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■厄介な恋人4

「ん……ああ……だめ……やめ……」
ナイトメアはもがき、何とかグレイの頭を引き剥がそうとする。
だが股間に顔をうずめるグレイは、抵抗を完全に無視し、主のモノを愛撫する。
――もっと足を開け、隠すな。声に出して欲しがってみろ。
どれだけ暴れても半泣きで懇願しても聞く気配は無い。
――泣いても煽るだけだと言うのに……本当に男を誘うのが上手いな。
不本意かつ、乱暴な思考だけが途切れ途切れに聞こえてくる。
最も感じる部分を嘗め尽くすように丹念に舐められ、反応すればするほど、
ますます執拗になる。すでに何度も達している。
「あ……ああっ!」
頭が真っ白になり、何度目か分からない極点に達し、グレイはようやく顔を上げる。
口元をぬぐいながら茫然自失の態のナイトメアを見下ろす様に爬虫類の片鱗を感じる。
それでもすぐにすまなそうな顔を作り、
「俺なりの誠意は尽くしましたが……それでも不忠の極み、どうか御海容下さいますよう」
――そのうちやってもらう側に回るさ。いや、今無理やりにさせてみるのも……
何と言うか……普段からここまで本音と建前が乖離(かいり)しているのだろうか。
表の世界に戻ったら人間不信ならぬグレイ不信になりそうだ。
だが幸い、無理やりは思いとどまってくれたようだ。
その代わり再びグレイの思考は煩雑になり、読みにくくなる。
つまり……さらに欲望が熱く高まっているということだ。
さすがにナイトメアも青くなる。
「……つう!痛!」
後ろに異物感と鈍痛。
だがグレイは止めない。異物感と痛みは徐々に増し、不安も増す一方だ。
「ぐ、グレイ……」
少し震える声で懇願する。優しくしてくれ?やっぱり止めて欲しい?
自分の心の声だけは、夢魔のナイトメアにも分からない。
グレイは慈愛に満ちた瞳で見下ろし、
「……誘ったのはあなただ」
ふいに圧迫感が去ったが、それは一瞬だけだった。
グレイは素早く自らの下衣を取り去り、ナイトメアの足を抱き、すでに
限界まで大きくなった自分のそれを押し当てる。
「ま。待て、グレイ……」
「聞きかねます」
そして、そのまま一気に押し入った。
「――痛っ!痛い!ぐ、グレイ……!」
引き裂かれるような苦痛に涙が止まらない。声が枯れるかと思うほど悲鳴を
上げるが、普段はナイトメアを放っておかないグレイが、今は真っ向から無視する。
激しく身体を揺さぶられ、腰を打ち付けられ、痛みで何も考えられない。
だが涙でにじむ視界に浮かぶグレイも同じくらい苦しそうだった。
――愛してる、ナイトメア。俺だけの夢魔……。
偽りの無い心の声。容赦なくぶつけられる欲望。
「はあ……はあ……」
荒い息遣いはどちらのものだったか。
次第に痛みが薄れていく気がするのは、慣れか、ここが夢の世界だからなのか。
いつの間にか、グレイにあわせるようナイトメアも身体を動かし、彼を
より奥深くに迎え入れる。粘液の入り混じる淫猥な音が響き、疲れきったと
思われたナイトメアのモノは汁をふしだらに垂れ流している。
「ん……んん……」
炒られるような快感が脳を支配し、もう目の前の恋人以外何も考えられない。
「く……うう……あ……」
グレイの動きはさらに激しくなる。
互いに限界が近かった。
「はあ……あ……ぐ、れい……」
涙がにじんだ目で手をのばす。
「ナイトメア……」
瞬間に一気に最奥まで突かれ、耐え切れずナイトメアは達した。
直後にグレイも達し、二人は崩れるようにベッドに倒れこんだ。

………………

………………

「起きたときはひどかったですね。下着は元よりズボンから掛け布から洗濯行き
ですよ。他人に洗わせられるわけがないし、元に戻るまで放置も出来ませんから、
人気の無い洗濯場でこっそり洗ったんです」
「う、うん。私も、そんな感じだった……」
グレイはまた膝にナイトメアを乗せ、雑談に興じている。
起きたときは惨状だったが、ナイトメアの言ったとおりに表の世界への影響は
ほとんどない。興奮のためかナイトメアが微熱を発した程度。それも今は治っている。
「また夢の中に行こう。次は痛みを緩和して、お互いに楽しめるように……」
「そうですね」
同意はするが、グレイは内心不満だ。
あれだけ全身全霊の思いをナイトメアにぶつけたのに。
あれから十数時間帯しか経っていないのに。
あの体験は、二回前に見た夢のように記憶から薄れかけている。
記憶に刻みたいと思っていたナイトメアの顔や声もおぼろげにしか思い出せない。
現実世界で愛し合ったなら、今もハッキリ覚えているだろうに。
痛みを引きずらない代わりに素晴らしい思い出も消えてしまう。
丹念につけた所有の印も、表の世界では跡形も無い。
これほど悲しいことはない。
――誰とどれだけ楽しい時を過ごされても、無いもののように扱われてしまうのか。
グレイは少しだけ夢魔を哀れんだ。
「私に同情は不要だぞ、グレイ。お前に慰めてもらうほどじゃあない」
思考が伝わってしまったのか、憮然とした主の声が聞こえる。
「それに、私はハッキリと覚えている。私も夢みたいなものだからな」
「……ですが、俺は、やはり夢よりも……」
例え身体を傷つける危険があったとしても、現実の世界で愛し合いたい。
そうしてこそ、二人の間の絆をより強固に揺るがないものに出来ると思う。
「……なあ。一緒に旅行に行かないか?」
「え?」
唐突なナイトメアの提案に真意をはかりかねる。
「ハッキリと形に残る思い出なら、他にも作る方法はあるさ。
何もいつも下半身に直結する必要は無いだろう。一緒に旅行に行ったり、
手をつないで寝たり、出来る限りの一緒に過ごして…今はそれで我慢してくれ」
そのうち、健康になるから……。
最後に小さく呟くように言われ、グレイの口に笑みが浮かぶ。
いい加減に見えるが、彼なりに一生懸命なのだろう。
「そうですね。今はそれで我慢しましょう。俺も、あなたと過ごせるだけで幸せです」
そう言って、グレイはかがんでナイトメアに触れるだけのキスをする。
――とは言っても、調教しがいがありそうだから、なるべく早めに健康になって
いただかなくてはな。薬をこっそり増量してみるか……。
「ぐ、グレイ!!何と言う恐ろしいことを!!ていうか、医師の指示を無視して
薬を勝手に増やすのはかなり危険だぞ、いや本当に!!」
「ち。聞こえましたか」
「『ち。』って何だ、『ち。』って!!」
ぎゃーぎゃー言い出すナイトメアを無視してグレイはどこに行こうか思いをはせる。
仕事は片付いているから、突発的に今から行くのもいいかもしれない。
心が読める病弱な夢魔の恋人。
これからも大変で、厄介で、このうえなく楽しい恋愛が出来そうだ。
「本当に、あなたは子供のような呆れた方だ、ナイトメア様」
「……そんなところも好きなんだろう?読めるぞ?」
「読ませているんですよ」
グレイは笑う。

外は快晴。旅行には最適の日和だ。

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