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■木もれ日の中で1

会合の会場のど真ん中で、私たちは冷たい視線を浴びている。
あのグレイさんが、私たち三人に冷たい声をかける。
「それで、大事な催したる会合に遅刻してきた理由を聞こうか」

恋人三人で遅刻。ちょっと疲れた顔の私。だいたいの事情はご存じでしょう。
役持ちの皆さんまで、冷たいお顔をされています。私は冷や汗をかきながら、
「ええと、つまりですね。アンモナイトっていうのは、デボン紀から中生代にかけて
繁栄したんですよ。最大のものは全長二メートルに達し、特に白亜紀には大繁栄を
したんですが、6500万年前に突如、恐竜と一緒に絶滅してしまいまして……」
「ええとカイお姉さん、それ、全く関係ないんだけど……」
恐る恐る、といった調子のディー。
「白亜紀末期には『おまえ正気か』と言いたくなる、斬新すぎるデザインの巻き方が
大流行してるんです。インパクトが凄まじすぎて日本産のものにはニッポニテスと
学名がついたくらいなんです。異常な巻き方が増えたことへの学説の一つは……」
「分かった、もういいから、カイ。君は疲れている。そうだろう?」
最終的に、何やら哀れむ顔の夢魔に止められました。
「会合を狙った襲撃の情報は入っていた。そして二人に始末された爆発犯も発見
されている。君は疲れたか、怪我を負って、双子に看病してもらってたんだろう?」
すると私に代わって『うんうん』と双子が光速で首を上下させます。
「以後、そういったことは俺や塔の警備員が対処する。
役持ちは会合への遅刻を控えるように」
仕切りたげなナイトメアを無視し、グレイさんがさっさと不問に処す。
「では会合を続ける。カイ、席で少し休んでいなさい」
グレイさんの優しい言葉。でも混乱途中の私はまだ、
「あ、待ってください、グレイさん。まだアンキロセラス亜目の説明が……」
「うんうん。大丈夫だからね、お姉さん」
「みんなのとこに帰ろう、カイお姉さん」
そして両側から私の腕をつかみ、連行していく双子。
一歩歩くごとに近づいていく帽子屋ファミリーの席。
そこでは、懐かしのボスと腹心がヒソヒソと話し合っておられます。
「カイって、しゃべったらしゃべったで、電波系だったんだな。
あれじゃ、無口のままの方が良かったんじゃね?」
「ふふ。私は今の方が面白い。これからのお茶会が楽しくなりそうだ」
……無口は治っても、まだまだ治すところがありそうなカイさんでした。

「お姉さん、座ろう」
二人に促され、私も腰掛けます。
私も徐々に一連の混乱から立ち直り、周囲を確認します。
すると嗅ぎ慣れた紅茶と、硝煙の臭いがかすかに漂う。
最初はちょっと怖かった。でも今は、とても落ち着く香りだと思えます。
「コホン……あー、えー、それでは、会合の続きを始める!」
ナイトメアが緊張しきりの声で言う。
――あ、そうだ。
私は、自分を挟むように座る両脇の双子をチラッと見上げる。
「どうしたの?お姉さん」
すぐに視線に気づき、こちらを見てくれる二人。
私は少し背伸びをし、小さく二人に笑いました。
「二人とも、愛してますよ」
『っ!!』
顔を赤くし、
「僕も、僕たちもだよ!」
「大好き!カイお姉さん!」
「……え?ちょ、ちょっと!!」
場所を構わず私にキスしようとする二人。
「いい加減にしろ、ブラッディ・ツインズ!」
「てめえら!会合中に女といちゃついてんじゃねえよ!!」
そしてグレイさんとエリオットさんの怒声。
えーと……火を噴く三月ウサギの銃。
応戦するディーとダムの斧。
緊張で赤いものを大量に吐く夢魔。
止めようとするグレイさんのナイフ。
便乗するエースの剣。
なぜか味方を狙うペーターさんの銃。
呆れたように葉巻をお吸いになっている女王様。
その脇でオロオロしている王様。
止めようとしつつ、結局はケンカに加わってるボリスさん。
その陰で、涙目で隠れまくっている、ネズミっぽい人。
混乱にたたき込まれる会場。あちこちで勝手に始まる銃撃戦。
ボスは紅茶を優雅に飲み、私を見つけて何か口を動かし、フッと笑ったのでした。
『前途多難だな』
聞こえずとも分かります。フラれないように頑張りますよ。

…………

…………

そして、どれくらい時間帯が経ったのか。
帽子屋屋敷は、すっかり秋の彩りです。
庭園に寝そべり、私は本を読んでいます。
しかし、いくらの時間帯も経たず、騒々しい声が聞こえます。
「お姉さーん!!」
「カイーっ!!」
――げ……っ!
私はバタンと本を閉じ、脇に放り投げ、目を閉じて、ぐうぐうと空いびき。
ほどなくして、ドタドタと草むらを踏む音が近づいてきて……
「カイ!お姉さん!カイお姉さん!!」
「エイプリル・シーズンだよ!遊びに行こうよ!!」
いちおう大人バージョンです。テンションは子供のそれと変わりませんが。
しかし、読書の秋のカイさんは目を閉じておやすみなさい……。
「兄弟、兄弟。カイ、眠ってるよ?」
こら、ほっぺたつつかない。
「お姉さん。悪戯してって言わんばかりだよね。どうしようか?」
乙女の黒髪でちょうちょ結びを練習すな!抜けちゃうじゃないですか!

「起きてますよ」
私は仕方なく、目を開けました。

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