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■時計屋争奪戦4

「トカゲさーん、久しぶり!俺と鍛錬しに来てくれたんだ!」
嬉しそうに手を振るエース。だがグレイは苦虫をかみつぶした顔で、
「塔の敷地内で、斬り合いや銃声が聞こえるという通報があった。
役持ち同士の争いらしいということで、被害を大きくしないよう俺が来たんだ」
――まあ、あれだけ騒いでいたら、それは気づかれるだろうな。
「夢魔の部下か。君もタイミングが悪いね。騒いだのは悪かったけど、
放っておいても今から四人で仲良く監獄に行くところだったんだよ」
『監獄』という言葉にグレイの眉がひそめられる。そしてユリウスに目をとめ、
「時計屋に処刑人、それにジョーカー……役人がお集まりか」
「そ。処刑人まではいいけど、君はお役人じゃないから仲間に入れられないな」
ジョーカーがわざとらしく言うと、グレイは舌打ちし、
「監獄になど行きたくもない。早く塔から出て行ってくれ」
そのまま背を向け、立ち去ろうとするのを、ユリウスは思わず
「トカゲ!」
口から必死の叫びが出た。グレイが驚いたように振り返る。
「時計屋、何か用か?……ん?」
そして、ユリウスをじろじろと見る。それはそうだろう。
よく見ればユリウスは後ろから拘束されているし、服も前がゆるめられている。
「仕事ではなさそうだな。ジョーカー、時計屋はどこか悪いのか?」
どうやらユリウスの具合が悪いのではないかと推測したらしい。
真面目に案じているような声。だがユリウスを後ろから抱えるジョーカーは笑って、

「気にしないでよ。逃げられないようにしてるんだ。
これから三人でユリウスをマワすから」

沈黙。

痛いほどの沈黙。

耳鳴りが聞こえてきそうなほどの沈黙。

グレイの顔から表情が完全に消えた。
――お前……絶対に分かってて言っただろう……。
悪役三人はそれぞれ笑みを浮かべ、グレイの沈黙を楽しんでいる。
次の瞬間、グレイは両手のナイフを抜き放ち、臨戦態勢に入った。
低い低い低い声で、
「待ってろ、時計屋。すぐに助けてやるからな」
「あはは。ユリウスとさせてもらえるだけじゃなく、トカゲさんと鍛錬出来るなんて
俺ってついてるぜ。それじゃ、遠慮無く!」
剣を抜き放ち、迎え撃つエース。
「今日は本気で相手をしてやるっ!!」
殺気のままナイフを叩きつけるグレイ。そのまま戦いが始まるかと思いきや、
「っ!!」
グレイが半歩退き、そこをナイフがかすめる。投げたのは、黒のジョーカーだった。
「ジョーカー!俺がトカゲさんと鍛錬してるんだぜ。ちょっと待ってくれよ!」
エースが抗議した。だが黒いジョーカーは苛々したように。
「知るか。一対一なんて誰も決めてねえだろ。それに、俺はトカゲ野郎も前から
気にくわなかったんだ。俺がせっかく引き下がったのに横からしゃしゃり出て……」
「?何の話だ?」
いぶかしげなグレイ。だが敵が増えても怯む様子はなく、ナイフを構え直す。
「二人だろうが三人だろうが、かかってこい。まとめて打ち負かしてやる!」
「勇ましいなあ、でも正義の味方気取りは倒されるのが現実だよね?」
白い方のジョーカーは笑顔で毒を吐く。だがユリウスは、
「痛っ!何するんだよ、ユリウス」
自分を抑えるジョーカーに肘鉄を食らわす。
気取られたのか深くは入らなかったが、ジョーカーの力はわずかに緩んだ。
その隙に腕をふりほどき、逃げ出す。
「時計屋!」
「おーい、ユリウス。お姫様が逃げちゃ話にならないじゃないか」
「つきあってられるか!勝手にやってろ!!」
グレイには後で礼を言うことにしよう。
出来ればクローバーの塔の作業室に戻りたいが、運悪く入り口側に四人がいる。
――クリスマスが終わるまで逃げているしかない。

…………
ユリウスは木にもたれて荒く息を吐く。
逃げると言っても特に行くあてもなく、気がつけばサーカス近くまで走ってきて
しまった。このあたりの森は深く迷いやすい。あまり奥まで入らないように――
「っ!!」
気配を感じて身を交わすと、髪の毛一本の差でナイフが身体をかすめた。
「おいおいジョーカー、殺すんじゃなくて捕まえるんだよ、分かってるの?」
「うるせえ!暇つぶしなんだから、何だっていいだろ!」
木陰には二人のジョーカー。ユリウスは銃を構えるが、
「遅ぇよ!」
素早く動いた所長が手刀をユリウスの手の甲を叩きこむ。
脱臼するかという痛みが走り、あっさりと武器を落としてしまった。
すかさず下でキャッチした道化のジョーカーは銃を草むらに放り投げ、
「まあ、四人も楽しいけど効率が悪すぎだ。やっぱり三人くらいが一番面白いよね」
「おい、ちょっと待て……」
「だな。おいジョーカー、上を押さえてろ」
「はいはい」
抵抗も虚しく身体を押され、草地に座らされる格好になる。
白のジョーカーに背後から腕を回され身体を固定される。黒のジョーカーは
両足を押さえながら慣れた手つきで服をはだけ、胸を外気に晒していく。

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