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■眠りネズミの時間7

「ん……ぁ……」
静かなネズミの巣に、ネズミの声だけが響く。
腰を打ち付けるネズミは快感に溺れているらしい。うつぶせに押さえつけられる
ユリウスは苦痛に耐え、シーツをつかむしかなかった。
やっと終わりが近いのか、動きは徐々に強くなっていく。
「はぁ……はぁ……」
汗が目に入り、視界がかすむ。見えるのはガラクタを寄せ集めた、ただの空間。
「ん……っ」
不快な感覚が内に弾け、ネズミは果てた。
ゆっくりとユリウスを痛めつけていたモノを抜き出すネズミ。
ユリウスはやっと解放されわずかに力を抜く。
だがネズミは、おずおずと、ユリウスの口に自分のモノを近づけると、
「きれいに……してくれる?」
言っていることもとんでもないが、ここまでしておいて、なおも相手の顔色を伺う
ようにオドオドしているのが眠りネズミだ。
それでも、ユリウスは小さい体のまま何とか身を起こし、まだ白濁したものを
したたらせるソレをそっと口内に含む。生ぬるい液体を何とか飲み下し、
舌を這わせて清めていく。ネズミは心地良さそうにユリウスの髪をなでていたが、
「ん……」
声がわずかに熱くなっている。同時に、舐めていたモノが硬くなってきた。
――おい、またか……。
内心うんざりする。
穏やか頭に触れていた手は、髪をつかみ揺さぶりはじめた。
「ん……ん……」
苦しさに涙がにじんでくる。早く終われ、と自棄(やけ)になって吸うが、やはり
達した後では、反応は思うように行かない。
焦るうちに口内からモノが引き抜かれ、ユリウスは再びベッドにうつぶせにされた。
腰が乱暴に持ち上げられ、ぬめる感触が後ろに押し当てられる。
慣れた鈍痛と、侵入され、無理やり押し広げられる嫌悪感。
「はあ……はあ……」
眠りネズミはすぐに動きだした。
ユリウスは再び始まった長い時間を、ただ耐える。


必ず逃げてやる、と誓った自分が愚かしい。
もうどれだけ時間帯が経過したのか、いつしか考えることを放棄していた。
食糧がろくに与えられずベッドに伏し、ネズミに抱かれ、少しの水と食糧を与えられ
また床に伏している。
汚れも傷も時間が経過すれば巻き戻る世界では、それだけで何ら支障がない。
時計塔の夢を、時計を修理している夢を繰り返し見る。
帰りたい。
自分のあるべき場所へ、就くべき席へ――あいつの隣へ。
「はい、今日は頑張ってくれたから、ご褒美だよ」
鎖を引っ張り、少年を引き寄せると、眠りネズミは唇を押し当てる。
ネズミの巣のベッドに全裸のネズミと同じく全裸の年端のいかない少年。
しかも首輪と鎖つき。
やわらかいチーズが口移しに与えられ、ユリウスの喉を通っていく。
最初は吐きそうだったが、ネズミがそれ以外与える気がないらしいので、今は無理に
でも呑み込んでいる。
「大好き……大好きだよ……」
小さなチーズの塊を全て与え終わると、眠りネズミはそっと弱っているユリウスを
抱きしめる。
「言うことを聞いてくれるし、可愛いし、気持ちいいことさせてくれるし。
本当に、本当に大好きだよ……だから、君も俺を大好きになって」
「…………」
――やはり、気づかれている。
未だに監禁した顔無し(とネズミは思っている)の少年が逃げようとしていることを。
ネズミは何度もユリウスに口づける。そのうちに押し当てる時間が長くなり、舌と
舌が絡み合い、やがて手が肌を愛撫し始める。
ネズミが仕事から帰還してから、これで何度目になるのか数えるのも馬鹿馬鹿しい。
――本当に何とかならないのか……。
ユリウスを抱いているか、寝ているか、チーズをかじっているか。
巣にいる間は、その三つくらいしかしない。特に性的な行為に耽ることが多い。
チーズしか楽しみがないと聞いたことはあるし、ネズミは多産な動物だから、
眠りネズミである彼も、性的欲求が強いのかもしれない。
――それにしても、自堕落だな……。
ユリウスもそれを利用してネズミの機嫌を取るようにしている。
奉仕すれば、それなりに見返りがある。食糧を多くもらえれば、時間を進めるに
必要なだけの体力をつけられる。元の姿にさえ戻れば自分は領主クラスの役持ちだ。
格下のカードである眠りネズミの巣を抜け出す方法は、いくらでもある。
とはいえ、そのために時計塔の主が、ネズミのご機嫌を取る日常……。
「ねえ、ちゅうもいいけど、ここ触ってよ」
言われるままにユリウスは視界になじんできた自分の小さい手をのばし、ネズミの
モノをつかみ、扱きはじめる。
「ん……」
久しぶりの声は自分の喉からもれる。鎖を引っ張られた苦痛のためだ。
「手だけじゃダメだよ、ちゃんと舌も使ってよ」
――じゃあ、最初からそう言えばいいだろう。
思わず見上げると、ネズミは慌てて、
「あ……えと、ごめんね。手だけでもいいよ」
「…………」
反応がズレているのはさておき、徹底的に自由を奪った相手にここまで下手に出る
加害者も珍しい。いや、ここまで弱気だからこそ、強硬手段に出てしまうのだろうか。

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