続き→ トップへ 目次に戻る ■少し物騒な世界・上 私はカイ。人見知りの余所者で、双子の門番の恋人です。 このたび引っ越しで、私たち帽子屋ファミリーは、クローバーの国からそのまま、 ダイヤの国に来ました。ハートのお城や、森、クローバーの塔はなくなったようで、 寂しいです。でも今まで通り、ディーやダム、エリオットさんたちが一緒です。 だから私も、クローバーの国と同じような生活が続くと思っていたのですが……。 ………… ディーとダムの背中を見つけ、廊下の向こうに声をかける。 「ディー、ダム!」 すると二人が同時に振り返り、パッと顔を輝かせる。 『お姉さん!』 バタバタと駆け寄ってくる二人。私は、 「街の書店に、看護関係の本を買いに行きたいのですが、お仕事は大丈夫ですか?」 ダイヤの国は何かと物騒らしく、帽子屋領内の外出でも護衛は必須だそうです。 二人はブンブンと首を縦に振り、 「もちろん大丈夫だよ、お姉さん!今は休憩中なんだ!!」 「カイお姉さんと外出だなんて、嬉しいな、さあすぐ行こう!!」 二人に笑顔で手を出され、私は両手をつなぎます。そしてニコニコと、 「良かった、それじゃあ……」 そこで言葉を止めます。私の後ろに、何やら大きな気配を感じたのです。 「おまえら……門番もせず、何、サボって遊びに行こうとしてやがる……」 ……どうやら双子は、本来お仕事中だったようです。 私は、怖くて振り向けません。しかし双子は好戦的に、 「なんだよ、馬鹿ウサギ。お姉さんと遊びに行くのを邪魔するなよ」 「敵よりも先に、ひよこウサギを斬っちゃおうか。お姉さん、どうする?」 ――いえ『どうする』も何も……。 「真面目に仕事をしやがれーっ!」 そして絶叫とともに、エリオットさんの銃が火を噴きました。 半時間帯後。二人の首をふん捕まえ、エリオットさんが仰いました。 「悪いな、カイ。こいつらは仕事があるから、デートはまた今度にしてくれ」 しかし双子は暴れています。大人二人を抑えるエリオットさんも、スゴイですねえ。 「離せよ!仕事とお姉さんなら、お姉さんの方が大事に決まってるだろ!」 「この馬鹿力ウサギ!後で覚えてろよ!」 大人の身体で、子供みたいなワガママを言う二人にため息をつき、 「いえ、エリオットさん。こちらこそ、すみませんでした」 さて私の外出はどうしたものか。 でも一度誘った以上、他の人に護衛を頼めば、何かと後が怖い気もします。 ――お屋敷で二人を待ってますか……。 私はまだ暴れている二人を見上げ、 「ディー、ダム。お仕事頑張って下さいね。終わったら、デートしましょう」 『……っ!』 微笑みかけると、なぜか二人は頬を染め、 「う、うん!お姉さんを守るために頑張るよ!」 「デートの約束、忘れないでよね!他の奴と出かけたら、そいつを斬るから!」 ……物騒なことを言いつつも、やる気になってくれたようです。 「すっかり骨抜きだなあ、おまえら」 エリオットさんは苦笑いし、やっと二人を離します。二人は張り切った様子で、 「頑張るからね!お姉さん!」 「ごほうび、忘れないでね!」 ……ちゃっかりと『ごほうび』まで上乗せされたっぽいですが。 私は苦笑しつつ、手を振って、三人がお仕事に行くのを見送りました。 「さて……私もお勉強しますか」 三人の姿が見えなくなってから『よしっ』と、拳を握る。 早くお屋敷の一員として、皆の怪我を治せるように、不眠不休で頑張らないと! ………… すぅ……すぅ……。 「行き倒れている姿は、久しぶりだな、カイ」 すやすや眠っていますと、どこからか声が聞こえました。 「――っ!」 ガバッと起きますと、入り口近くの廊下でした。 どうやら、開きっぱなしの本を枕にするように寝こけてたみたいです。 上を見るとブラッドさんがいました。なぜか使用人さんを数名連れています。 ブラッドさんの顔には苦笑。使用人さんたちまで、ちょっと笑っていました。 「ブ、ブラッドさん!!」 顔を赤くし、立ち上がろうとすると、スッと手を差し出されました。 「ど、どうも……お見苦しいところを……」 お手を拝借して立ち上がり、頭を下げる。 「それで、お嬢さんはなぜここで寝ていたのかな?」 「その、ディーとダムの帰りを待っていて……」 物騒な国ということで、二人のことがとても心配でした。 なので入り口近くの廊下で、勉強がてら、帰りを待っていたのです。 ……で、見事に寝てしまいました。 「お熱いことだ。手が空いているのなら、お茶会に誘おうと思うのだが」 「あ、えーと、いえ、でも……」 多分参加しても、二人のことが気になって集中出来ないと思うのです……。 とはいえストレートにお断り出来ず、顔を赤くし、うつむいていると、 「やれやれ。君は門番たちしか目に入らないようだな。 独り身が寂しくなるというものだ」 えー。ブラッドさんでしたら、その気になれば、よりどりみどりでは? 「それに、ブラッドさんもお仕事ではないのですか?」 後ろの使用人さんたちと、何となく笑顔を交わしながら言うと、 「ああ。こいつらは護衛だ」 ブラッドさんは返答されて、うなずきます。 「ああ、そうですか、護衛さん……護衛!?」 今までの国ではそんなもの無かったのに、と驚くと、 「物騒な国と言っただろう?今後は屋敷に、諜報員や工作員が入る可能性もある。 趣味に口を挟みたくはないが、頻繁に行き倒れるのは、今後、控えてほしい」 いえ、私の行き倒れは趣味では……。 去って行く帽子屋さんに頭を下げ、廊下の向こうに去るまで見送りました。そして、 ――き、緊張しました……。 一気に気が抜け、廊下の柱にもたれ、ホーッと息を吐く。 「お姉さん、疲れたの?」 後ろからダムが私の首に腕を巻き付けてきます。 どうやら柱だと思っていたのはダムだったっぽいです。 「疲れました……」 だって、お屋敷の権力者さんとの会話ですもの。使用人さんも背が大きいから、 プレッシャーだし。私はダムの腕を撫でながら、 「社交ポイントを150くらい消費しましたよ。しばらく引きこもらないと……」 額の汗をかきながら言うと、 「いつの間にそんな設定が出来たのさ。 しゃべれるようになっても、恥ずかしがり屋だよね、カイお姉さん」 お腹に腕を回しながら、笑うディー。その頭を撫でてあげ、私も――。 …………。 「……て、あなたたち、いつの間にいたんですか!?」 気がつくと、二人にホールドされていました!動けません!! 「ん?さっき来たんだ。お姉さんがボスにナンパされてたときかな?」 「僕らのためにキッパリ断ってくれたんだよね、カイお姉さん!」 嬉しそうに言われ、さらに抱きしめられる。 ……キッパリ断ったのかなあ。そもそもアレをナンパとは……ま、いいですか。 1/6 続き→ トップへ 目次に戻る |