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■時計屋争奪戦2

もちろん激怒した。
「お前ら三人でやってろ!私は仕事がある!勝手に巻き込むなっ!!」

「そういうわけで、俺が一番乗り!!」
ユリウスの言葉を完全に無視し、エースは窓枠に手をかけ、宙へ躍り出る。
さすが鍛え抜かれた騎士というべきか。
二階だというのに軽やかに着地した。そしてユリウスの方に跳躍する。
わずか数秒の動作だった。
だがユリウスも、ただ突っ立っていたわけではない。
素早くスパナを取り出し、弧を描くようにエースに振りかぶった。
「おっと!危ないなあ」
一方エースの方もいつ剣を抜いたのか。
言葉の割に驚く様子もなく、スパナの打撃を受け止めた。
「冗談ではない!そんな馬鹿馬鹿しいゲーム、許可出来るか!!」
「はは。怖い怖い。でも始まっちゃってるからダメだよ」
鉄と鉄がぶつかり合う高い音。騎士の繰り出す容赦ない斬撃に数秒で腕が痛くなる。
「あれ?終わりなのか?ユリウス、もっと鍛錬しろよ」
剣の一閃。衝撃が手に走ったかと思うと、手首に鈍痛が走り、集中をそがれた。
「捕まえた」
瞬間、エースに抱きすくめられた。そのまま強引に顎を持ち上げられ、唇を重ねられた。
「ん……やめ……っ」
慣れた仕草で舌が入り込み、口内を這い回る。
最初は胸を叩いて抵抗していたユリウスだが、エースのしつこさに抵抗を止め、
目を閉じて渋々受け入れた。エースはやがて離れ、
「それじゃあ、俺が一番だな。じゃあユリウス。やろうぜ」
ユリウスはげんなりする。
「おい、ここは人が来ない場所とはいえクローバーの塔だぞ。
せめて私の部屋か街の連れ込み宿にでも……」
そこでハッとする。
「ちょっと待て!!ゲームだの賞品だの、了承した覚えはない。
だいたい何だ。その……好きに出来る権利というのは!!」
「うん、だからクリスマスの間、ユリウスを好きに出来るんだ。
ジョーカーさんから報酬の珈琲豆をもらっただろ?」
「…………好きに出来る、とは?」
「はは。俺から言わせるの?やらしいなー、ユリウス」
これ以上しゃべらせるとろくなことが無さそうだ。
だがこれだけはいっておく必要がある。
「私は、確かにジョーカーから珈琲豆はもらった。
だが、そんなゲームなら了承しなかった」
「え?何でユリウスの了承がいるんだ?」
ユリウスは一瞬沈黙したが、負けずに続けた。
「私には……その、せ、性的な関係を無理強いされるいわれも、お前たちに
私の時間をどうこう出来る権利も、一切合切、小ネジ一本ほども存在しない」
「うん、知ってるけど、それがどうしたんだ?」
「……………」
どうもユリウスの意思は小ネジ一本ほども顧みられない流れらしい。
そして、何とかショックから立ち直ると絞り出すような声で、
「私は仕事で忙しい。季節があろうとなかろうと絶え間なく、いつでもな」
「うん、でも勝った奴が好きに出来るってことになったから。分かってくれよ、な?」
……なぜ『困った子ども』を見るような目をするのだろう。
「というわけで、ユリウスもスタンバイしててほしかったんだけどな。
具体的には××××を××××にしておいて、それから×××を――」
これ以上つきあってはいられない。
「私はお前らの玩具でも性欲処理の道具でも何でもない!
こんな下らないことをとっとと止めて、石に頭をぶつけて時計を壊せ!」
ひとけのない場所とはいえ、白昼堂々、きわどいことを叫んだ気もする。
しかも時計屋が時計を壊すことを勧めてしまった。
だが、そのくらいユリウスはモノ扱いに切れていた。しかしエースは涼しい顔で、
「じゃあ、ジョーカーさんにお金払って貰ってユリウスの時間を買おうか?
だまされた方が悪いけど、やっぱ珈琲でごまかすなんてひどいよな、あはは」
「お前という奴は……!」
怒りのあまり、両手で胸ぐらをつかむが、エースはその手をつかんだかと思うと、
「うわっ!!」
腕をつかまれ、そのまま背負い投げされた。投げられた場所はやわらかい雪どけの
草むらの上だった。とはいえ、一瞬で天地が変わり、わずかの間、頭が混乱する。
それに乗じてエースは、ユリウスに覆いかぶさった。
「ユリウス。ぶつぶつ文句言ってないで、やろうぜ」
「ちょっと待て、ここは塔の敷地内で……」
「だから、興奮するんだろ?」
「お、おい、どこを……ぁ……」
服の上から胸をなでられ、たったそれだけで声が出てしまう。
エースは先ほどの続きとばかりに舌で首筋をなぞる。
「エース……まて……ん……」
視界に移るのは白昼の空と雪化粧をほどこされたクローバーの塔の荘厳な外壁。
草に染みこんだ雪どけの水が不快に服地を浸食するが、身体はそれとは別に
熱くなっていく。
――どうする?やらせてやるか?
競争相手の二人にしろ、一人は何をするか分からないし、もう一人は頻繁に暴力に
及ぶ粗暴な奴だ。むしろそちらに捕まった方が何をされるか。
それなら、ここでエースにさせて、さっさと終わらせた方が……。
――いやいやいや、どんな主体性のない馬鹿だ、それは!!
エースは役持ちの中で一番親密だし、つきあいも長いが、こちら方面に関しては
関係を終わらせることに腐心している相手だ。
それに奴の性格から言って、こういうときに許すと後々つけこまれることになる。
「とにかく離せ、この暴行犯が。大声を出すぞ!」
「あははは。女の子みたいなこと言うな。それに言う前に大声を出さなきゃ」
「ん……んん……!」
あっという間に灰色の手套で口をふさがれる。不自由な体勢だろうに、エースは
頓着せず手を服の下に滑り込ませようと動かした。

――マズい……。

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