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■貝殻と二つの斧・中

そして地に足のつかない空間で考える。
目の前に道が見えるんです。私はここを進むべきなんでしょうか。
まあ進んだところで、おそらく元の世界。
こんな自分を待ってる人も、はたしているのかどうか。
……何か誰も待ってない気がする。
それは確信に近い感情でした。
まあ、待ってる人がいようがいまいが、人は生きていくものですが。
「四苦八苦して一人ぼっちで、ずっと生きていくことになるわけですね」
不思議空間で自由になった声で、一人自虐いたします。

――それとも、私を待つ人がいる方に戻りますか?

「それはちょっと……ですね」
髪をかきあげ、考えます。
歪んだ世界で双子の玩具の一つになって、人形のように生きていけと?
倒錯的ではありますが、あいにくとカイさんはもう少しノーマルです。

「カイ」

誰かに呼ばれた気がして振り返ります。でも誰もいません。誰の声か分かりません。
けど、それは元の世界からこぼれ落ちた私をすくい上げてくれた、誰かの声です。
何となく、呼ばれる方に戻りたい気もしましたが、
「結論なんて、わかりきったことですよね」
私は光の方向に向け、てくてくと歩き出しました。
「ディー、ダム。新しい恋人を見つけて下さいね。
でも女の子に乱暴なことをしちゃ、ダメですよ」
届くはずのない伝言を闇に流し、私は光の中へ入ろうとしました。
そして。

「いらないよ、新しい恋人なんて」

「お姉さん以外の誰を好きになれって言うのさ」

ぱしっと手をつかまれ、振り向きます。
「……お久しぶりです」
元の世界に戻るという決意が、私に勇気を与えたようです。
私は、手首をつかむ双子にごく普通に話しかけられました。
「お別れを言いに来て下さったんですか?どうもありがとう」
「……お姉さん、ちゃんと話せるんだね」
「それは、良かったけど……」
怯えも恐怖もなく二人を見上げ、普通にしゃべる私に二人は驚いたようです。
「ここは私の選択が尊重される領域。あなたたちの力や権力は関係ありません。
ゆえに私も、よどみなくスラスラ話せるわけですね」
「えーと……お姉さんの言うこと、難しいんだけど……」
周囲の空間や私の言動に戸惑う様子のディー。
「貴様らが怖くない空間なので、調子こいてます」
「カイお姉さーん……」
ちょーっと困った様子のダム。まあリアクションに困りますわな。


「まあいいや、よく分からないけど、ここならお姉さんがちゃんと話せるみたいだし」
と、ディー。さすが子供。割り切り早!
と思っていると、ダムが私の手をぎゅっとつかみ、
「お姉さん、なんで僕らがいるのに帰ろうとするの?ねえ、どうして?」
「帰さないよ、お姉さん!絶対に帰さないからね!!」
ディーも私の身体をギューッと抱きしめます。ぬっくいぬっくい。
「なんていうか、足を斬られるのは普通に嫌ですので」
至極まっとうな正論を返しますと、
『じゃあ、どこを斬って欲しいの!?』
――……そういう発想ですか、おまえら。

私は、はーっと肩を落とす。大人な子供は両側から私にすがりつきます。
「ねえ、お姉さん!一途な子供を見捨てないよね!僕らを捨てて帰らないよね!」
「帰りますよ。帰らなきゃいけないんですよ」
『カイお姉さん!!』
「だから、無理なんですよ。外見だけ大人になったって、あなたたち、中身は子供
じゃないですか!何かいろいろ不安がありますし」
「じゃあ、どうすればお姉さん、僕らを好きになってくれるの!?」
「大人になるのを待ってたら、他の奴らにお姉さんを持って行かれる!」
双子は私の言うことが理解できず、地団駄踏みそうな感じで駄々をこねる。
「大丈夫、私のことなんてすぐ忘れますよ。新しい恋人を見つけて下さい」
てへ☆っと二人に笑いかけると、
「僕らはお姉さんがいいよ!!」
「僕らは全然カイお姉さんが好きなのに、どうしてダメなの!?」
即答されました。ヤバイ。何か会話になってない悪寒。
こう、長々と修羅場っぽいのが続くのって苦手なんですよね。
そして、双子がフッと手を離したかと思うと、ずいっと斧を向けられます。
「元の世界に帰るって言うなら斬る……!」
「子供を置いて逃げるなんて、大人のすることじゃないよ」
「なら恋人に暴力をふるうのも、男のすることじゃありません」
効果はてきめんで、二人はハッとしたように斧を下げる。
そしてディーが、バツが悪そうに、
「じゃあ……斬るのはダメ?」
「ダメー」
「じゃ、じゃあ斬らない!これなら帰ってくれる?」
フ。今なら譲歩が思うように引き出せるわ。とはいえ、
「嫌ですよ。絶対また同じことが起こります。
あなたたち、私を疑ってるじゃないですか」
すると二人は顔を見合わせ、少し不満そうに、
「じゃあ何で、僕らにだけ口をきいてくれないの?」
「お姉さんだって、僕らを嫌がったじゃない」
……ヤバ。それを言われると、ちょっと反論に困る。
「だ、だって、あなたたちが急に大人になるから……」
「お姉さんが、子供が嫌だって言うからじゃない」
「そ、その……こ、子供との恋愛って、ちょっとどうかって思ったから……」
私はぶつぶつと言い訳します。
「僕ら、別に気にしないけど?ていうかさ……」
「は、はい?」
二人にちょっと見下ろされます。

『僕らを子供扱いするけど、お姉さんも十分子供だよね?』

……実年齢ではなく精神的、内面的なものが。あう。

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