続き→ トップへ 目次に戻る

■双子のお見舞い・上

時間帯は昼でした。窓の外を見ていると、ハラリと葉っぱが落ちていきます。
私はベッドに横たわったまま、力なく帽子屋屋敷の木々を見ていました。
私が見ている木は、葉がほとんど落ち、元気がないようでした。
手入れが悪いのかもしれません。でも私はその木に自分を重ねました。

――あの木の葉っぱが全て落ちるとき、私の命も尽きるのでしょうね。

そして時間帯が昼から夕に、一瞬で変わりました。
と、同時に、今しがた見ていた木も、青々とした葉っぱたくさんの元気な木に!
……木への感情移入は、瞬時に消え去りました。
時間が巻き戻ったみたい。空気読んで下さい、異世界。

不思議な不思議な『不思議の国』。
馬鹿馬鹿しくなり、ベッドの中で寝返りを打ちました。
そして自分の額に手を当てる。ちょっと熱が下がったでしょうか?

私はあの後、熱を出して寝込んでしまいました。
ブラッドさんがすぐお医者様を呼んで下さいました。が、私は例によって終始無言。
お医者様は困り果て、使用人さんたちから私のことをいろいろ聞いていました。
そして『精神的な疲労が原因でしょう』と。
私は余所者。異世界に来るなりいきなり全身を斬りまくられ、長いこと寝込んだ。
で、やっと起きたら、時間帯だの何だのカルチャーショックの嵐。
心身の疲労が重なり、熱を出したのでしょうと。
……弱いにもほどがありますよ、私の心臓。
それで、またしばらく療養していたのです。

…………

私は起き上がり、ネグリジェの上に真っ白なガウンを羽織る。
それで、サイドテーブルに置いてあるコップを取った。
「…………」
ゴクゴクとお水を飲み、またサイドテーブルに戻す。
そのテーブルには高そうな水差しと、薔薇の切り花が生けられた花瓶があります。
どこで育てているのか分かりませんが、とてもとても美しい薔薇です。
目を転じて、室内を見ると、まず(使用人さんの努力で)修繕された扉。
あと部屋の一角に、きれいなリボンで包装された大きな箱が、いくつか見えます。
ブラッドさんやエリオットさんからのお見舞いの品です。

……このお屋敷の人たちは本当に親切です。
プレゼントを贈るだけでなく、頻繁にお見舞いにも来てくれました。
未だに何も話せないのに、皆さんニコニコしています。
『余所者は貴重な客人だ。好きなだけ滞在するといい』
『何て可哀相なカイ!俺が変わってやりたいくらいだぜ……!』
『お嬢さま。何でも仰って下さいね〜』
――何で、ここまで親切にしてくれるんでしょうか……。
夢の中の夢魔さんが仰った通り、『余所者』というのが大きいようですが。
とはいえ、好意は嬉しいですが、甘えているわけにはいきません。
まだこの世界が何なのか、自分が何者なのかさえ分からない。
早くお屋敷を出て、元の世界に帰らないと。
――でも、そのためにまず、身体を治しませんと……。
私はため息をつき、寝ることにしました。
そのとき、扉の向こうから声がしました。

『お姉さん!カイお姉さん!!お見舞いに来たよ!!』
トゥイードル=ディー君の元気な声です。
『兄弟、兄弟。そんなに大声を出すとひよこウサギに気づかれちゃうよ』
トゥイードル=ダム君の、ちょっと間延びした声です。
また扉を壊されちゃたまらないです。
私は慌てて起き上がり……うう、急に起き上がったのでちょっとめまいが。
ガウンを羽織った姿で、やや早足で扉に向かうと、扉をガチャッと開けます。

『お姉さん!!』
私を見て嬉しそうだった双子君が、
『……何で起きてるの!』
同時に怒鳴りつけられました。理不尽な。
「具合が悪いのに起き上がっちゃダメだよ!!」
前回、扉を破壊したあなたが言いますか。ディー。
「身体が弱いのに無理しちゃダメだよ!!」
あなたもですよ。それと大声はダメじゃなかったんですか?ダム。
私を怖い目で見上げる双子君。でも私は彼らが持っているものに目をとめた。
「あ、お姉さん!!お見舞いの花を持ってきたよ!!」
「外を出歩けないんでしょう?色んな領土の花を取って来たよ」
それぞれが両手いっぱいの花を抱えてニコニコしていました。
……これだけいっぱい持ってきてどう生けろと。それ以前に根から直接引っこ抜いて
来たでしょう。あああ、高そうなじゅうたんの上に、落ちた土がボロボロと!!
あと、双子君自体も泥だらけです。
私は急いでお花を受け取ると、室内のテーブルに置く。
それから、サイドテーブルに急ぎ、手近な布を出して、水差しの水をかけて絞る。
「お姉さん?じゅうたんが濡れちゃうよ?」
それどころじゃないです。私は子犬のようについてきた双子を振り向き、
「うわ!何するの!お姉さん!」
「顔なんて勝手にきれいになるよ!拭かなくていいよ!」
不精は許しません。
私は容赦なく、ディーとダムの汚れた顔をゴシゴシこすりました。
ディーとダムは逃げるかと思いきや、好きにさせてくれます。
どこか照れくさそうな笑顔でした。

1/5

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -