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■木もれ日の中で2

「カイ!」
「お姉さん!!」
デカいデカい。そして斧装備の双子が抱きついてきます。
「ふ、二人とも……キツイです。離れてください。それにお仕事中でしょう!?」
深刻な生命の危機を感じながら申し上げますと。
「嫌だよ。お姉さんから離れたら、カイお姉さんが消えちゃいそうだよ」
「こうして安心していたんだ?いいでしょう?お姉さん?」
あー……どうもすみません。
私が一度、元の世界に帰りかけたことが微妙なトラウマになっているようで。
国も変わったというのに、ディーとダムは、折に触れて私に会いに来ます。
おかげでのんびり昼寝する暇もありやしない。
「お姉さん、何の本を読んでるの?もしかしてHな本?」
私をぎゅうぎゅう抱きしめていたディーが、ふと草むらに放った本を見る。
「あ、それは……ていうか、何でHな本ですか」
「またまた、お姉さん……」
答える前にダムがいたずらっ子な顔で本を取る。そして、すぐ驚いたように、
「お、お姉さん、難しい本を読むようになったんだね……」
「いえ、まだ勉強中ですよ?」
そう。異世界たるこの世界。謎の翻訳能力が付加されていたとはいえ、不慣れな
こともあります。ディーとダムのそばを離れないと決めてから、私は周囲の人に
手伝ってもらい、この世界の文法などをちょっとずつ習得していきました。
まあ亀並みの成長速度ですが。
「勉強?勉強なんかして、どうするの?」
「そうだよ。そんなことしなくていいから、ずっと僕たちと遊んでようよ」
草むらに腰掛け、両側から私をぎゅーっと抱きしめてくる双子。
「ねえ、カイお姉さん?どこに行きたい?」
「遊園地にしようよ!お姉さんの水着が見たいな!」
二人はすでにその気です。
「ちょっと、ディー、ダム。さっきも言いましたが、あなたたちはお仕事中で……」
「じゃあ、そうしよう!」
「行こう、お姉さん!!」
聞かず、私をぎゅーしたまま立ち上がる双子。足が宙に、足が宙に!!
……私をサボりの口実にしてるな、こいつら。
私は二人の腕をふりほどき、地面に降りながら二人を睨む。
「大人の男は、自分の仕事をちゃんと終わらせてから、遊びに行くものですよ」
え?児童労働?何すか、それ。今の二人は大人!子供なんてどこにもいません!
……と、内なる倫理観と戦いながら二人をたしなめると、
「あー!カイ!また僕たちを子供扱いしたー!」
二人が私をのぞきこみ、頭をぐりぐり撫でてくる。コラ、つむじに触れるな!
「カイ!僕らは今大人で、カイの方が小さい。
僕らの言うこと聞かなきゃダメなんだよ!」
どう聞いても子供の発言を堂々とする二人。
「……て、二人とも、何するんですか?」
遊園地に行くかと思いきや、ふわりと草むらに横たえられる。
「大人の遊びをしようよ、カイ」
何かディーが私の頭の側にしゃがみ、私の両腕を頭上にあげ、押さえています。
「子供の遊びより、ずっと楽しくて気持ちよくて、夢中になれると思うな」
ダムは私の足の側にしゃがみ、私の両足を押さえています。
「どっちの方が大人か、分からせてあげなきゃね」
頭上と足下に悪魔の笑み。ディーが私の上着に、ダムが下の服に手をかけます。
……ヤバイ。冷や汗がたらりと流れます。
「大人大人。あなたたち立派な大人。降参、すごい降参、絶賛降参。参りました!」
「じゃあ、ごほうびくれるよね?大人の女は、恋人にごほうびをくれるものだよ?」
すかさず畳みかけられます。
「いえいえ、カイさんは子供でいいですから!」
それはそれで犯罪の予感。それに、
「それに外は嫌ですよ!だいたい、ここ、お屋敷から見えてるじゃないですか!」
「大丈夫、僕らは気にしないよ。見たやつは消したらいいし」
「私が気にするんですよっ!!ちゃんとお仕事をしてください」

「同感だな。それに、俺も気にするぜ」

…………。
三人、ピタリと止まり、新たな声の主を確認しますと。
「消せるもんなら消してもらおうか……てめえら、いい加減に……いい加減に……」
こめかみに青筋立てたエリオットさん。仏、いえウサギの顔も三度まで。
仕事サボって私といちゃつく双子に、これ以上にないほどお怒りです。

「いい加減にしやがれ、エロガキどもーっ!!」

そしてけたたましい銃声が、秋の庭にとどろいたのでした。


そしてエリオットさんが双子を仕事に追っ払って。
残された私は、エリオットさんと一緒に、ボスのお茶会参加と相成りました。
「エイプリル・シーズンのお茶会だ。さあ、楽しんでくれ、カイ」
木もれ日のお茶会は秋の香りです。

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