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■怒りました・上

帽子屋屋敷の双璧、鉄壁の戦斧使い、恐怖の双子。
ブラッディ・ツインズ、トゥイードル=ディー、そしてトゥイードル=ダム。
帽子屋ファミリー誇る最強の双子に攻めこまれた墓守領は、驚天動地の騒乱に包まれたのであった!
……なんちゃって。

食堂に悲痛な声が響きます。
「お姉さん、頼むから機嫌直してよー!」
「もう置いていったりしないから!僕たちと帽子屋屋敷に帰ってよ」
弱り切った様子のディーとダム。彼らは床に膝をつき、ひたすら話しかけてきます。
私は彼らに背を向け、黙々とチョコパフェをいただきます。
「……なんだ。その、迎えに来てくれて良かったじゃないか」
私の向かいに座るのは、困ったご様子のジェリコさん。
ディーとダムが盛大に割った窓ガラスの穴からは、外の清々しい風がびゅうびゅう
吹いてまいります。
「本当に申し訳ありませんでした。ガラス代は私が働いて返しますので……」
深々と頭を下げますと、
「お姉さんー!ガラスなんかどうでもいいじゃないか!」
「そうだよ!ここは敵対領土なんだよ!?」
「…………」
私が無言で振り返ると、座ったまま、なぜかビクッと背筋を正す二人。
「お二人はどうぞ、先に帰っていて下さい。私、何だかこちらの方が居心地が良い
みたいです。あなたたちが散々『嘘』を吹き込んだここが」
『お姉さん〜』
悲鳴のような声を出す二人。
「僕ら、お姉さんがいなくなったのは、すぐ気づいたよ!」
「ボリスさんとたくさん遊んだ後、すぐに?」
「一生懸命探して、やっとここまでたどり着いたんだよ!」
「ボリスさんとたくさん遊んだ後に、一生懸命探して?」
『お姉さん、許してよー』
敵対領土のど真ん中なのに、私にすがりついてくる二人。
ぺしぺしと彼らの頭を叩いていると、
「はあ。単なる痴話喧嘩なら自分たちの領土でやれ。迷惑だ」
前からため息。珈琲を飲むユリウスさんです。
う……確かにそうかも。
周囲の構成員さんたちも、ブラッディ・ツインズがいるため持ち場に戻れず、
手持ちぶさたに立ってらっしゃいます。
――私もちょっと大人げないですよね。
彼らは子供。そうだと分かって好きになった。
男の子だし、お友達と会ってついはしゃいじゃう、なんてこともあるでしょう。
お姉さんとして、許してあげるくらいの度量がなくてはですね。
チラッと二人を見ると、怒られた子犬みたいにうなだれています。
私はため息をつき、
「分かりました、もう帰――」

「何をしているの?」

そのとき、声がした。すぐ後ろから。
――え?
「お姉さんっ!」
「絶対に動かないで!」
目の前の双子が立ち上がる。さっきまでの子供っぽい様子は少しも無い。
緊張感をみなぎらせ、斧を構え、こちらを睨んでくる。
いや、こちらではなく、私の後ろにいる誰かを。
「さっきから騒がしいと思ってけど、君が中心にいるみたいだね」
声がする。真後ろから。でも振り向けない。
「おい、エース!」
ジェリコさんの声。
――エース……!?
それにしては声が、あまりにも子供のようだというか……。
「ユリウスに迷惑をかけたのは、許せないな。じゃあね」
――っ!!
首に何か冷たい物が突きつけられていた。冷たい金属の――恐らく、剣。
その剣が、私の首を――。
「よさないか、エース!」
緊張は、ユリウスさんの鋭い声で途切れた。

…………

居住スペースの食堂は、役持ちが集まり、ざわざわしていました。
私はその中心付近に立ち、心もち身体をかがめます。
「エースさんに弟さんがいらっしゃったんですね。よろしく、エース君」
この世界は兄弟に同じ名前をつける習慣でもあるんですかね。ま、不思議の国だし。
ニコッと笑いかけ手を差し出すけど、エース君は嫌そうな顔をして後ろに下がります。
「あのさ、『君』は止めてくれよ。あと俺に兄貴なんていないぜ?」
「……いるってことにしておいてやれ。説明が厄介なんだ」
腕組みをするジェリコさん。
よく分からないけど、エース君はユリウスさんが困っていると怒り、輪の中心に
いるっぽい私に剣を向けてきたみたいです。
「お姉さん〜」
「帰ろうよ、お姉さん〜」
ついでに、展開から置いていかれた二人も、ちょいちょいと袖を引っ張ってくる。
ユリウスさんとエース君も『早く帰ってくれないかなー』的視線。
え……。な、何か私がワガママを言っていて、場が収まらない感じに!?
恥ずかしい。非常に恥ずかしいです!
「ガラス代は構わないからさ、また遊びに来てくれよ」
ジェリコさんにも言われ、私は今さらながら顔を赤くします。
「わ、分かりました。ディー、ダム、帰りましょう」
恋人達に言うと、やっと二人はホッとした顔になり、
「良かったー!帰ろう、お姉さん!」
「もう僕ら、疲れちゃったよ!帽子屋屋敷に帰ろう、お姉さん」
と、喜んでくれました。


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