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■貝殻と二つの斧・上

長いようで短い間だったのか、短いようで長い間だったのか。
双子が満足して、やっと私から離れたときには、外は夕暮れに変わっていました。
私は全身を汚され、もう指一本持ち上げる力もありません。
「それじゃあ、お姉さんをお風呂に入れてあげないとね」
「頑張らせすぎちゃったから、きれいにしてあげよう、兄弟」
どちらか分からない一人が、私をベッドから抱き上げてくれる。体力、すげー。
「その後、だね」
「うん……お姉さんに、これからもいてもらえるようにしないと」
……甘い余韻に浸っている暇はなさそうでした。
でも、本当に疲労で身体が動かない。
私は為すすべなく、とりあえずお風呂場に連れて行かれました。
……というか、服はどうしましょう。


……お風呂シーン省略。いやらしいことがあったかは想像におまかせします。
私が夢うつつの間に、お風呂は終わりました。
別の部屋に移動したのか、シーツを取り替えたのか。
再び下ろされたベッドは、湿気の無い清浄なものでした
「それじゃあ……はい」
そしてディーがパチッと指を鳴らす。
すると、バスローブ姿だった私は、一瞬でいつもの服を身にまとっていました。
――不思議の国……すごい……。
そういえば、舞踏会でもブラッドさんがドレスに変えて下さいましたっけ。
私はちゃんとした服を着たことで少し安心し、ベッドに身体を沈めます。
お風呂後の気持ちよさのまま、そのまま眠ってしまいそうでした。
が、双子はいつの間にか斧を持ち、ベッド脇で顔をよせ、話し合っています。
「どのあたりを斬ろう?全部斬っちゃう?お姉さんがかわいそうだけど……」
「足の腱だけでいいんじゃない?お姉さんの一部でも無くなるのは嫌だよ」
「そうだね、賛成だよ、兄弟。片足だけでいいかな」
「いや両足だね。片足だけでも動いたら、逃げちゃいそうだ」
…………大変に、大変にサイコな会話が交わされています。
ちょん斬られるスプラッタな展開でないだけマシとはいえ、あれだけ全力で愛し
あった後だというのに、譲歩はいささかも見られませんでした。
――双子は愛してますが、こういうオチはさすがにドン引くなあ……。
しかし眼前に迫るピンチに、打開策を何一つ見いだせません。
まあここで声が戻り、涙ながらに説得、というルートもありそうですが。
――声、出ろ、出ろー!
やはり出ません。

でも何というか、もう言葉でどうこう出来る段階じゃない気がします。
双子の不信はゆっくりと私が育ててしまったもの。何度か二人がくれたチャンスも
ためらいや戸惑い、あるいはビビッて私の方から蹴っちゃいましたし。
声が戻ったところで、私への不信を固めた彼らに『愛してる』と一言言って、本当に
ハッピーエンドになるものか。

――本当にどうすれば……ナイトメアみたいに私の心が伝えられたらなあ……。
しかし当初はナイトメアでさえ、私の心を読めなかったと言う。
私の心の閉ざしっぷりも半端ない。
「それじゃあ、お姉さん……ごめんね」
ディーが私を転がし、うつぶせにさせる。
さすがにゾクッと、恐怖が背筋を這い上がる。
「このへんかな。すぐに終わるからね、お姉さん」
ダムが軽く斧の刃を足首の後ろにあて、位置を確認する。
そのヒヤリとした感触に、さすがに身体が震えてきました。
――それともディーとダムのしたいようにさせた方が、落ち着くんでしょうか。
何となく諦めも出てきました。状況的に、もうどうにも出来ません。
それに、この世界の人たちは力があるし、いろいろ謎の技術も持っている。
ディーとダムなら、足の動かない私に不自由な思いはさせないでしょう。
――でも、でもなあ……。
私はもやもやする思いのまま、手の中の小瓶を握りしめる。
――あれ……?

いつ持っていたんでしょう。おなじみハートの小瓶です。
脱がされたとき、服を戻されたときも存在を感じなかったのに、今はなぜか私の
手の中にありました。瓶は、完全に限界です。もう一滴も入らないでしょう。
私はボーッとした心地で小瓶を眺めます。
なぜかそれを見るたびに自己嫌悪の情がつのっていきます。
――はあ、本当に私って、ダメな子ですねえ……。
誰からも愛される夢のような世界に来て、この体たらく。
自分では何もせず、二人を振り回し、たくさん迷惑をかけてしまった。
「行くよ、お姉さん!」
ヒュッと、斧が風を斬る音がする。
そして鋭い刃が、永遠に私の足を動かなくする、一瞬に満たない時間の前。

――こんなことなら、元の世界でにいた方が良かったですかね。

そして、小瓶がちょっと光った気がしました。

…………

…………

「……ん?」
私は周囲を見ます。ベッドではないです。なじみになった夢みたいな空間です。
でもナイトメアはいません。そこに私は一人、立っていました。
でも、いつもと異なり、夢の先に別のものがあります。光が見えるのです。
「な、何ですか?」
え?何?夢、ですよね?斬られて気絶でもしたのかな。
「ナイトメアですか?私を助けて下さったんですか!?」
大声で呼びかけるけど暗闇に返答はない。
あ、そういえば夢でさえ無言だった私が、今はちゃんとしゃべっています。
まあ、不思議の国の不思議空間だから、そんなもんでしょう。
あまり深く考えないことにしました。

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