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■騎士は療養中1

※R18
※時計屋×騎士

「ユリウスー、窓の外見ろよ。きれいな雲だな」
能天気な声が部屋に響く。
「旅日和だよな。俺も青空の下で、旅に出たいぜー」
だが窓にも声にも振り向かずユリウスは黙々と時計を修理する。
単調に流れる時計の音と、ユリウスの作業する音。
いつもと変わりない風景に、いつもと変わりない音が流れる。
だが、今日はそこに雑音が混じっている。
「なあ、ユリウス。外に出ていいか?」
ロフトベッドから、エースの声がする。
「黙って寝ていろ」
とユリウスは素っ気無く言う。
ベッドがギシギシ言うので視線をやると、上からひょいっと顔をのぞかせるエース。
ハートの騎士は常と違い、赤いコートや黒い上着は着ていない。
その代わりに頭から体から、全身を包帯でグルグル巻きにされている。
表情は笑顔だが、顔色はどこぞの夢魔のように生気が薄い。
「ユリウス、ユリウスーユリウスー!」
本人はいつも通りのつもりだろうが、声は少しかすれ、張りも無い。
ユリウスは応えず、エースに異常がないか冷静に観察した。
エースは何故か嬉しそうに見つめ返してくる。
しかしユリウスが外に出す気が無いとすぐ悟ったのか、ベッドに寝転がった。
「なあ、出してくれないなら、せめて、やらしいことしてくれよー」
ユリウスはやや口元を引きつらせるが、冗談には応じない。
「俺って監禁されてるんだぜ?
こういうときって普通××××くらいするもんだろ?」
言って動こうとし、傷に響いたらしくうめき声をあげる。

エースは今ベッドから『出られない』。
時計塔の主であるユリウスがエースの動ける空間を制限したからだ。

ユリウスは冷たく、
「お前が外に出たら階段を転げ落ちて本当に死ぬ。
時間帯が経って傷が治るまで大人しくしていろ」
「でも、退屈だぜ。この傷じゃユリウス見ながら××××するのも無理だ。
あ、実は×××××と見せかけて×××××だった?
出来そうで出来ない俺の××××を楽しもうという×××……」
「何の遊戯でもない!!」
ついに怒声を上げて立ち上がった。
「破廉恥な用語を連発するな、馬鹿者!それに元々監禁をする気は無い!
放っておくとお前が勝手にうろつきまわるから仕方なくやっているんだ!!」
「そっかそっか、やっぱり監禁されてるのか」
エースは何ら堪えた様子はなく、したり顔でうなずく。
「やっぱ俺ってユリウスに愛されてるんだなー」
ユリウスは盛大にため息をついた。

…………

ことの起こりはしばらく前だ。
「やあ……ユリウス……」
「っ!!」

時計を回収し、時計塔に帰還したエースを見、ユリウスは道具を取り落とした。

「エース!!その傷はどうしたんだっ!!」
全身を血まみれにした姿はいつものことだが、今回は敵のものだけでなく、彼自身の
赤が、かなり混じっていた。
エースは、取り繕う余裕も虚しく、青白い顔でよろめき、ユリウスに支えられた。
「はは……不運が重なりまくっちゃって……でもちゃんと回収してきたぜ。
だから次の仕事を……」
「仕事などどうでもいい!すぐ治療をするから横になっていろ!」
「傷……なん…て時間帯が、経て、ば、回復……するだろ」
「その前に死ぬような傷だろう、黙っていろ!」
怒鳴りつけ、慌ただしく応急処置を始めるユリウスに、エースは目を丸くする。
「ユリウス、俺の…こと、心配して、くれる…んだ?」
「……傷に響くだろう。しゃべるな」
ぶっきらぼうに言うユリウスを、エースは幸せそうに見ていた。

…………
エースは、完治にそこそこの時間帯が必要な傷だった。
ハートの城に送り返すことも考えたが、断念した。
動かせるような傷ではないということもあるが、あそこは味方に毒を盛るのが日常風景だ。
今のエースを送り返した日には、もう生きて会えないだろう。
かといって普通の病院に入院すれば、山ほど刺客を送られるに違いない。
いや、むしろ入院を嫌って脱走し、最悪行き倒れてそのまま死ぬ。
結局、傷が治るまで時計塔で面倒を見ることにした。
エースももちろん快諾し、短期間の時計塔滞在生活が始まった。

……が、ユリウスはほどなくして後悔することになった。

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