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■眠りネズミの時間1

※R18
※監禁、ショタネタ注意
※ピアスファンの方は閲覧をオススメしません……


……あの悪夢の発端はハートの騎士の頼みから始まった。

あるとき、陰気な時計屋ユリウスの元にハートの騎士が訪れた。
そして……まあ、詳細は略すが、とにかく一戦交えた。その後、
『互いの時間を戻し子供の姿になって楽しもう』と騎士が持ちかけてきたのだ。
どうも裏通りの方で、最近そういったプレイが流行っているらしい。
もちろん不道徳にもほどがある、とユリウスは即却下した。
しかし『そっち』方面のこととなると騎士の粘りは、こと尋常ではない。
会うたびに繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し(中略)説得をされ、ユリウスも
次第に『まあ、たまには趣向を変えるのも…』とその気になり、了承した。

しかし折悪しく、そのときユリウスはまとまった量の時計修理を抱え、騎士の方は
城からの呼び出しと時計の回収(と迷子癖)でしばらく会えないことが分かった。
仕事が片付いたらゆっくり楽しもうと口づけを交わし、二人はそれぞれの役目に就いた。

「どうにか終わったな」
その後、通常より速いスピードでユリウスは修理を終わらせた。
運良く、大規模な抗争があるとも聞かない。
当分は仕事をしなくてすみそうだ……と、ユリウスは窓辺で一息つく。
騎士もそろそろ到着する頃だろう。
そのときユリウスは千時間帯に一回あるかないかのイタズラ心を起こしてしまった。
『一足先に小さくなって、戻ってきた騎士を驚かしてやろう』と考えたのだ。

「よし……」
すぐさまユリウスは時間を戻し――少年の頃の姿になった。
子供の視点が懐かしい。部屋がやけに大きく広く見えた。
鏡を見ると、自分と思えないくらい小さな少年が映っている。
これなら騎士も喜ぶだろう。お互い子供の姿になって睦み合うのは背徳的な気分を
高め、さぞ新鮮な刺激となるだろう。
ユリウスはすっかり気分が弾み、鼻歌まじりにベッドを整える。
そして機嫌良く床に降りたとき、ユリウスはよろめき――そのまま倒れた。
「しまった……」
思わずうめく。たまった仕事に集中しすぎて、もう何十時間帯も飲まず食わずだった。
ふらつきながら食糧庫を開けたが、こんなときに限って空になっている。
ユリウスは憂鬱な気分で窓を見上げる。
――外には出たくないが……。
しかし体力のないままでは楽しむものも楽しめない。
買い出しに出るしかない。
そして自分の身体を見下ろし、大人に戻るべきか一瞬思考する。
――まあ、すぐ終わる買い出しのために戻るのも面倒だな。
結局、そのまま外に出ることにした。ただし悪目立ちする時計屋の服は、普通の
顔なしの子供が着ているようなものに変える。そしてユリウスは塔の階段を下りた。
しかし塔の扉を閉めたとき、ユリウスはふと思った。
――子供の姿で一人買い出しに出るより、騎士の帰還を待って荷物持ちに
ついて来させた方が良かったのでは……。
一瞬思ったが、すでに塔を出た後だったので、ふらつく身体を抱え街に歩き出した。
そのことを、ユリウスは後々悔やむことになる。

――誰かに見られている。
そう気づいたのは、街に出て間もなくのことだった。

通りに入って食料品店に向かって歩いていたとき、視線があることに気づいた。
今の自分は顔無しの子供にしか見えないはずだ。
それなのに、全身に絡みつくような不快な眼差しを感じるのだ。
――もしや、誰かが私の正体に気づいたのか?
それなら早目に元の姿に戻って応戦をしなくては。
しかしユリウスはためらった。ここは繁華街で、周囲にはそれなりの人通りがある。
道のど真ん中でいきなり銃撃戦になれば、市民にも犠牲が出かねない。
――路地裏で元に戻り、刺客だけ手早く片付けるか。
ユリウスは道沿いを歩き――手近な角を曲がり、裏通りに入り、走り出した。
すると足音が追ってくるのが聞こえた。
――よし、かかった。
ありがたいことに刺客は複数ではなく一人のようだ。
顔無しの刺客なら戦闘に不慣れなユリウスでも十分応戦出来る。
何度か道を曲がり、完全にひと気のない裏道で、ユリウスは元の姿に戻ることにした。
「え……?」
思わず呟きが漏れる。

元に戻れない。
大人の『時計屋』の姿に戻れないのだ。

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