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■遭難ですか・下

「なあ、ユリウス。火をおこすより俺を脱がせたがったって。
……何かいやらしいよな、それ」
「いかがわしいのはお前の頭の方だ」
腕を振り払おうとする。だがエースの力は強い。
――待て、まさか、もう回復したのか?いや、それとも……。
考えたくはないが、あれだけ力を使って、実はさして消耗しておらず、弱ったフリを
して自分の悪戦苦闘を面白がっていたのでは……。
以前、俺は女の子を担いで断崖絶壁を登れるぜ、とうそぶいていた男だ。
本当にそうなのかもしれない。少なくとも、さっきまで瀕死と思われたその顔には
すでに赤みが戻り、疲労の気配は完全に去っている。
「待て、本当に待て。それなら二人でまず火をおこそう。
な?お前も身体が冷えたままなのは嫌だろう」
「……うん、だからさ――」
「『暖めてくれよ。お前の身体で』とか、言わないだろうな?
ハートの騎士が、そんな平々凡々たることを言わないよな!?
「えー、もちろん!言う気は無いぜ。でもユリウスは俺がそう言うと
思ってたんだな。うわ。やっぱりユリウスの方がいやらしいぜー!」
――……墓穴を掘った。
時々だまされそうになるが、この男は意外に口達者なのだ。
……断じて自分が迂闊なわけではない。
ユリウスは走ろうとしたが、エースが素早く起き上がり、後ろから抱きしめる。
「は、放せ……」
「ユリウスー、上半身裸で森を走るってどれだけ変態なんだよ」
「こんな野外でコトに及ぼうとするお前の方が変態だろうが!!」
「そうかそうか。俺たち、変態同士気が合うよな」
どれだけもがこうと、がっしり拘束され、離れられない。
「貴様とは金輪際、縁を切る!ば、馬鹿、どこを触ってるんだ」
「ええ?じゃあどこなら良いんだよ。ここ?それともここ?」
「……ぁっ……」
しまった。変な声が出た。
エースの勝ち誇った顔が見えるようだ。
いつの間にか調子を取り戻したエースと違い、ユリウスは未だに疲労を引きずった
ままだ。抵抗するにしても、力に差がありすぎる。
ほどなく川原の草むらに転がされ、上から覆いかぶさられる。
「うんうん。ユリウスが最初に脱いでてくれたから、流れが速くていいよな」
「勘違いするな!べ、別にお前のために脱いだわけじゃない!!」
「はは?照れ隠しの典型みたいな台詞を言うユリウスも可愛いぜ」
照れ隠しどころか厳然たる事実を述べているだけなのだが。
反論より早く、舌が胸の突起を舐めまわし、手は下半身を弄ぶ。
「や、やめ……あ……」
ユリウスより遥かに素早く手際よく衣服が剥ぎ取られ、
夕映えの下に全裸を晒してしまう。のしかかるエースは嬉しそうに、
「うんうん、一番きれいな姿をやっと見られて良かったぜ」
「……だから、そういう恥ずかしいことを素面で言うな……」
それでも少し赤くなってしまうのは、雰囲気のせいかもしれない。
「ん……」
唇が合わされ、口内を舌でねぶられる。
エースの肩に手を回し、抱き合うとそれだけで彼の熱が伝わってくる。
本当にエースの身体に暖められている錯覚を覚え、思わず己の正気を疑う。
「エース……」
「うん、大好きだぜ、ユリウス」
優しく微笑まれる。
その笑顔になぜか安堵し、力を抜いてエースの愛撫に身を任せる。
「……あ……ああ……」
下の敏感な箇所を手で執拗に弄られ、反応してしまう。
「はは。素直だなあ。可愛いぜ、ユリウス」
「この……」
つい起き上がり、エースの身体を抱き寄せる。
「ん?どうしたんだ?」
「お前ばかり……」
その後が続けられない。代わりに自分もエースの身体に手を伸ばす。
「ん……は……」
「…………くっ……」
抱き合う形で、互いに互いの身体に触れ、撫ぜ、刺激しあう。
気が付くと互いの×××は完全に起ち上がっていた。
「ユリウス、そろそろ……」
「……ん……ああ……」
糸を引き、エースの胸から舌を放す。
エースが頑強な身体を起こし、己の×××から流れる雫をユリウスの後ろに
こすりつける。その刺激だけでイキそうになるが、かろうじてとどめた。
「エース……早く……」
「ユリウスー、あんまり余裕無さそうだな。じゃあ行くぜ」
自分だって余裕がないくせに……と返せないほど息が荒い。
数瞬の間を置き、熱く硬い×××に全身に熱が走る。
待ちわびていた刺激に、それだけで声が漏れ、始まった動きに応えるように
自分自身も激しく動きを合わせる。
「はあ……ああ……ぁ……」
「く……ぁ……あ……」
もう刺激で頭も身体もやられて何も考えられない。
熱で浮かされた中、目を開けるとエースの顔が目に入る。
笑顔はなく、かすかに上気して行為に集中する様は、普段より好ましく見える。
不思議に、その顔を見ているとより激しい熱が内からわきあがってくる。
だが激しく揺さぶられ、熱は言葉になる前に散ってしまう。
せめてより強い刺激を得たくて、引き寄せるようにエースの背にすがりつく。
だが互いに十分高めあっただけに限界も近かった。
「……ん……っ!」
「ユリウス……もう……」
「ああ……」
目を見交わす。
瞬間、最も感じる箇所に激しく押しいられる。
「……あ……っ!」
熱い。彼の熱に支配され、もう何も考えられない。
意識が白くはじけ、彼の熱を中に放たれ、絶頂を迎えた。

…………

「げほっ、げほ……」
せきが止まらない。悪寒がする。頭が痛い。眩暈がする。
テントの中、ユリウスはぐったりと横たわっていた。
「ユリウスー、大丈夫かー?」
入り口が上げられ、エースがヒョイっと顔をのぞかせる。
「作業場に帰りたい……」
「あははは。それは出来ないなあ。なぜなら俺が迷い続けているからだ!」
「何でお前はそう元気なんだ……」
経緯はどうあれ、一応自分を助けて泳いでくれたエースと(中略)した。
実はその後、それだけでは終わらず、調子に乗ったエースが(中略)し、
仕方なく応えているとさらに(以下略)
……エースと夕刻の冷たい風に体力を吸われ、風邪を発病したユリウスだった。
エースは一応甲斐甲斐しく看病してくれるが、それよりも森の出口を探してほしい。
塔を出てから相当の時間帯が経過しているはずだが、人っ子一人会わない。
そもそもエースに森から出る気がないとしか思えない。
半端に優しくしてやったのが失敗だったかもしれない。
エースに未だ切迫感は見られず、嬉々としてユリウスを担いでは森を連れまわし、
夜になるとテントを設営しては中でユリウスを(以下略)
「ユリウス、欲しいものはあるか?ちなみに『俺』以外は受け付けないぜ」
熱でもないのに嬉しそうにうわ言をほざくエースに、
「エース……ひとつだけ、頼みが……」
「何だ?何でも言ってくれ!ただし豆腐の角に頭をぶつけて死ねとか
真綿で自分の首を絞めてみてくれとか、凍ったバナナで釘を打ってみろとか、
そういう後からじわじわ効いてくる頼みごとはお断りだからな!」
――いちおう、いたわってないという自覚はあるんだな。
というか、凍ったバナナは違うだろう。
――永久に森から出られないのでは…というか『出してもらえない』のでは。
何となく気弱になっていく。
「まあいい、とにかく早めに森を出られるようにしてくれ」
「ああ、任せておけ、今度の道は自信があるんだ!」
――もう『道』など歩いていないだろうが。

馬鹿に引きずられ、時計塔への帰還は遠のきそうだった……。

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