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■少し物騒な世界・下

「二人ともおかえりなさい。ご無事で何よりです」
改めて二人に微笑み、怪我がないことを目で確認する。
「では、外に行きましょうか」
これで堂々とお屋敷の外に――。
「えー!嫌だよ。仕事が終わったんだから、お姉さんと愛し合いたいよ」
「社交ポイントを消費しちゃったんでしょ?回復の手助けをしなきゃね」
「え!?勝手に設定を追加しないで下さいよ!?ちょっと、二人とも!」
抵抗するけど、お姫様抱っこされてしまい、その足はまっすぐ私たちの部屋へ。
「誰かー……」

引っ越しして、ちょっとだけ物騒になったお屋敷なのでした。
……というか、言いたいことはハッキリ言う習慣をつけないと。

…………

…………

そして×時間帯後。

「お姉さん、早く早く!」
「夜の時間帯になって、店が閉まっちゃうよ!」
昼の街を歩く……というかほとんど駆け足の双子。相変わらず子供は元気です。
「お姉さん、大丈夫?」
「久しぶりのデートなのに、嬉しくないの?」
二人はちょっと進んで振り返り、気遣うように言います。
「ええ、嬉しいけど少し疲れてしまって……」
やや非難をこめて二人を睨む。すると、二人は意地悪く顔を見合わせニヤリと、
「えー、そこまで疲れさせちゃったー?ごめんね、お姉さん」
「でも僕らだけ悪いんじゃないよね。お姉さんだって、あんなに可愛く僕らに――」
「ちょ、ちょっと!街中ですよ!?」
真っ赤になって手を振り、ニヤニヤする二人を止める。
ううう、×××どもが……。恋人になってそこそこ経つけど、大人二人の相手は
やはり身体が……しかも終わってすぐ、デートに行こうとか……。
こ、コホン。日差しあふれる街中にふさわしくない内容でした。
「早く本を買って帰りますよ!」
「えー!どこかカフェに寄ろうよ、カイお姉さん!」
「お姉さんはカジノとか知ってる?遊び方、教えてあげようか?」
不良どもが!遊びたがりの二人をシッシッとはらい、先に立って書店に向かいます。
と、そのとき後ろで二人が、
「あー!ボリスだ!」
「ボリスー!僕たちだよ!」
「え?ボリスさん?どちらに?」
なら私もあいさつを……と、二人を振り返ると、
「え?」

ディーとダムの姿は、すでに影も形もありませんでした。

「ちょっと、二人とも!」
――何が護衛ですか、デートですかー!
子供な恋人二人に呆れつつ、探すために走り出しました。

…………

…………

×時間帯後。

――え、えーと……。
私は、知らない街の中で立ち尽くしています。
あれから双子を探して探して。そして気がつくと知らない場所にいました。

あたりを見ると、人が行き交い、穏やかに会話を交わしている。
だけど、帽子屋屋敷はどこにもない。
――……こ、こここここ……ここ、別の領土ですよね!
いくら周囲を見ても、見慣れたものは何もない。
――あ、ああああ!あれほど、気をつけろと言われたのに!
私も私です。二人を探さず、はぐれた時点で帽子屋屋敷に帰るべきでした!!
――どうしよう、どうしよう。誰かに道を……。
でも敵対領土の人間と分かったら、何をされるか分からない。
――それより、もしここが墓守領だったらどうしよう!
ものすごく恐ろしい『墓守頭』という人だけには会いたくない!
で、でもどうやって帰ったら!!
そのとき、後ろから声をかけられました。
「どうしたんだ?あんた」

――っ!!
いきなり声をかけられ、心臓が止まるかと思いました。
「あんた、迷子だろ?さっきからキョロキョロしてるし……」
聞き慣れないけど、優しそうな声でした。そこで私は警戒半ばに振り向き……
「――っ!!」
またも凍りつく。
大きくて怖そうなお兄さんがいました。なぜかシャベルとカンテラをお持ちです。
お兄さんは柄の悪そうな男性を何人か連れていました。
彼らも興味津々といった顔で、私を見ています。
「あ……あ、あの……その……」
人見知りモード完全復活で、ブルブルしながら見上げると、
「あーあ、頭(かしら)の顔が怖いから、怯えちゃってますぜ、この子」
後ろの怖そうな男性が噴き出しました。するとカンテラのお兄さんは、
「うるせえ。怖がらせてるのは、おまえらの格好だろう!
だから身だしなみには気をつけろと普段から言ってるんだ!」
「えー、俺たちは頭のが移ったんですぜ?やっぱり上がしっかりしないとー」
別の男性がそう言って笑う。上司部下でしょうか。でも、とても砕けた雰囲気です。
「言ってろ!……で、お嬢ちゃん。あんた、どこから来たんだ?」
お兄さんはまた私を見ます。腰をかがめ、優しく笑って私の頭を撫でました。
何か子供扱いされてますねえ。でもお兄さんは良い人そうだ。
――けど帽子屋屋敷の人間と知られたら、どうなるか……自分の力で帰りませんと。
「あ、あ、あの、こ、ここは……ど、どこ、ですか?」
震え声でどもりつつも、どうにか言葉は出てくれました。
するとカンテラのお兄さんは、
「あ?ここか?ここは――」
「は、は、墓守領ではないですよね!?」
恐怖もあったのか、ちょっと大きな声が出てしまいます。
通行人さんが何人か振り向いたのが、見えました。
するとお兄さんはやや眉をひそめ、
「は?墓守領だと何かあるのか?そこに行きたいのか?」
「い、い、いえ、そこにだけは、い、行きたくないので……!」
「行きたくない?墓守領に『行きたい』じゃなくて『行きたくない』のか?」
ますますワケが分からない、と言った顔のお兄さん。
図体の大きなお兄さんたちが群れているせいか、通行人さんも集まってくる。
「どうしたんだい、ジェリコさん。その子」
「ああ。迷子らしいんだがな……」
私はますます顔を赤くし、
「す、す、すごく怖い領土だと聞いていますので……」
柄の悪そうなお兄さんたちは、
「怖い?まあマフィアだから、怖いけどよ」
「一般人には手出ししないようにしてるんだがな。どんな風に怖いんだ?」
それで私はますます震えながら、
「え、えーと、私が聞いた話では……」

…………。

爆笑。そりゃもう通りは大爆笑でした。
涙を流してる人あり、地面にうずくまって腹を抱えてる人ありです。
そして何事かとさらに見物人が来て、話を聞いて、ますます笑いが広がる。
「か、か、頭が……凶暴で毛むくじゃらでヒグマみたいって……!!」
「ジェ、ジェリコさん、あ、あんた若い娘をさらってるのか、そりゃいけねえよ!」
「あっはっは!そんなに女に飢えてるなら、あたしが愛人になってあげようかい?」
「頭ぁ、カタギの奴を殴っちゃいけませんぜ!やはり領主なら紳士的にですね……」
「うっるせえな、おまえら!ったく、誰がそんなガキみてえな噂を流したんだ!!」
大爆笑する、柄の悪そうなお兄さんたちアンド通行人さんたち。
憮然とした顔で怒鳴るカンテラのお兄さん。それとキョトンとする私。
そしてカンテラのお兄さんは困ったように、私の頭を撫で、

「あ、ええと。自己紹介が遅れたな。
俺はジェリコ=バミューダ。ここ、墓守領の領主だ」

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