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■自業自得・上

※エース×時計屋
※R18

時計工具を持つ手が震える。
歯車が二重にぶれ、焦点が定まらない。
限界だった。
――眠い……。

時計屋ユリウスはその時間帯も熱心に仕事をしていた……はずだった。
折りしも外は、鬱陶しいくらいの青空だったのだ。
まさに昼寝には最適な陽気。
「くそ……」
ユリウスはついに観念して、眼鏡を外した。
そのまま机に伏して仮眠を取ることにする。
――数時間帯寝たら、仕事を再開することにしよう……。
そして、そのまま夢の世界に落ちかけ、

「ユリウスーっ!!」

豪快に音を立てて扉が開かれた。
血まみれローブ姿の男がそこにいた。
「…………エース……」
「相変わらず陰気だな、ユリウス!」
つたない変装を解きながら、エースは上機嫌に戦利品の入った袋をかざす。
「時計を持って来たぜ!ユリウス!
四十九時間帯ほど遅れたけど、いつものことだから許してくれるよな!なっ!!」
と、悪びれない笑顔で言われて素直に許せるはずがない。
「分かっているなら少しは直せ!全くお前と言う奴は……奴は……」
「?ユリウス?」
エースの方を向いたまま、ユリウスはうつむき、船をこぎかけた。
「ユリウス?性的な悪戯していいか?いいよな。いいに決まってる」
「おいっ!!」
勝手に断定し、服に手をかけ始めたエースを怒鳴る。
「仕事が終わったなら、とっとと帰れ。報酬が欲しければ、適当に持って行け!」
「ああ、金はいらないぜ。ハートの騎士としての給料がちゃんとあるからな!」
「…………」
給料泥棒……いや、税金泥棒と言うべきか。ハートの国の民に少し同情する。
「というわけで、今回は現物支給で頼むぜ」
と、再びこちらの服に手をかけようとする。
「止めないか!変な場所を触るな、馬鹿者!」
からかっているのか本気なのか微妙なところだ。
それに、気持ちよく寝ようとしていたのに、これでは眠気が覚めてしまう。
「エース。私は今から仮眠を取るんだ。だから――」
「分かった。後は任せてくれ。まあ、寝たままじゃないと燃えられないのは枯れてる
とか何とかどこかの誰かが言っていた気がするけど、俺は正直、そういう決め付けは
どうかと思ってる。何事もやってみれば、そこに何らかの燃え要素があるもんだろ?」
「……何の話をしてるんだ、お前は」
相変わらず発想がそちら側の方向にしか行かないようだ。
このままでは眠気が本当に覚めてしまう。
こうなったら一計を案じるしかない。
「…………エース」
言うなりユリウスは、目の前の相手の顔を引き寄せ、唇を重ねる。
「……!?……ん……」
さすがに予想外だったらしいエースは目を見開く。
だが、すぐに目を閉じ、舌に舌をからめてくる。
「ん…………」
「……ふ……」
しばらく二人は口付けをかわし、やがて糸を引いて離れる。
エースは袖で軽くぬぐい、機嫌良さそうに、
「珍しいな、ユリウスの方から……」
ユリウスも笑顔でエースに笑い――エースの後頭部をスパナで殴打した。

――まあ、頭から赤い液体を流していたが、死んでないだろう……多分。

気絶したエースを放って、部屋から逃げ出したユリウスだった。

脳細胞は相当数破壊されただろうが元々瀕死状態な頭だからそれも問題ない。
一人で勝手に納得し、ユリウスは階段に腰かける。
そのままうとうとと眠りにつこうとし、

「ユリウスー!」
「!!」
目の前に、ポタポタと赤い液体を流す騎士がいた。

「ユリウス?」
「あ……いや、その、あれは手が滑って……」
怖い。
頭から赤いものを流した赤いハートの騎士。
ビジュアル的にも精神的にもかなり怖い。
だがエースはしきりに首をかしげながら、
「ユリウス、包帯とか持ってないか?何か俺、気がついたら、作業室の床で
倒れててさ。どうして頭に怪我したか記憶がないんだよな……」
「!!」
エースは嘘をついている様子ではない。ユリウスは遠くの方向を眺め、
「そ、それは気の毒にな。きっと刺客に襲われたのだろう。ほら、この包帯を使え」
作業中に汚れを拭くのに使っていた、ただのボロ布を出すと、エースは
『刺客なんていたっけかなあ…』と首をかしげながら頭に巻く。
「養生するといい。仕事はいいから、もう帰れ。ご苦労だったな」
親切を装って肩に手を置くと、エースは嬉しそうに、
「本当に優しいんだな、ユリウス。でもさ……」
突然、抱き寄せられ、唇を重ねられる。
「ぅ……」
「…………ん……」
そのまま、しばらく影が重なり合う。
「俺を気遣ってくれるなら、こっちの方が嬉しいぜ」
唇を放すとエースは笑って、舌を首筋に這わせてくる。
「……こら、止めろ……」
「はは。止めると思うか?」
眠気がまたも覚めてくる。先ほどスパナでぶん殴った罪悪感もあるし、
少しくらいいいか……と思わなかったでもなかったが、
「私は仮眠を取りたいんだ、邪魔をするな……っ!」
半ば意地になって、もがく。するとエースは傷に響いたのか眉間にしわを寄せる。
「っつう……、ユリウス、痛い……」
その隙を見逃さずユリウスはエースの身体を押し、
「あ!」
「…………あ……」
エースの身体が階段を転がり落ちていく。
悲鳴が聞こえなくなるまで耳をすまし、
「…………さて、寝るか」
何もなかったことにしてユリウスは階段を上った。

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