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■銃の点検

その時間帯、珍しくユリウスは時計の修理をしていなかった。
「たまには、こちらも見ておかないとな……」
そう呟き、愛用のスパナを銃に変えた。
そして、慣れた手つきで手早く分解する。
叩き、強度を確認し、汚れを拭き取り、磨耗具合を確認し、部品を交換する。
ほどなくして全部品の点検が終わった。
再び、ユリウスは銃を素早く組み立てると、軽く上にかざす。
「ふむ、構成は問題ないな。あとは……」
「さすがだなー、ユリウス」
「な……っ!!」
バッと振り向くと、作業机のすぐ横で、エースが椅子の背にもたれて座っていた。
「お、お前いつから……」
「言っておくけど、ちゃんと声かけたぜ?」
騎士は笑って肩をすくめる。
言われてみると、点検中に声をかけられた気もした。
だが、集中しすぎて頭に入らなかったのだ。
「ユリウス、一度作業に入ると自分の世界に入るんだからなぁ……」
「あ、ああ。悪いな」
「別に。いつものことだろう?」
気を悪くした風でもなく、笑う
「それに、見ていて楽しかったぜ? 銃の点検なんて皆得意だけどさ、
 やっぱユリウスの仕事が一番速いし、きれいだな。本当にすごいぜ」
「そ、そうか…?」
ストレートにほめられ、悪い気はしない。
ユリウスは戸惑ったように目をそらした。
それを眺めながらエースはユリウスの髪に触れる。
「ば、馬鹿、気色悪い真似はやめろ……」
「髪を触ってるだけだぜ? それとも、別のところ触って欲しい?」
「……この……っ!」
頭を殴ろうとすると、スッとかわされた……どころか、逆にその手をつかまれる。
「ユリウスの手って、荒れてるよなあ」
「……男が男の手を触るな、気持ち悪い」
だがエースは手を離さない。
撫でられ、観察され、別段変なことをされているわけでもないのに顔が赤くなる。
エースはポツリと呟く。
「この手で全ての時計を直すんだな。本当に器用だよな。ユリウスは」
「時計屋だからな。お前だって、剣士の手だろう。よく鍛えてある」
言って、何気なく手袋を外す。
剣の鍛錬を惜しまない手は、鍛えられ、力強い。
「はは……ユリウス、く、くすぐったいぜ」
「お前だって、私の手を触るのを寄せ」
そのまま、互いの手にしばらく触れ、ユリウスはふと考える。
――ちょっと待て、これは、いちゃついてる恋人そのものでは……。
急に、恐ろしく恥ずかしいことをしている気分になってきた。
しかしエースの方は相変わらず考えていない。
さわさわとユリウスの手を触りながら、
「ユリウスもさー、これだけ手先が器用なんだから、×××のときも、もう少し、
その技術を応用してくれないかなあ」
いらないことを口走った。
「なっ……!!」
バッと手を振り払い、立ち上がろうとする。
だがエースの行動はもっと早かった。
「捕まえた」
ユリウスの手首を捕らえると、逆の手で肩を引き寄せる。
そして制止する間もなくタイを引き抜き、右手をユリウスの上着の隙間に忍ばせた。
胸の敏感な箇所をいじられ、声が漏れる。
だがエースは
「エース、止め……い、今は、昼間で……」
「ユリウスー、おまえまで時間帯にこだわりを持ってどうするんだ。帽子屋さん
みたいにお茶会は夜とか、×××する時間帯まで指定されちゃ、俺、困るぜ?」
「だ、だから、今は……そんな、気分じゃ……ぁ……」
胸の突起を人差し指でいじられ、声がもれる。
「どこがそんな気分じゃないわけ? 
首筋にエースの舌が這い、敏感な耳朶がいじられる。
「う……あ……やめ……」
突起をいじっていた手が引き抜かれ、
「え、エース、何を……」
ユリウスの手をつかんで、エースのモノに触れさせようとする。
「ユリウスは器用だからな。今回は、その器用さを×××でも発揮してみないか?」
「――く、馬鹿にするなっ!」
カッとなって、自由の残された片手で今しがた分解した銃を取り、エースの額に突きつける。
「最終点検で実弾演習をする。お前の頭でな」
「ユリウスー、笑えないぜ。修理が失敗してて暴発したらユリウスまで時計が
壊れるじゃないか」
「……お前、さりげなく私の腕を信用していないことを暴露してないか?
 と、とにかく撃たれたくなければ猥褻行為をやめろ。私は仕事に戻る」
「あははは。うん。直すのは失敗してないよ。ユリウスの腕は正確だ。
――弾、入れ忘れてるのをのぞいてはね」
「何……!?」
そういえばエースは真横でずっと見ていたのだった。
「よっと!」
「っ!!」
銃をスパナに変える間もなく、エースは手刀でユリウスの銃をはたきおとす。
そして状況に対応しかねているユリウスを両腕で抱きしめ、口づけた。
「ん……んあ……」
舌がからみ、唾液の絡みあう淫猥な音が響く。
「ユリウスは、俺がこの部屋にいるとき銃なんて持たなくていい。
騎士の俺がちゃんと主君を守るからさ……」
「ん……ああ……そう、だな……」
「だから、たまには忠実な部下にご褒美をくれないか?」
「……調子に乗るな、馬鹿」
言いながら、ユリウスはエースの下半身に手をのばす。
「期待してるぜ、ユリウス」
「……その余裕面、すぐに崩してやる」
「はは。ユリウスの変態。それじゃ俺の台詞じゃないか」
「……いやそれ、お前、自分で自分を変態と……ん……」
微妙な突っ込みは再度のキスでふさがれる。
ユリウスの器用さが発揮されたかはともかく。
それからしばらくの時間帯、ユリウスの仕事が再開されることはなかった。

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