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■自業自得・下

階段を上り、最上階付近の踊り場についた。
その床に、ユリウスはだらしなく横になる。
硬くて冷たいけれど、たまりにたまった眠気も限界近い。
そして小さく息を吐いて、目を閉じる。
そのまま夢の世界へと――

「うーん……分からないぜ……」
身体に妙な感触を抱き、目を開けると、
「エース……何をやってるんだ……」
頭から、やはり赤いものを流し、全身あちこちにすり傷やアザを作ったエースが、
ユリウスの服をいじっていた。言うまでも無く……かなり怖い。
「いや、俺、階段の下の方で倒れてたんだけど、その付近の記憶がなくてさ。
で、ユリウスの部屋で治療させてもらおうと思ったら、道に迷っちゃってさ。
それで、ここまで来たらユリウスがいたから、とりあえず襲おうかと」
「………………」
生存本能と性的欲求を天秤にかけて後者が勝ったらしい。
相変わらず末期思考の男だ。
しかし、頭部強打に全身打撲が加わったのだ。
骨の数本は本当に折れているかもしれない。
「エース、とりあえず止めろ。先に治療するぞ、な?」
罪悪感で眠気が覚めるのは嫌だが、さすがに申し訳なくなってきた。
「んー、でも一回くらいイイだろ?可哀想な俺を慰めてくれよ」
言って、剥き出しになったユリウスの胸に歯を立てる。
「ん……ダメだ、先に治療を……」
「えー、もう起ってきてるじゃないか、ユリウスー」
ニヤニヤと笑う……頭から血を流し、あちこち怪我をした状態で。
痛みも生半可ではないだろうに、目の前のユリウスを優先してくる。
いろいろな意味で怖い。怖すぎる。
エースの手がユリウスのズボンの中に入り込もうとベルトを緩め始める。
「馬鹿、本当にやめろ、作業室に戻って治療をするぞ!」
「夢魔さんじゃないけど、それは聞けないなー。
聞いてほしいなら、先に俺の言うこと聞いてくれよ」
「ふざけるな!」
いい加減腹を立て、エースをはらいのけようと腕を振った。
「……あっ……」

ダメージがたまっていただろう騎士の身体がバランスを崩し階段を(以下略)

「…………」
ユリウスはずいぶん長くそこに立ち尽くし、
「疲れると幻覚が増えるものだ。ちゃんと寝なければな」
あくびを一つし、階段を上る。

何というか、もはや考えたら負けな気がしてきた。

…………
「そんな…馬鹿な……なぜ生きている……」
「ユリウス、何か台詞が悪役っぽくないか?」
時計塔の最上階でユリウスは、自分に圧し掛かるエースを信じられないものを見る目で見上げた。
「でも不思議なんだよな。階段から一度落ちただけで、ここまでボロボロになるもの
なのか?何か記憶があいまいだし……スッキリしないぜ」
「疲れていると必要以上に大げさに感じるものだ。
ああ、そのはずだ。そうに決まってる。そうに違いない」
「何で断定形なんだ?ユリウス。ま、ユリウスが言うんだから、大した傷じゃないんだな」
腑に落ちない表情でユリウスの素の下半身を弄ぶエース。
その姿は……もはや形容を避けたいほどにボロボロだった。
しかし行為に集中するエースにそんな素振りは無い。
まあ、方向感覚とかアレとかコレとか、元々頭が壊れ気味な男だ。
節足動物並みに鈍すぎて痛みを感じないのかもしれない。
もはや睡眠を諦めたユリウスは大人しくエースの愛撫を受ける。
「ん……ぁ……」
「ユリウス……ん……」
どちらともなく服を脱ぎ、互いに抱きしめ、何度も唇を交わし、舌を絡めあう。
晴天の下、時計塔の最上階で愛し合う、傷だらけの騎士と眠気をこらえる時計屋。
……何というか、もういろいろ終わっている気がする。
「ユリウス?」
終わっているついでに、やんわりと態勢を変えてやる。
エースにまたがる形になると、硬くなったエースの××に触れると、
自分の後ろに導く。信じられないといった表情のエース。
「え……嘘だろ……いいのか?」
「ああ、今は特別だ」
柔らかく微笑んでやる。
「ユリウス、一体どうしたんだ?嫌がらないし、優しいし、積極的だし…」
「お前の怪我が辛そうなのがな……見ていて、私も辛いんだ」
断じて殺人未遂隠蔽(いんぺい)の目的ではない。
腰をゆっくり下ろすと馴染んだ痛みに一瞬震えるが、こらえて腰を動かす。
「く……」
「ユリウス……好きだぜ……愛してる」
「う、うるさい、お前も手伝え」
「はは。喜んで」
エースはすぐさまユリウスの腰に手を添え、動き始める。
「ん……ぁ……」
「はあ……あ……ん……」
痛みが徐々に薄れ、身体の芯が熱くなっていく。
オマケに真昼間の、国を見渡せる時計塔の最上階という羞恥心。
いつもとは違う刺激が余計に快感を煽る。
騎士に下から力強く突き上げられ、のけぞって嬌声を上げる。
「ん……ぁ……はぁ……」
「ん……ユリウス……ぁ……」
空はどこまでも青く、眺めは最高にいい。
陽光の下、エースの顔は欲望と怪我の痛みでいつもより艶めいている。
「はぁ……あ……」
突き上げは速さを増していく。ユリウスも汗を流し、腰を動かす。
「…………エー……ス……」
「……はあ……はあ……ぁ……」
「……ぁ……あ……」
自身から、白濁した液が放たれ、エースの引き締まった腹を汚す。
次いでエースが限界に達し、ユリウスの中に熱いものが放たれた。

…………
「……はあ……今度こそようやく眠れる……」
行為の疲れもあり、ユリウスは会話がやっとなほど眠かった。
相変わらず青空の天井の下、エースに腕枕をされている。
「ユリウス、俺も一休みしたら、部屋に運んでやるな」
「いや、塔の中で遭難は勘弁してくれ。先に帰って治療していいぞ」
「はは。それじゃ、ユリウスが起きるまで守ってやるよ。
俺はユリウスの騎士だからな」
エースはいつものようにからかったりしない。
腕枕と反対の手で、ユリウスの頬を寄せると優しく口づける。
いつにない甘い雰囲気に、ユリウスの表情もつい柔らかくなる。
「しかし、私は長く眠ると思うぞ。水も食糧もなしで大丈夫か?」
言うと、エースは放り投げたコートに片手をのばし、懐からリンゴを取り出した。
「腹が減ったら、これを食べるさ」
そう言って笑ってリンゴを宙に投げ、
「……あ」
受け止め損なって、頭にリンゴがぶつかる。
「はは……おい、エース、大丈夫か」
「……………………」
「エース?」
「……ユリウス……」
突然、ガシっと肩を捕まれる。食い込む指が痛い。

「……自分が眠いからって、人を力いっぱいスパナで殴って、二回も階段から突き
落として。それで一回ヤラせたくらいで済むとか、思ってないよなぁ?」

「……………………あ……」
エースは記憶を取り戻したようだ。
顔は笑顔だが、まあ、当たり前というか……笑顔のまま猛烈に激怒している。
「えーと……その……………………すまん」
「誠意がこもってないぜ、ユリウス〜?」
言って、身体に手を這わせてくる。
「寝かさないぜ、ああ、嫌がらせの意味で絶対寝かさないからな」
「…………眠い」
他に言うことは無い。

その後、ありとあらゆる奉仕を強要されたユリウスが眠りにつけたのは、
相当あとの時間帯のことだった……。

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