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■ご機嫌ななめ 

※R18

――眠い……。
眠い。とても眠い。眠すぎて不機嫌になる。
ユリウスは耐え切れずに時計を机に置く。
そのまま机に伏し――たかったが、そうせずに眼鏡だけを取る。
ユリウスは息をひそめ、扉の外の音にそっと耳をすました。
聞きなれた靴音が、階段を行きつ戻りつし、ウロウロしている。

ハートの騎士が時計塔内で道に迷っているのだ。

ユリウスはチラリと窓の外を見る。
――十数時間帯か。もうじき、この部屋にたどりつくころだな。
あの獣がこの部屋に入って何をしたがるかは、火を見るより明らかだ。
ハートの騎士。
場所が野外だろうが、公共施設だろうが遊園地のアトラクション内だろうが、下の
方向に突き進む。騎士とは名ばかりの、正義の変質者。
まして人目がないのなら、間違いなく本番に突入することだろう。
――眠い。冗談ではない。
しかし罠を張る時間はさすがにないし、面倒くさい。
部屋に入れないよう扉をセメントで固めたこともあったが、アッサリ撃破された。
騎士本人を攻撃したときは反撃された。
――……奴が塔で迷ってる間に外に脱出すればいいんじゃないか。
ユリウスは妙案に立ち上がると、そそくさと扉を出た。そして、
「あー……」
「あ!」
脱力した声と嬉しそうな声。
作業室の扉の前にたどりついたエースと目が合った。

…………
「はあ、こんなことなら……っ!…ん、眠り薬でも事前に飲んでおけば良かった。
 そうすれば、目が覚めれば……ん……全てが終わっていたのに……」
「ユリウス……さすがに俺も傷つくぜ?というか、声に出して言うあたり、
完璧に俺への当てつけだよな……? まあ、そういうとこも好きだけどな」
「眠いと口にすべき言葉か……あ……どうか、判断が……。
眠くてたまらない相手を……思いやらない……部下を持つと……」
「ひどいなあ。せっかく頑張ってユリウスのところに来たのになー。
あーあ、暗い上司を持つと苦労するぜ。俺って不運の騎士だよな」
「おまえこそ……ここを、どこだと……」
馬鹿騎士と嫌味の応酬になる。
すぐ目の前に自室があるのに、階段でやろうとするのでは文句の一つも言いたくなる。
ユリウスは手すり前に立たされ、後ろから騎士に触られていた。
何とか行為に及ぶ前に敵を阻止しようと必死で身をよじるが、腰に回された右手で
がっしりと身体を押さえられる。騎士の左手は器用にベストとシャツのボタンを外し、
中に忍び込むと、すぐに敏感な部分をいじりだす。
「ん……やめ……ろ……っ! 部屋に……すぐ、そこ、だろ……」
「えー、俺は今日ここがいいんだよ。たまには気分を変えるのもいいだろ?」
「エース……やめ……」
ユリウスはしつこく胸をいじる敵の手をつかんで、悪戯を止めようとするが
「え? 何々? もっと強くしてほしいって? 
いやあ、ユリウスも積極的になってくれて嬉しいぜ!」
明らかに分かって言っている。
手をどかすどころか、余計重点的にいじられる。何とか、のけようとするが、
それだけ強く押され、こすられ、つままれ、そのたび喉の奥で声を上げてしまう。
まるで自分がエースを煽っているような気分になり、諦めてもがくのを止めると、
「はは、悪い悪い、下も可愛がってやるから、すねるなって」
腰を押さえていた方の手が下にのばされる。ユリウスは思わず顔を上げ、
「っ!! おい、エース! 本当にここでやる気か!? 
 部屋はすぐそこなんだぞ! 誰か来たら……ん……っ」
耳朶を噛まれ、思わず声が出てしまう。
「えー、この塔はユリウスの持ち物なんだから、別にいいだろ。
 それに客なんて俺以外、めったに来ないじゃないか」
言いながら、舌でイヤリングのあたりをなぞられる。
右手もズボンの上から股間をまさぐりだし、
「そういう問題では……あ……」
抗議が声にならない。エースは笑いながら、
「ユリウスって俺のこと変質者みたいに言うけどさ。
自分だって負けてないと思うぜ」
「う、うるさい……ん……」
荒い息がもれる。刺激が欲しいのに、焦らすように股間をなぞるだけの手の動きに
苛々する。眠い。仕事で疲れてもいる。さっさとしてほしい。
「おい……早く……」
「じゃあ、どうして欲しいんだよ、言葉なり行動なりで示してくれないとなあ」
「く……」
ユリウスの方が熱くなっていると分かると、すぐにつけこんでくる。
こういうとき、根競べをしたところで、喜ばせるだけだ。
「この……×××××がっ! おまえのような馬鹿は××××ってろ!」
「ははは。顔真っ赤にして言うんじゃ照れてるようにしか見えないぜ、ユリウスー」
だがエースの方からコトを先に進める気配はない。
ユリウスの頭を瞬時にあらゆる罵声がかけめぐり――脱力した。
「…………エース……頼むから……さっさと終わらせてくれ。私は眠いんだ」
ベルトを緩め、下着ごとズボンを下ろす。後ろからは予想通り大きなため息。
「ユリウス。それ絶対に誘ってないぜ? 俺、萎えるよ?」
「望みどおりにしてやって文句を言うな、おまえもさっさとしろ」
「冷たいなー」
だがエースの手はすでに十分堅くなっているユリウスの×××を扱き出す。
ユリウスも再び息が荒くなり、エースが触りやすいように脚を開いてしまう。
眠いとは言ったが、もう眠気は完全にどこかに行ってしまった。
自分も手を背後に回し、エースの×××に触れ、後ろ手で出来る限りの愛撫を施した。
「ん……」
「…………」
外で時間帯が変わったのか、塔内部が少し暗くなった。
燭台の明かりに、自分とエースが睦み合う影が伸び、訳もなく恥ずかしくなる。
「エース……早く……」
コートのポケットに入っている潤滑油を取り出し、後ろに差し出すと、
「あのさ、ユリウス……そういうのあらかじめ用意してるって……」
かなり真剣な声がする。ユリウスは顔を紅潮させ、
「う、うるさい! 誰のせいだと思っているんだ!」
ところ構わず襲いに来る馬鹿がいる。自衛くらいして当たり前だろう。
逆切れ気味に怒鳴ると苦笑が聞こえた。
すぐに容器を開ける音がし、ほどなくして後ろにぬめる感触が走る。
「……う……」
「不機嫌なユリウスには勝てないなあ」
「…………馬鹿が……」
やや性急に後ろを慣らされ、エースがベルトをゆるめる音がした。
そしてふいに腰を後ろに引かれる。
「ユリウス……」
「ああ、来てくれ……」
応えるが早いか、腰をつかまれ、熱い塊が押し当てられ――そして一気に貫かれた。
「ぐっ……うう……」
最初の苦痛に前のめりになり、目の前の手すりをつかむ。後ろを突き出す姿勢になり、
「はあ……はは。ユリウス。すっごい、いやらしい格好してるぜ」
「黙れ……この……んっ……」
エースが動きだし、罵声も喉元で止まる。
「ん……ん……」
エースの片手が前に回り、ユリウスの×××をつかむ。
刺激に、思わず達しそうになるが、何とか瀬戸際で押さえる。
まだ始まったばかりなのに。
「おい……ん……っ」
「はは。ユリウスー、ちょっと頑張ってくれよ? 
 まさか俺より遥かに先にイったりなんてしないよな?」
「この……変態が……っ!」
後ろから揺さぶられ、片手で前を刺激され、今にもイキそうなのを必死にこらえる。
手すりにしがみつき、何とか気をそらそうとするが、目をキツく閉じるほど
エースの感触を強く感じ、あふれそうになってしまう。
先走りのものはエースの手をつたい、下肢を流れ、着衣に着実に染みを広げている。
エースは抜き差しを早めるものの、まだ終わりそうにない。しかしそろそろ無理だった。
「エース……こっちは……もう……」
「えー、こらえ性がないぜ、ユリウス。俺ももう少しなんだからさー」
「頼む……後で、何でもするから……」
「あはは。それ約束だぜ?」
「ああ……だから……」
言うが早いか動きが速くなり、ユリウスも必死に手すりにしがみつき、腰を動かした。
淫猥な水音に混じって聞こえる時計の音と、手すりから見える夜の時計塔。
代々の時計屋に受け継がれてきた秩序とルールの聖堂で、だらしなく半裸を晒し、
男と交わっていることに、どこか興奮を感じていた。
自分自身が縛り付けられ、支配されてきた場所を汚すことに、背徳感と高揚を。
ふいにエースがひときわ強く突き上げてくる。
「ユリウス……」
「ああ……」
再び前を強く握られ、完全に限界だった。
「エース…………っ!!」
堰を失った白濁した液がとめどなく放たれ、時計塔の磨かれた床を汚す。
エースも強くユリウスを抱きしめたまま果て――二人は荒い息をつきながら床に崩れた。

…………

「なー、ユリウスー。俺もベッドで寝かせてくれよ」
「うるさい! このベッドは一人用だ! おまえはソファで寝ろ!!」
何とかベッドに上ろうとするエースを怒鳴りつけ、梯子を揺さぶり、落とそうとする。
あれから床でさらに何度かいそしみ、欲情も収まったところで身体を清め、その後
休息する運びになったのだが……どこで休むかで揉め、今に至る。
「仕事中に襲うだけでも論外だというのに、私の時計塔で……あんなことを……」
あとは怒りで言葉にならない。劣情に流され、誰が来てもおかしくない場所で、
何ということをしたのか。自分にも自己嫌悪を覚えるが、騎士はもっと許せない。
「でもユリウスだって盛り上がってただろ。もう俺なんかより、ずっと――」
「黙れ、この下半身男が! 今すぐ時計塔から出て行け!」
「ユリウスー、何でもするって言っただろ。俺もベッドで寝かせてくれよ」
「やかましい! ここは私のベッドだ! 私一人で寝る!」
……と、強気になって怒鳴ってもエースは無理やり梯子を登り、ユリウスの横に並ぶ。
長身の男二人を乗せ、抗議のようにベッドがミシっと揺れる。
窓の外には月夜。だがユリウスの作業場は未だ騒がしい。
「おい、本当にこのベッドは狭いんだぞ」
「うんうん。だから、ユリウスもあんまり暴れないでくれよ」
ニヤッとエースは笑い……ユリウスの脇に両手をつき、唇を重ねる。
「おい……またか?」
「何でもするって言っただろ? 往生際が悪いぜ?」
口内を堪能し、唇を舌でなぞり、エースは笑う。
「ベッドに入れてやっただろうが。それで満足しろ」
「分かってないな。俺をベッドに入れた時点で先の展開を予測するべきだぜ?」
「自分で言うか、自分で。はあ……私は寝る。もう、好きにしろ」
不機嫌に言って勝手に目を閉じるが、眠れないだろうことは分かっている。
「あはは。それじゃ、遠慮なく」
許可を得たエースは本当に遠慮なく身体を探り出す。
「ん……」
まだ興奮冷めやらぬ場所に触れられ、思わず身じろぎするとベッドがギシっと鳴る。
――そのうち、ベッドを買いなおすかな……。
逃避気味に考えながら、ユリウスは機嫌悪く目を開ける。
騎士と長い長い夜を楽しむために。

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