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■時計屋争奪戦5

「ユリウス、もう少し筋肉つけなよ。またやせたんじゃない?」
「う、うるさい」
白のジョーカーが強引にユリウスの頭を引き寄せ、唇を合わせてくる。
舌を入れられ、強引に絡まれる。苦しさに涙がにじみ、なおももがく。
だが暴れ、走り、抵抗し、と久々に身体を酷使した影響が出始めた。
重苦しい疲労が身体にまとわりつき、身体が休息を求め、不満の声を上げる。
荒く息をつきながら抵抗を弱めると、
「お、素直になってきたじゃない」
「最初からそうしてりゃいいんだ。怪我させやしないかと気が気じゃなかったぜ」
ボソリと黒い方のジョーカーが何か言ったが、後半はよく聞き取れなかった。
そして抵抗が失せたのをいいことに、道化は手を前に回し、胸を愛撫しだした。
所長はズボンを無理やり抜き取ると、ユリウスの前を無遠慮につかんだ。
「く……や、やめ……」
「そうか?準備できてたみたいじゃねえか」
半起ちになったモノを弾いてジョーカーはせせら笑う。
そして自身も服をゆるめ、加虐的な笑みでユリウスを見た。
「さて、楽しませてもらうぜ」
「やめ……はな……せ……」
「ふふ、最初に何しようか。それともしてもらおうか」
額に冷たい汗が流れる。そのとき、
「うわっ!!」
白い方のジョーカーが飛び退いた。背後の拘束が解け、ユリウスは後ろに倒れそうに
なり、慌てて身体を支える。見ると、木の幹にナイフが刺さっていた。
もう一人のジョーカーは最高に不機嫌な顔になり、木立を振り返った。
「まさか、お前らが組むとはな……」
「あはは。このままじゃジョーカーさんに良いとこどりされるしね」
「時計屋がらみでなければ、死んでもごめんだったがな」
現れたのはエースとグレイ。
互いにあちこちに軽傷を負っているが、毛ほども痛みを感じていないようだ。
どうやら利害の一致から一時休戦したらしい。
そしてエースは剣を抜き、グレイはナイフを構える。
森に張りつめた殺意が流れる。やがて、ジョーカーが言った。
「うーん、確かに騎士と元暗殺者じゃ、この世界最強のコンビかもね。分が悪いな」
白いジョーカーはあっさりと不利を認めた。そして肩をすくめ、相方に、
「ジョーカー、サーカスに帰ろう。爬虫類は苦手なんだよ、俺」
「そうだな。個人的には戦ってみたかったが……」
「負け戦は性に合わないんだ。仕事に戻ろう」
「ち……」
黒のジョーカーは、半裸のユリウスとエースたちを睨みつける。白い方は笑って

「なかなか楽しかったよ、ユリウス。いい暇つぶしだった」
「時計屋、処刑人やトカゲにひどい目に合わされたら監獄に来いよ」
勝手なことを言い、ジョーカーたちはサーカスの方角に去って行った。

ユリウスは心底から安堵して息を吐いた。
そして、知人たちの前で自分がどんな格好をしているのか気づき、赤面する。
急いで服を整えようとしていると、
「ああ、ユリウス、そのままでいいぜ。俺がすぐ続きをしてやるから」
「おいエース……」
ユリウスはげんなりして、笑顔で近づいてくる騎士を見る。だが、
「おい、騎士。そいつに触れるな」
凶暴な声がした。トカゲはまだ臨戦態勢だった。そして今度はエースに対峙していた。
「ええー、せっかくここまで一緒に来たんだ。
トカゲさん、一緒にユリウスをぐちゃぐちゃにしないか?」
「断る」
きっぱりと言った。
「俺は道化どものように暇でも、お前のようにいい加減でもない。
こいつを誰かと共有することは死んでもしない」
「トカゲさん、もっと寛容の精神を持とうぜ。あははは」
笑いながらもエースは剣を構える。だがその目は戦いを前にした高揚に満ちていた。
「勝った奴がユリウスを好きにしていいんだぜ」
「勝ち負けで時計屋の意思を踏みにじるな!」
トカゲが踏み出した。エースがいっそ優雅なほどの動作で剣を構える。
森に、甲高い音が響き渡った。

…………

「じゃあユリウス、仕事でまた会おうぜ!」
手を振って立ち去る騎士の背中は、どこか清々しかった。
決して軽くない手傷をあちこち負っているのに、足取りはむしろ堂々としている。
例え、負けたとしても、強敵と呼べる存在と思う存分、剣を交えられたことは、
エースにとって喜び以外の何ものでもないのだろう。終始、劣勢に立たされながらも、
エースの顔はかつて見たことのない瑞々しい活力に満ちていた。
そしてグレイもそれを知っていたのだろうか。おざなりにせず本気で戦っているように見えた。
ユリウスは視線をそらすことも出来ず、芸術のような戦いに見とれていた。
――自分は、エースとあんな向き合い方は出来ない。
つわもの同士にしか分からない剣の語り合いに、憧憬すら感じた。
「時計屋」
声をかけられ、ハッとする。慌てて振り向くと、グレイが脇にしゃがんでいた。
「やはり、俺は負けた方が良かったか?お前は騎士の方が……」
「い、いや、その……」
見とれていたと言うのも気恥ずかしい。とにかく誤解だ。
「寒くないか?このあたりは暖かいが、いつ時間帯が変わるか分からんからな」
言って、昼の空を見上げる。ユリウスも我に返った。
はだけられた前を合わせずズボンを履きもせず、犯されかけた状態で戦いを見ていた。
傍から見れば露出狂と言われても仕方ない。大慌てで服を整えようとし、
「いや、そのままでいい」
「……は?」
見ると、グレイがじっとユリウスの下半身を見ている。
……興奮の収まりきらない場所を。

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