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■怒りました・下

「さ、行こう」
「カイお姉さん!」
二人がそれぞれ手を差し出してくれるけど、その前にここの方にごあいさつです。
私は墓守領の人たちに向き直り、頭を下げました。
「それでは、お騒がせいたしました」
「ああ」
「また来いよ!」
ユリウスさんとジェリコさんはうなずいて下さいます。
あ、エース君だけ反応がない。私は何となくエース君に目線を合わせ、
「エース君、またね」
と笑いかける。エース君はチラッとこっちを見て、
「子供扱いしないでくれよ!
剣を突きつけられて、そんなこと言うなんて、君って変だよね」
ぶっきらぼうに言いました。でもちょっと照れてます。
ふふ、表情が丸わかりです。エースさんはエースさんでも子供のエース君だと、
「……可愛い」
あ、言っちゃった。すると、エース君はバッと剣を抜き、
「『可愛い』っ!?君、俺に斬られたいの!?」
男の子に『可愛い』は禁句でしたね。
「ははは!違いねえ」
「こら、よせ!エース!」
笑っているジェリコさんと制止するユリウスさん。
で、ディーとダムはというと、機嫌を悪くしていました。エース君に、
「まさかあんた……お姉さんを誘惑するつもりか?」
「お姉さんは渡さないからな!!」
するとエース君はさらに怒りで顔を真っ赤にし、
「はあ!?何言ってるんだよ。俺は子供だぜ?
帽子屋屋敷、ちょっとおかしいんじゃない!?」
すると二人が、

「言いもするさ!お姉さんは小さいのが好きなんだから!」
「そうだよ!お姉さんは子供が大好きなんだ!!」

…………。

…………沈黙。

ジェリコさんや構成員さんの皆さんが、物の見事に固まる。
い、いや、待って下さいよ、ディー、ダム!
私はあなたたちの恋人になる前、『子供と恋愛?』と、さんざん悩んだんですよ?
子供に興味がないって、一度ならず言いましたよね?もしかして、いつの間にか
あなたたちの中では『カイの方から好きになった』になってたんですか!?
そしてユリウスさんが慌てて、目を丸くするエース君を引き寄せ、背中にかばう。
何やら凶悪犯罪者を見る目で私に、
「おまえ……そういう趣味の持ち主だったのか!?
エースに手を出せば、私がただではすまさんぞ!」
そしてジェリコさんは顎に手をやり、
「あ、あー、なるほど。だからブラッディ・ツインズの女なのか。
ええとまあ、恋愛は自由だが……ちゃんと合意、なんだよな?」
ちょっと!ちょっとジェリコさんっ!!
優しかった墓守領の人たちが一転、遠巻きに私を見る。
大勢の人前でかつてない恥をかかされ、私は……私は……。

恋人の二人を振り向き、ニッコリと、

「別れましょう」

『お姉さんーっ!!』

だがしかし振り向かず走り出し、ガラスを飛び越え、双子の割った窓から外に出た!

…………

…………

……森で道に迷いました。夜になりました。
――うう、ディーとダム〜。
木の根元に座り、でしくしく泣いていますと、誰かがフワッと頭を撫でてくれます。
――っ!?
ディーとダムかと思ったけど、
「許してあげなよ、カイ。ディーとダムも、そんなに悪気はなかったんだし」
――ボリスさん!?
何か前にも同じことがあったような気がしますが……。
とにかく、顔を上げるとボリスさんがいました。
知っている方に会ってホッとし、涙もどうにか引っ込みました。

そして、気まぐれな世界の時間帯が、夜から昼間になります。
でもさっきまで夜だったせいか、まだ空気は暖まりません。
「ほら、貸してあげる。寒いよ」
ボリスさんは私の横に座り、ファーをかけて下さいました。ぬくぬくです。
――でも、何でボリスさんがここに?
チェシャ猫さんは楽しそうに私を見て、
「夜の森を散歩していたら、あんたを見かけたんだ。あんた、カイだろ?
あいつらから聞いた外見と、同じだったから分かったよ。
そして、森の中に一人でいるっていうことは、あの二人と喧嘩した」
――は、はい、そうです。
うなずく。さすがボリスさん。相変わらず鋭い。でも……何か違和感がありますが。

二人して木の根元に座り、木もれ日を浴びます。
「あの二人さ、俺とちょっと遊んでから、あんたがいないことに気づいたんだ。
あのときの慌てようったら、なかったよ。俺が何を言っても『お姉さんが!』
『お姉さんが!』しか言わなくて、今度は俺を放って行っちゃってさ」
ちょっと笑う。やっぱり『すぐに気づいた』なんて嘘だったんだ。
まあその件に関しては、もういいかと思ってます。私も怒りすぎましたし。
というか、私は何であんなに怒ったんだろう。
もしかして、二人に構ってもらえなかったから?
だとすると、私もまだまだ子供ですよね。
……『子供が好き』発言については、まだちょっと怒ってますが。
――あ、ボリスさん、森の出口まで案内していただけませんか?
まずは帽子屋屋敷に帰らないと、他の皆さんが心配します。
立ち上がり、軽くおしりについた草をはらう。
ボリスさんもファーを巻きなおし、立ち上がると、
「へえ、あいつらが言った通り、無口な子なんだ。あ、自己紹介がまだだったね。
はじめまして。俺は『チェシャ猫』ボリス=エレイ。よろしく」
ニッと笑い、勝手に私の手を取って握手。
……え。目の前のボリスさん。クローバーの国のボリスさんとはまた別の方!?
――同じ名前の双子だかご兄弟だか従兄弟だかが多すぎですね、この世界。
そして、クローバーの国のボリスさんとは違う方なのに、普通に遊んでたんだ、
ディーとダム。
「それじゃ、どうする?」
――あ、はい。そうですね。帽子屋屋敷に……。
ていうかまた、声が出なくなってますし。
ボリスさんは気にしたご様子もなく、優しく笑います。
「まだ帰りたくないなら、気晴らしに別の場所で遊んでみる?
ダイヤの城とか駅とか。俺、暇だからつきあってあげるよ?」

――ダイヤの城?駅?

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