続き→ トップへ 目次に戻る

■門番の恋人は無口・中

――ちょ……っ!いや!止めて下さい!!
真昼の庭で、羞恥プレイが始まろうかという状況に、私はさらに大暴れする。
しかし額に汗して暴れようと、ディーの腕は本っっ当に頑丈だった。
「ダメだよ、お姉さん。大人しくしていて」
「そうそう。これは、僕らを愛してくれないお姉さんへの罰なんだよ?」
いや、罰ってダム!!私をしゃべらせようという目的はどこに!?
腰に手をかけないで!!
……視界の隅にチラッと映る書物は、草むらの上でページがめくれている。
私はこんな目にあうために、お勉強をしていたのでしょうか。しくしく。

――というか、しゃべればいいんじゃないですか!!
大声を出せばとりあえず、誰か来るでしょう。
私は大きく息を吸い、双子への罵倒を叫ぼうと――
――ん……むがっ!
口をふさがれました!
「ダメだよ、カイ。楽しいのに邪魔をしちゃあ」
――え!?ディー!!何で私の口をふさぐんです!!ダムも止めてっ!!
「うん。冗談のつもりだったんだけど、お姉さんがあんまり可愛い反応をするから……」
ダム。なぜか少し頬を赤くし、私の下の服を、ゆっくりずらしてくる。
――止め!……ちょ……っ!本当に見える!見えちゃいますから!!
私はほとんど涙目だった。けどディーは私の内心に、気づいているのかいないのか、
「ねえ、兄弟。あそこの茂みとか、いいんじゃないかな?」
片手で私の口をふさぎ、もう片手を私の胸の方にずらしながら、ディー。
――茂みって……『いいんじゃない』って……屋敷から普通に見えますよ、そこ!
どうも、茂みに私を連れ込むつもりらしい。
しかし連れ込まれて、何をされるかは、火を見るより明らかだ。
「うん。そういうスリリングなのも悪くないね。じゃあ、そっちに移動して……」
ダムも乗り気だ。今にも『見えそう』なあたりで手を止めてくれたのはいいけど、
今度は、お屋敷から見える茂みで、×××されそうになっている。
――いーやーっ!!誰かぁーっ!!
凶悪な門番二人にさらわれかけ、私は内なる絶叫を上げた。そして、

「真っ昼間から、何をイチャついてるんだ、ガキどもぉーっ!!」

正義のウサギさんの銃弾が響いた。

…………

私はカイ。余所者です。
記憶喪失でこの世界に来た私は、紆余曲折ありまして、めでたく双子の門番の恋人と
なりました。今は二人のため勉強をする楽しい日々です。

……しかし。私はコミュニケーション全般が苦手です。端的に言うと無口です。
色んな方の協力をいただき、一度は克服したんですが、元々の性分がそう簡単に
治るわけないし。普通にしゃべれる時期もありますが、逆にスーパー無言タイムに
突入し、周りの方を困らせてしまうこともしばしばです。
今もそういう、しゃべるのが苦手な時期に入ってるんです。

……そして恋人たる二人に、存分にいぢめられる私でした。

…………

窓の外は夜です。そして後ろからはウザい声がします。
「お姉さん〜。謝ったじゃないか」
「カイお姉さん、もう機嫌を直してよ」
双子の部屋で、私はベッドに座り、怒っていました。

あの後。双子は『公共の場で痴×行為に及ぼうとした』ということで、彼らの上司で
あるエリオットさんに、こってり絞られたそうです。
そしてどうにか解放され、部屋に戻ってきて、怒った私が待っていたわけです。
彼らは、ずっと無言な私に、代わる代わる話しかけてきます。
『お姉さん〜』
私はニョロニョロ何とか君を両手で抱っこし、二人に背を向けたまんまでした。
――人が上手くしゃべれないのにツケこんで……!
思い出しても、はらわたが煮えくり返るというものです。
当分は夜の生活を拒否ですよ、拒否!!
「ねえねえ、お姉さん、今夜はどんな風にしたい?」
からめ手に出るつもりなのか、ダムは私の肩に腕を回し、猫なで声。
ディーも横からにじり寄り、私の太ももをそっとなで上げながら、
「カイが喜ぶんなら、僕たち何でもしてあげる」
と、笑いを見せます。大変によこしまな笑いを。
――…………。
「うわっ!!」
ニョロニョロ何とか君をディーに投げつけると、意外にも顔面にクリーンヒット。
しかし、
「やったな!お返しっ!!」
――うっわ!!
バフッと私の顔面にニョロニョロ何とか君が!おのれ、ちょこざいなっ!!
ニョロニョロ何とか君を、再度、ディーに投げつけますが、予測していたのか、
今度はスッと避けられました。
なら第二弾!私は手元の枕を取って、ディーに投げつける!!
「甘いよ、お姉さん!!」
楽しそうに枕を投げ返してくるディー!
「兄弟、カイお姉さん!二人だけで遊ぶのはズルいよ!!」
「うわっ!兄弟も参戦するつもり?負けないよ!!」
かくして始まる枕投げ大会。枕や何とか君を投げる音、そして笑い声が響きます。
もう三人全員が、さっきまでの空気を忘れ、腹を抱えて笑い転げていました。
――本当に、困った子たちですね。
いくら悪さをされても許してしまう。
楽しく笑いながら、私はまた枕を投げたのでした。

2/5

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -