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■雪山とジョーカーさん・上

※R18
※ホワイトさんが若干ヘタレ化

それは実にシュールな光景だった。
「いやあ、こういうのも悪くないねえ」
のほほんと笑うジョーカーをユリウスは睨みつける。
「いや、悪いだろう」
ユリウスは雪の洞穴から、降りしきるボタン雪を眺めた。
雪山で見る夜の雪は、人を心細い気分にさせる。
「あのさあ、一言いいかな、ユリウス」
「何だ、ジョーカー」
親しげに語りかけてくる道化を睨みつける。
だが常に余裕ありげな優男も、今は顔色が悪い。
「……俺たち、このままじゃマズイんじゃないかな」
「……なら外に出てみるか?そのほうがマズイだろう」
二人とも沈黙する。ややあってジョーカーが、
「俺は殺されても死なないけど、自然死の場合はどうなるか分からないな。
そういう場合、残ったジョーカーも一緒に死ぬのかな」
「どうせすぐ分かることだ。道連れがいて良かったな」
「ああ。ユリウスが一緒なら死出の旅路も悪くないね」
「お前の相方のことだ」
「ははは。三人一緒か。にぎやかな旅になりそうだね」
「…………」
「…………」
寒いやり取りに、体感温度がさらに低下した気がする。
ユリウスは昼の時間帯に見つけた枯れ木を焚き火にくべる。
枯れ木の残りにも限りがあるが、夜の時間帯は、外に出ることさえ危ない。
サーカスの道化と時計屋は、夜の雪山で遭難していた。

……そもそも、めったにないことが重なりすぎた。
そのときユリウスはサーカスのある国にいて、人間関係に悩まされていた。
しかしあるとき、ハートの騎士が同僚の白ウサギに引きずられ城へ帰っていった。
夢魔の補佐は上司の大量吐血で処理に追われ、姿を見せなくなった。
時計屋ユリウスはというと、時計修理の仕事が途切れ、やることがなくなった。
しかし、もちろん外に出る気はない。
そこで暖かい室内で、珈琲でも飲みながら本を読もうと決めたが、
「……豆が切れたか」
何度逆さに振ってもカスすら出ない珈琲豆の袋を睨み、雪の積もる外を睨み、
最後に大きなため息をついた。
そして渋々街に出て、雪を踏みしめながら珈琲店に向かって歩いていると、
「あれ?ユリウス?」
ユリウスは目を丸くした。雪景色の中にサーカスの道化が立っていた。
聞けば、サーカスに必要な資材が必要になり、買い出しに来たのだと言う。
ジョーカーとユリウスはそこでしばらく立ち話をした。
彼には口に出来ないことをされることもあるが、表では常識をわきまえている。
明るい時間帯に暇をつぶすには悪くない相手だった。
だが、次第に両者とも寒さがこたえてきた。
「立ち話も何だから、どこか店に入るか」
「いいね。ああ、お勧めとかあるかい?せっかく職場から出てきたんだから、
何か良い酒を飲みたいんだけど」
さりげなく観光案内をしろというジョーカーに、ユリウスは呆れながらも、
「贅沢な奴だ。そうだな。どこかにこの時期限定の氷の酒場があると聞いた」
「いいねえ!そこで二人で飲もうじゃないか」
「飲んだついでに不埒な行為に及ぶんじゃないぞ」
「ははは。俺は君のお友達とは違うから、そんなお約束なことはしないさ」
「その言葉、一応信用しよう。では行くか。場所は確か、こっちだと――」
二人は和やかに会話をしながら、酒場のあるという場所に向かった。

数時間帯後、二人は雪山で遭難していた。

折悪しく時間帯が夜に変わり、雪も降り出した。低体温の危険があったため、
どうにか洞穴を見つけ、雪中に死に物狂いで枯れ木を求め、さらなる苦労の末に
火をおこした。だが、時間帯が経過しても夜が続き、雪が止む気配もない。
火に両手をかざしながらジョーカーは、焚き火を挟んで座るユリウスに、
「ねえユリウス。その酒場の場所、誰から聞いたのさ?」
「……『あいつ』だ」
万年迷子の男だと、名前を言わなくともジョーカーには伝わる。
『君、馬鹿だろ』と言いたげなジョーカーの視線が激しく痛い。
気まずさを隠すため、
「なあ、お前の相方にどうにかしてもらえないか?」
だが腰の仮面は沈黙したままだ。ジョーカーもそれを見下ろしながら、
「監獄も監獄で忙しくてさ。それにあのジョーカーが、君や俺が
ピンチだからって、夜の雪山に俺たちを助けに来る熱血キャラだと思う?」
「想像すら難しいな」
即答出来た。そしてそれきり沈黙が続く。
互いに頭脳労働派で、アウトドアのピンチには打つ手がない。
こういった状況にもっとも慣れているだろう男は今頃、女王の警護中だろう。
「それにしても寒いね」
ジョーカーが白い息を吐きながら手を擦り合わせる。
かなり消耗しているようで、口数も段々少なくなっている。
冬の季節を過ごし、多少寒さ慣れしているユリウスと違い、ジョーカーには寒さが
こたえるようだ。ユリウスは自身の厚手のコートを脱ぐと、火に当てないように、
向かい側のジョーカーに差し出し、
「これ以上、冷やさない方がいいな。私のコートを着ていろ」

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