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■木もれ日の中で5(最終話)

クローバーの国でディーとダムと仲直りして。
会合の時期が過ぎ、よく分からない理由で、ここ、ジョーカーの国になり。
私はいろんな人と再会し、また新しい出会いを経験しました。

そして準備中のサーカスは、どこか高揚感があり、でも同時に寂しいものです。
「疲れた顔をしているね」
ジョーカーさんは楽しそうに私の顔をのぞきこむ。
私は季節を変えるため、このジョーカーさんと勝負中です。
「そうですかね……はい、カードを決めましたよ、ジョーカーさん」
「それじゃ、一緒に出そうか。三、二、一!」
「……やたっ!」
私の出したカードは最強の『1』、ジョーカーさんの出したカードは『13』。
こちらの勝ちです。でもジョーカーさんは悔しがる様子もなく、
「強いな、カイ。それじゃあ季節を変えてあげないと」
「ええ、お願いします」
「今度はどうする?さっきは春で、その前は夏だったよね。さらにその前は……」
『ケツの落ち着かねえ女だな。そのうちフラれるぜ?』
お腰の仮面が、憎まれ口を叩きます。私はキッパリと、
「私は信じてます。ディーとダムは分かってくれています……たぶん」
「……最後の一言がなければ、いい台詞だったんだけどね」
あいまいに濁した私に、苦笑するジョーカーさん。私はすまして、
「秋にして下さい、ジョーカー。もう帽子屋屋敷に戻ります」
「よしきた」
そして彼がパチッと指を鳴らすと……まるで魔法のように、周囲が秋一色に染まり
ました。しかし、そろそろ慣れた私は、あまり驚きません。
「恋人たちに苦労しているみたいだね」
「だってあの子たち、子供ですもん」

国が変わろうと季節が変わろうと、次に何をしでかすか分からない危なっかしさは
変わらず。お姉さんだから、私が落ち着かせるようにはしてるのですが、相手は
大きな双子。失敗することも、かなり多いです。
「時間が解決してくれることを、期待するしかないですね」
ため息をつき、帰るべく立ち上がりますと、
「そうかな?」
「?」
ジョーカーさんはゲームをしていたテーブルに頬杖をつき、私を見上げます。
「彼らは『そのもの』だからね。
時間?そんな不確かなものに、過度な期待はしない方がいい」
ジョーカーさんの言葉を、深く考えてはいけない。なぜかそう思えた。
「ユリウスさんが怒りますよ……それじゃ、また来ますね」
私は、背を向けて歩き出しました。

そして、草むらを踏むはずの足が、カツンと靴音を立て、石畳に降りる。
「――あれ?」
ふと周囲を見ると、そこは冷涼な空気をまとった監獄でした。
足下には玩具が転がり、目の前には檻が……。

『カイっ!!』

「……わっ!!」
耳元で怒鳴られ、びっくりしました。
「ディ、ディー?ダム?」
慌てて周囲を見ると、木もれ日がさし、秋の紅葉が舞う林の中。
私の恋人たちは大きな姿で、斧を持ってすぐそばに立っています。
「あんまり遅いから迎えに来たんだよ!」
「僕らから離れないでよ、お姉さん。心配で、おかしくなっちゃいそうだ」
「は、はあ。ごめんなさいね……んっ!」
言い終わる前に、二人から強引に、交互に深いキス。
でも抵抗はせずに、目を閉じて受け入れていると、
「え?ちょっと、二人とも……」
やわらかな草むらにそっと横たえられ、二人が近づく。
動こうにも、相手が二人では逃げる隙もない。
「あ、あのお、ちょっと。昼間ですし……」
「僕らを心配させたおしおき。もっと離れられないようにしなきゃね」
頭の方で私の両腕を押さえながら、ディーが酷薄に笑います。
「え、え、えーと……」
ジョーカーに助けを求めようにも、もうサーカスはどこにも見えません。
人の気配もゼロ。木もれ日がまぶしいっす。
「僕らが優しくするかは……お姉さん次第かな」
両足を押さえるダムが冷酷な声で言い、私の服に手をかけたのでした。

…………

…………

帽子屋屋敷の秋の宵。窓からは月の光が差し込み、ベッドの上の三人を淡く照らし
ます。私はネグリジェ一枚。うつぶせで、ぐったりしていました。
「お姉さん、疲れた?」
「ごめんね、カイ。無理させちゃって」
双子は満足しきった後も、私を構ってくる。
ご想像の通り、林、お屋敷と連戦です。疲れました……。
でも私が視線を向けると、二人は嬉しそうに笑い、子供みたいに抱きついてきた。
「ねえねえ、お姉さん。僕らのために、勉強してるって聞いたよ」
「嬉しいな。僕らだけを治療してよ。他の奴らを手当しちゃダメだからね」
出来るか、そんなこと!……と思いましたが、トラブルの種なので黙っています。
窓を見ると、月明かりの中、風でカーテンが揺れています。
秋の夜はちょっぴり涼しく、暖を求め、何となく双子に身体を寄せます。
すると倍、いえ何倍もの力でぎゅぅぅうっと抱きしめてくる二人。
――ろ、肋骨が!カイさんの肋骨が!!
暖まりましたが、またも生命の危機でした。
それでも、何があっても、もう離れられないんです。
私たち三人は。

夜風を浴びて、疲労の中で心地よく、うとうとしてくる。
そして私に腕枕をしながらディーが言いました。
「ねえ、お姉さん」
「はい?」
「今度、たくさん怪我をしてこようか?」
「……はあ?」
斜め上すぎる言葉に少し身体を起こすと、
「だってお姉さん、僕らの怪我を治す勉強をしてくれてるんでしょう?
だったら、僕らがたくさん怪我をしていた方が、嬉しいよね」
ダムが私の腰を抱き、ベッドに戻しながら言います。
「いえいえいえ!!」
高速で手を振ります。どういう発想ですか。本当にズレてるなあ。
「あなたたちが怪我をしないのが一番ですよ!!
勉強はまあ、いざというときのためと言うか……」
「じゃあ許してあげる。けど、あんまり他の奴らと口をきかないでよ?
お姉さんは僕らの恋人なんだから」
上から発言か。腕をつねりますよ、ディー。ダムも嫌そうに、
「今だってもやもやするのに、カイお姉さんが他の役持ちと会話してる、なんて
思うと斬っちゃいそうになるよ」
誰を?私を?浮気相手をですか?
しかし追求は避け、私は二人の髪を撫でる。
そして交互に、まっすぐ二人の目を見て言いました。

「愛してます。ディー、ダム」

そして、二人に順番にキスをする。
「ん……わっ!」
顔を離すなり、二人にまた抱きつかれた。痛い痛い痛い。
「僕も……僕もだよ!!」
「お姉さんを愛してる!」
泣きそうな声で言われる。
「カイが大好き。ずっと、ずっと、ずっとずっとずっと愛してる!!」
「離れようったって離さない。カイは一生、僕たちのものなんだから!!」
「ええ、私も、私も、いつまでも、永遠に――」
私も微笑み、さらに愛の言葉を重ねる。

本当はまだ不安もたくさんある。
まだしゃべり慣れなくて、また無口に戻りたくなるときもある。
勉強が嫌になったり、友達との関係が面倒になったり。
引きこもりたくなる時だってある。
でも、そういうのに負けちゃいけないと思う。

さっき、白昼夢?で一瞬だけ見た監獄。
魅惑的だったけど、絶対に入らない。入りたくない。
……断言するには、私は弱すぎるけど。

「ディー、ダム」
手を伸ばし、私に愛撫を始める二人に、そっと聞いてみる。
すると、すぐに手を止め、私の言葉を待つ二人。
「私がどこへ行っても、いえ、また無口になっても、助けてくれますか?」
すると二人は、強く頼もしくうなずいた。
「任せてよ!僕らはお姉さんの恋人で大人なんだから!」
「僕たちだってカイを助けられる!」
『お姉さんの貝殻は、何万回だって砕いてみせるから!』
変わった文なのに、二人の言葉がピタリと重なった。
そして三人で顔を見合わせ、ぷっと笑う。
「そうですね、あなたたちは、もう子供じゃないんですから」
頭を撫でてあげると『やっぱり子供扱いしてる』と怒る二人。
でも私を溺れさせていく手つきは大人そのもの。

――生きていこう。みんなと一緒に。

そして二人を頼りに出来るだけの強い自分が、いつかは欲しい。
二人を助け、頼られるような本当の『お姉さん』にもなりたい。
頑張ろう。目が覚めたら、またこの世界で頑張るのです。
でも今は、二人の甘い手に絡められ、ゆっくりと堕ちていく私でした。
……前途多難かもしれませんが。


「大好き。ディー、ダム。いつまでも。ずっと、あなたたちだけを……」


貝殻を捨てたちっぽけな余所者は、この不思議な世界で生きていく。
どんな鋼鉄の貝殻も二つの斧で打ち砕く、最高の恋人たちと共に。



貝殻と二つの斧・完

………………
Thank you for the time you spent with me!!

2012/09/24
aokicam

14/14

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