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■再会

「るったるった、るんるん♪」
適当歌を歌いつつ、私は会合の開かれる会議場を目指します。
――みんなに会えるのが楽しみですねえ。
だってずっと無口キャラだったもの。驚くかな、喜んでくれるかな、ツッコミを
入れてくれるかな。うん、ツッコミ。それ最重要!
――いえいえ、ツッコミはあまり関係ない気が。
自分に自分でツッコミを入れ、頭を切りかえます。
そして大切な恋人たちの顔を思い浮かべました。
――ディー、ダム……。
そしてふと立ち止まる。

「…………」
手の中の小瓶を私はじっと見つめる。
気がつくと無意識にポケットから出してしまうのです。
――本当に、上手くやっていけるんでしょうか。
そして『いやいや』と自分に首を振る。
『ディーとダムを信じます』とヒロイン顔でグレイさんに宣言したばかりでしょう。
恋人の私が信じてやらなくて、誰が信じるというのですか!
小瓶をポケットにしまいながら、そう思っていると、
――ん?
廊下の向こうに、何やら見慣れない方々が数人ほど、たむろしておられます。
わざわざ隅っこで壁に向かい、こそこそ何かやっております。
――んん?
道に迷ったのなら、道案内くらいは出来ますが。私は無警戒に近づきました。
そして、見慣れない方々に近づくにつれ、ひそひそ声が聞こえてきます。
「爆弾の設置を始めるぞ……」
「くそ、トカゲの守りが堅くて予定より遅れた……」
「ボヤくな。成功すれば役持ちどもを皆殺しに……」
ひそひそこそこそ。私はポンと手を打ちました。
「なるほど、廊下の壁に、爆弾を設置しておられるようです。
夢中なのか、遅れたとやらで焦っているのか、私に気づかないようで。
これは大変ですね、すぐグレイさんに知らせないと」
『…………』
不審な方々、手を止め一斉にこちらを見ました。

あ。

「あはははは。しゃべれるようになったばかりで、たまに地の思考を言葉にして
しまうんです。困ったもので。あははは」
事情を知りもしない方々に、ご説明し、エース笑いでごまかしてみる。
『…………』
しかし不審者の皆さん、全員、銃を出し、こちらに向けられます。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。私に気づかなかったあなたたちも悪いですよ。
あー、あと、お祈り!最後にお祈りとかさせてもらえません!?」
確か映画にそういうシーンがあったの!
んでもって、お祈りの最中に必ず助けが入るのがお約束なんです!
しかし、不審者の皆さんの表情に変化はございませんで。
銃口は今にも火を噴きそうです。
「の、ノリが悪いと芸人の道は開けませんよー!」
と、イマイチ実感のないまま、私が蜂の巣になろうとしたとき、


『カイお姉さん!!』


誰かが、大人二人がまっしぐらに、こちらに走ってくる音がしました。
そして驚く不審者さんたちに、ぎらりと光る斧を振りかざし……。

……えー。
省略。ちょっと省略。小心すぎて実況できませんで。しかし悲鳴は聞こえます。
「ぎゃあっ!!」
「た……頼む、助け……うわああっ!!」
「話す!指示役の名前も話すし、金もくれてやる、だから……ぎゃあぁぁっ!!」
この世界に来て長いですが、カイさん、戦闘には慣れません。
「僕らのお姉さんを撃とうとしたんだ!報いは受けてもらわなきゃね!」
「ブラッディ・ツインズの恋人に手を出して、楽に死ねると思わないでよ!」
「ぎゃあああっ!!」
きれいに表現するなら、双子が格好良く斧をふるうたび、赤が飛び散り、廊下には
××がぶちまけられ、次々に不審者さんたちが倒れ、悲鳴と怨嗟の声がとどろいた
……あんまり、きれいじゃないか。
そして、戦闘はやがて終わるものです。
ついに最後の人が動かなくなり、双子は斧を下ろしました。
ちなみに爆発物は未設置だったためか、起動しない模様です。
私は凄惨な光景を目の当たりにし、震える足をおさえ、柱にすがっていました。

「ふう……準備体操にもならないよね。兄弟」
「あ。ちょっとズボンのすそに×がついちゃった。
お姉さんのために、きれいにしてきたのになあ……」
床に転がる方々を蹴り、×に濡れた斧を格好良く構えます。
双子の門番、ディーとダムはいつも通りでした。
そして二人は歯がきらりと光りそうな笑顔で私を振り向きます。
「お姉さん、どう?格好良かった!?」
「カイお姉さん!会いたくて探しに来たよ!」
変わらない人なつこい笑顔で、バタバタ駆け寄ってきました。
「お姉さん〜!小さくて可愛いカイお姉さん!!」
「寂しかったよ、お姉さん、ねえ、頭撫でて!」
……何事もなかったかのような笑顔ですなあ。何つか『この前はごめんね』的な
軽いものでもいいから、一言何かほしかったかなあ……。
まあ恋人になる前から、私をぶった斬ったことを、速攻で忘れるノリでしたが。
「カイお姉さん、声が元に戻ったって、聞いたよ!」
「僕らの名前、呼んで!『愛してる』って言ってよ!」
――はいはい。
ともあれ、恋人に再会して私も顔がゆるみます。
ねだられるまま、二人に言葉をかけようとして、

――……あれ?

「お姉さん?」
「カイお姉さん?」

――あ、あれ……?あれ?

声が、出ない。前みたいに、金魚みたいにお口ぱくぱくですよ。
「お姉さん、しゃべれる様になったんじゃなかったの……?」
やばい、ディーの声がちょっと下がった。
い、いや、私だって会いたかったですよ。
でも、その、床に転がるアレさえなかったら……。
「お姉さん。僕らはお姉さんに会いたくて会いたくて仕方なかったのに……。
やっぱりダメなの?僕らのこと、嫌いになったの?」
待ちなさい、待ちなさい、ダム。お姉さん、腹式呼吸の最中だから!
でも意識すればするほど言葉は出ず、額に冷たい汗が浮きます。
『お姉さん……』
双子をまとう空気はさらに下がる。
私の身体がぶるぶる震え、呼吸すらままならなくなったとき。
双子がゆっくり斧を構えたのがわかりました。

ポケットの中の小瓶が、また少し重くなった気がしました。

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