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■双子のお見舞い・下

何度か布を変えて手まできれいにしてやり、最後に制服についた土を落としてやる。
ああ。さっきまできれいだった室内が泥だらけですね。
布は後でメイドさんに洗っていただこう、とテーブルの上に置く。
うう。久しぶりに起きてたから、まためまいが……。
と、よろめいたところをガシッと双子に支えられました。
「お姉さん……手とガウンが汚れちゃったね」
「無理させちゃってごめんね、お姉さん」
い、いえ私こそ……。
ディーとダムが私をちゃんと立たせくれる。
そして左右の手を、悲しそうにギュッと握ってきた。
「今度は僕たちがきれいにしてあげるよ」
と、双子は別の布で、私の手を丁寧に拭き出しました。

私はガウンを脱いでまたベッドに戻りました。
双子は枕元に頬杖をつき、私をじっと見てます。
二人とも、とても不思議そうでした。
「お姉さん、変わってるよね。すぐ寝込むし、ボスをフるし」
「僕たちを怖がらないし、ぶたないよね。最初に会ったとき、斬っちゃったのに」
……すべからく誤解です。ブラッドさんのお茶会を断ったのは、あなたがたから
遠ざかりたいがためですし、最初に寝込んだのもあなたたちが原因。
私はすっげえ怖いのです。あなたたち二人が。今となっては言えませんが。

それに……と、テーブルに置いた花を見る。
野の花たち。泥だらけで色も大きさも数段劣る。花瓶の薔薇とは正反対。
でも本当にたくさんの種類がある。
私のために一生懸命、駆け回ってくれたんでしょうか。

私の心をさらに揺さぶるように、二人は真剣そのものの目で語りかける。
「ごめんね、お姉さん。ずっとお見舞いに行きたかったんだけど、ひよこウサギが
『おまえらが原因なんだから、これから絶対にカイに会うな!!』って」
「ボスまで『おまえたちは顔を見せない方がいい。カイの予後が悪くなる』って」
そして涙さえ流しそうな顔で、当の私に訴える。
「お姉さん、僕ら、お見舞いに来ていいよね!僕ら良い子だよね!?」
「間違って斬っちゃって本当にごめんなさい!嫌いにならないで!!」

私はため息をつきました。私の方からはほとんどアクションを起こしていないのに、
この子たちからも過大な好意をよせられているようです。
――子供って卑怯ですよね。
そんな子犬のような顔をされたら怒るに怒れない。
まあ謎の巻き戻りで私の傷もきれいに消失したし、記憶自体もあいまい。
メッタ斬りにされたことに目をつぶれば、彼らのおかげで、このお屋敷へ滞在出来、
親切な人たちとお知り合いにもなれたと言える。

――ちょっと乱暴だけど、本当は悪い子たちじゃないんですよね。

私はそう確信し、そっと手を伸ばして双子の頭を撫でた。
『お姉さん!!』
パッと明るくなる二人の顔に、淡く微笑んだ。すると二人は、
「お姉さん!カイお姉さんが初めて笑ってくれよ兄弟!僕に!」
「違うよ兄弟!!カイお姉さんは僕に笑ってくれたんだよ!!」
そんな幼いケンカさえ微笑ましく、私はベッドに座り、静かに笑っていました。

…………

…………

それからしばらく経ちました。エリオットさんは相変わらず私に親身で、ブラッドさん
もお見舞いにいらっしゃいます。
双子君たちはエリオットさんの目を盗み、ちょくちょく来てくれました。
……お気に入りの刃物を見せに来るのは勘弁してほしいですが。
部屋や服の汚れはお掃除やお洗濯で全てきれいになりました。双子君が取って来て
くれた花は、メイドさんがきれいな切り花にして、別の花瓶で咲き誇っています。
そうしてやっと、私の熱も下がってきました。

…………

泊まらせていただいてる客室には、メイドさんたちとエリオットさん。
それに帽子屋屋敷で呼んでくれたお医者様が来ています。

私の身体を看た、顔のないお医者様は、聴診器を外しました。
この先生にもずいぶんお世話になったもんです。
「もう起き上がれます。ですが、やや虚弱の向きがありますので、ときどき日光浴
していただいて、あとは少しずつ栄養と体力をつけさせて下さい」
良かった……と私はホッとしました。
というかとっくに熱が下がってて、わざわざ先生を呼ぶほどではなかったのですが。
でも当のエリオットさんが心配したのです。
今、彼はベッドの脇で腕組みし、難しい顔で言いました。
「いや、一つだけ治ってねえ」
「中身ですか?『余所者』の方は、時計ではなく心臓をお持ちで……」
「そんなことを言ってんじゃねえよ!!」
一喝でお医者様を黙らせた。周囲に控えるメイドさんたちも驚いた様子。
ついでに私もベッドの中でビビってすくむ。
……ていうか、時計?心臓?何の話なんでしょう。

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