てからも、ずーっとこんな感じです。
「…………」
私が足を止めると、後ろの二人もピタリと止まります。
振り返ると、気まずそうな表情の二人がいました。
――あの……。
「ええと……」
「カイお姉さん……」
二人は同時に言います。私は二人を見上げ、
――何ですか?
「え?いいよ」
「お姉さんから先に言って」
二人は申し訳無さそうです。
いつも元気な二人にこんな顔をさせてしまうなんて……。
私は帽子屋領の方を指さし、次に手を左右に振り、『NO』のジェスチャー。
――置いていかれたことは、もう怒っていないですよ?
二人には通じたようです。
「うん。分かってるけど、お姉さんを守るって言ったのに……」
「僕らが目を離したせいでカイが悪い奴にさらわれたらって心配したよ」
――いえ、子供じゃあないんですから。
首を左右に振ると、
「違う。お姉さんに何かあったら、僕らの責任だよ。ごめんなさい」
「カイお姉さん。僕らを嫌いになっても、僕らから離れないからね」
そして真剣なまなざしで、
「カイは必ず守るから」
「僕たちの大事な恋人だものね」
――ディー、ダム……。
いつまでも子供だと思っていたのに、『責任』なんて言葉が出るなんて。
私は思わず手を伸ばし、両手で二人の手を取ります。
ちょっと驚いたような二人。
「お姉さん?」
「本当に、もう怒ってないの?」
私は首を振って微笑みます。
――怒るわけないじゃないですか。私の大切なあなた達を。
すると、二人の顔がみるみる輝いていきます。
でもまだ恐る恐るといった感じで、
「じゃ、じゃあ、お姉さん……さっき言ったこと、嘘だよね?」
――『さっき言ったこと』?
「『別れましょう』って言うの……」
ああ。完全に忘れてました!
私はちょっと照れ笑いで、うなずきます。すると、
「お、お姉さん!キスしよう!」
――え?……わっ!!
ガバッとディーに抱きしめられ、唇を押しつけられる強引なキス。
――ん……ちょっと、いきなり……!
「ダメだって言っても、するからね!」
今度はダムに抱き寄せられ、そちらもキス。それも一度だけじゃない。
「良かった!お姉さんが許してくれて、本当に良かった!」
「カイお姉さん大好き!!大好きだよ!!」
――……ん……。
二人に代わる代わるキスされ、息絶え絶えにそれを受けていて……。
――あ、ちょっと酸素が……。
クラッときて、足のバランスを崩しました。
後ろにちょっとよろめき、木の幹に尻もちをついてしまいました。いたた。
「わっ!お、お姉さん?」
「大丈夫?」
慌てたように私の前にしゃがみこむ二人。ああ、空気が美味しい。
――と、とにかく、仲直りが出来て良かったです。
ほんのちょっとだけ……いえちょっとだけ、少し、かなり、相当に問題の
ある恋人たちですが、やっぱり私はこの二人が大好きです。
別れるなんて、冗談でも考えられません。
「愛してます、二人とも……」
小さく小さく言いました。
で、立ち上がろうとすると、トンっと軽く肩を押され、地面に逆戻り。
――ん?
見上げると、大人な二人が顔を見合わせ、何やら笑みを交わしています。
この表情は覚えがありますね。二人して、悪巧みを……。
――え?まさか……。
私は周囲を見回します。真昼の太陽が優しく降りそそぐ森の中。
領土までは遠く、街道からも外れているため、人の気配はゼロ。
――まずいです!
立ち上がろうとすると、その前にディーにぐいっと地面に押さえつけられます。
――ちょっと!あなたたち!
けどディーは楽しそうに、
「それじゃあ、愛するお姉さんと仲直りした記念に……」
と、人を押さえつけながらキス。
――こんな記念がありますか!ちょっとダム!あなた、どこを触って……。
ダムは順当に私の服のボタンを外しながら、
「僕ら子供で良かった。お姉さんに愛してもらえるんだから」
――いえ、だから、あなたたちを好きになったのは『子供だから』では!
そもそも子供が白昼の森の中で、×××しようとしますか!!
抗議しようとしたのですが……こ、声がまた……!
「えー?お姉さん、何を言おうとしてるのかなあ、兄弟?」
「きっと『嬉しいわ、激しくしてね、二人とも!』って言いたいんだよ」
――私、そんな口調じゃあないでしょう!!
しかしニヤリと顔を見合わせる二人は邪悪そのもの。
「愛する恋人の期待には……」
「絶対に応えなきゃね!」
――だから期待も何も……せめてお屋敷で……ん……!
二人がかりで押さえつけられ、抗議は言葉に出来ず、キスで封じられたのでした。

…………

…………

×時間帯後の帽子屋屋敷でのこと。
私が廊下を進んでおりますと、ブラッドさんとエリオットさんに出会いました。
お二人は笑顔で、
「久しいな、お嬢さん。無事で何よりだ」
「カイ。おかえり。帰りが遅いから心配したぜ!」
私は二人に頭を下げます。エリオットさんは不思議そうに、
「それでカイ。デカいキャリーバッグなんか持って、どうしたんだ?」
そう、私は荷物いっぱいのキャリーバッグを引きずっています。
「ああ!危険だから、安全なところに避難するんだな!」
一人で納得され、手を打つエリオットさん。
一方ブラッドさんは私の背後に目をやり、
「で、おまえたちは何なんだ?」
そう、ブラッドさんの視線の先には、
「お姉さん〜、さっきのことは本当に謝るよ!
子供が好きなら、ずっと子供の姿でいるから!」
「出て行くのだけは止めて!いたいけな子供を捨てないでよー!」
キャリーバッグにすがりつく、子供の姿の門番二人。
私は無視して、キャリーバッグをズルズル引きずっていきます。
ブラッドさんとエリオットさんに軽く頭を下げて前を通り、帽子屋屋敷の
出口の方向へと進みます。

最後にチラッとブラッドさんたちを振り返ると、お二人は顔を見合わせ、
無言で肩をすくめてらっしゃいました。

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