続き→ トップへ 目次に戻る

■ダイヤの国へ!

うとうとうと……。
カイさん、昼間から眠いです。
あれから双子がお仕事に出かけました。私は結局、ろくな睡眠時間も取れず、屋敷の
お仕事に出かけました。
ええ。最近はお勉強も兼ね、救護室で働かせていただいているのです。
今は備品を補充したり、患者さんを案内したりする程度。誰にでも出来る雑用です。
しかし、救護室で仕事を始め、一時間帯もしないうちに追い返されちゃいました。

『ええと〜疲れてるようですね〜、お嬢様。お休みになって下さい〜』
『私たちが代わりますよ〜』
『このままじゃ〜棚にぶつかって〜、頭からガラスと薬品を被っちゃいますよ〜』

けっこう怖いことを言われ、泣く泣く退散しました。
気遣っていただいて、ありがたいけど、自分は必要不可欠なメンバーじゃないんだな
という、ちょっと寂しい気分。
――ちゃんと出来るように、もっと勉強しませんと。
私はフラフラとさまよった挙げ句、やっと双子の部屋にたどり着きました。
ボスっとふかふかのお布団の上に、靴も脱がずに倒れます。
――……お布団……。
目を閉じ、そのまま眠りの園に行ってしまいました。

夢の中ではナイトメアといつも通りの楽しいお話。
『まあ、あっちでも頑張ってくれ』
と彼はなぜか、励ますように笑い、行ってしまいました。

…………

…………

バタバタと騒がしい音に目が覚めました。
「……ん〜」
起きてみると、外は昼の時間帯。どのくらい寝ていたかは、ちょっと分かりません。
「ディー、ダム?」
ちゃんと声は出る。無言期間は無事に脱したようです
でも二人の気配はない。
あの二人に『恋人を優しく寝かせておく』なんて配慮は期待不可能。
一度でも戻ってきてたら、喜んで私を起こしていたはずです。
どうやらずっと戻っていないらしい。
「よっと」
ベッドから飛び降り、大きくのびをします。
「よし!」
双子を探しにいって、無事を確かめたら救護室のお手伝いに戻ることにしましょう。
スタスタと部屋の出口に行き、扉を開けると――。

「武器庫の点検を急げ〜!!」
「重火器はそろっているか〜!?」
「人員の配備を急いで〜!!」

バタバタバタと、使用人さんメイドさんたちが駆け回り、声を飛ばし合っている。
……いつものスローな感じですが。
――え?え?何?どうしたんですか!?
走る人の邪魔をしないよう、廊下の脇によけながら、私は戸惑った。
一眠りしている間に何があったんだろう。
屋敷全体が、慌ただしい。
かわされている言葉は物騒だけど、まるでお祭り前みたいにどこか楽しそうだ。
――でも、いったい何が……?
けどタダでさえコミュ障の私。
忙しそうな人を呼び止めるという芸当は出来ない。
「お姉さん!」
「カイ!!」
騒がしい屋敷を右往左往していると、双子の方が先に私を見つけてくれた。
「ディー、ダム!」
私はホッとして、大人の恋人たちの元に、かけていった。

腕を伸ばすと、背中を軽く抱かれ、背伸びを手伝ってくれる。
そして二人と急いでキスをかわすと、彼らを見上げた。
「会えて良かった。どうしたんですか?激しい抗争でも?」
荒っぽいクローバーの国でも、ここまで大騒ぎになっていなかった気がする。でも、
「お姉さん、ごめんね。あまり説明してる時間はないんだ。僕らもすぐ行くから」
珍しく真剣な顔で、ディー。
「引っ越ししたばかりだから、そんなに大規模なものにはならないよ。安心して」
と、同じく真剣な顔でダム。
相変わらず双子の言うことはよく分からない。
ただ、双子が何かワクワクそわそわしているのは感じ取れた。
「え?引っ越し?」
「そうだよ、カイお姉さん。抗争が始まるんだ」
私に唇にもう一度キスをし、抱きしめてからディーは身を翻す。
「地形が安定してないし、それ以上に危ないから、外に出ないでね」
同じくキスをし、私の頭を撫でて、ダムもディーに続く。
「えっと、あの……二人とも!怪我をしないで下さいね!」
走っていく双子に声をかけるだけで精一杯。
でも恋人たちはちゃんと聞き取ってくれたらしく、一度だけ私を振り返り手を振って
廊下の向こうに消えていった。
私はワケも分からないままポツンと残され、
「いったい何が……引っ越し?」

「そうだ。帽子屋屋敷はダイヤの国に引っ越した」

――ブラッドさん!
後ろにいたのはブラッドさんだった。エリオットさんを従えている。
「今回も無事についてこられたみたいだな。良かったぜ」
エリオットさんはそう言って私に笑う。
私は慌てて二人に軽くお辞儀をし、説明を求めようとしました。
引っ越しって?
ダイヤの国って?
屋敷は何で騒がしいんですか?
ディーとダムは大丈夫なんでしょうか?
「…………」
い、いえ、その、何て言えばいいか……まとめきれず、とっさに言葉が出ないです。
オロオロするけど、お二人はそんな私に慣れている。
「カイ。ブラッドやガキどもが言った通りだ。引っ越しがあったんだ。
今、外は危ないから大人しくしててくれよ」
「大人しくしているのは、抗争が終わった後も、だな。
測量会が始まるまでは、何かと危険だろう」
――え?え?
ますます分からず、目を白黒させる。
「詳しい説明は後だ、お嬢さん。我々は行かなければならない」
と、ブラッドさんは言って、私に微笑んでから歩き出す。
エリオットさんも、私に片目をつぶってからブラッドさんの後に続く。
「墓守の奴ら!前は苦戦させられたが、今は……見てろよ!」
エリオットさんは好戦的な調子で言って、耳をピンと立てている。
ブラッドさんが、残酷に笑うのも聞こえた。
「巡り巡って、墓守が健在な国に行き着いたようだな。
今回は何もかも、以前と条件が違う。
奴の残り少ない時間を削る手伝いを、喜んでさせていただこう」
二人とも、いえ、屋敷全体がものすごく浮かれてる感じ。

あ、あの……それで、誰か私に説明を〜。

4/5

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -